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特集 (1)明日海トート、妖しげで吸い込まれそうな美しさ

2014年9月10日更新
写真:「エリザベート」公演から、トート役の明日海りお=撮影・岸隆子 「エリザベート」公演から、トート役の明日海りお=撮影・岸隆子

 5年ぶりの再演、トップお披露目、トップ娘役退団、歌えるスターが多数出演と、話題がいくつも重なった今回の花組「エリザベート」。始まる前から大ヒット間違いなしとの呼び声も高かったのですが、幕が上がってみると予想をさらに上回る大盛況で、チケットは即完売。毎朝、数百人単位のお客さまが当日券を求めて並び、立ち見までぎっしりという状況が初日から続いています。

 初演時の衝撃は今も忘れられません。「宝塚でこんなことができるのか」というショックと、作品の素晴らしさに興奮冷めやらず。雪に始まり、星、宙……と再演が繰り返されても、魅力的な登場人物たちをその時々のスターが独自の個性で演じるので飽くことがなく、ビデオが擦り切れるほど何度も何度も再生したのは私だけではないと思います。

 再演はうれしいけれど、歌が命の作品だからこそ、歌えるキャストがそろった時にだけ大切に演じてほしい。そんなこだわりにも今公演はしっかり応えてくれました。とにかく穴がないんです。出演者全員の歌と演技が高いレベルを維持しているため、最初から最後まで集中を途切れさせることなく世界に浸れてしまう。“超チケット難”もやむなしと納得せざるをえませんでした。

――オーストリー=ハンガリー帝国の皇妃エリザベート殺害から100年経った今もなお、実行犯ルイジ・ルキーニは煉獄(れんごく)の裁判所で殺害理由を問われ続けていた。「皇后本人が死を望んだ」とうそぶくルキーニは、エリザベートと一緒に生きた人々を黄泉の国から呼び起こす……。

 1853年、自由気ままに生きていた15歳のエリザベートは、ある日、ロープから落下して意識不明に陥るが、冥界の入り口で黄泉の帝王トート閣下と出会い、命を返された。トートはエリザベートに一目で魅せられ、彼女自身が“死”を求めるまで、追い続けることを決意したのだ。

 やがてエリザベートは若き皇帝フランツ・ヨーゼフの元に嫁いだが、すべての実権を握っていたのは皇太后ゾフィーだった。自由を奪われ子どもも奪われ、何度も失意の底に沈みながら孤独だけを募らせるエリザベートのそばにはいつも、トートがいた。

 死が人を愛し、人が死を愛することはあるのか? エリザベートとトートが踊る“愛と死の輪舞”は、あらゆる人々をも巻き込んでいく――。

 黄泉の帝王トート閣下。妖艶(ようえん)な雰囲気と高い歌唱力が求められる、男役なら一度はチャレンジしてみたいであろうこの役に挑戦する明日海さんは、花組トップスターとしてこれ以上ない華やかなスタートとなりました。小柄でアイドル風なルックスからどのようなトートに変身するのか楽しみでしたが、ブルーグレーが混じったシルバーのロングヘアはサイドの髪が少しにかかるよう凝ったアレンジがされ、ダークなトーンのメイクも明日海さんの端正な顔立ちに映えて、その麗しさは完璧。妖しげで吸い込まれそうな美しさに満ちています。

 くしくも2009年月組公演の新人公演でトートを演じ、当時は“歌うこと”の難しさと格闘するのが精いっぱいのようでしたが、今では堂々のトップスター、その変化は別人かと見まごうものとなったに違いありません。線の細いイメージのあった歌にも力強さが加わり、「最後のダンス」「ミルク」などシャウト系のナンバーでは客席を圧倒し、「愛と死の輪舞」にはあふれるほどの切ない感情を乗せ感動を誘います。若干、優等生風味でさらりとした面も感じられますが、それがまた明日海トートの魅力であり、持ち味なんですよね。

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