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特集 (3)錯乱の中に懐の深さを感じさせた、鳳のガートルード

2015年3月17日更新
写真:「ハムレット」公演から、ガートルード役の鳳蘭(左)とハムレット役の藤原竜也=撮影・渡部孝弘 「ハムレット」公演から、ガートルード役の鳳蘭(左)とハムレット役の藤原竜也=撮影・渡部孝弘

 この悲劇の物語は、父に謀反し王位を奪った叔父クローディアスへの復讐が物語の筋だが、本作では王の死から間もなく叔父と再婚した母ガートルードに対する愛憎が、ハムレットを突き動かす根源にあるように見える。それがあらわになったのが後半、ガートルードの寝室シーンだ。とりわけ、ハムレットが母に罵声を浴びせ、馬乗りになって追いつめるシーンが鬼気迫る。母と息子の一線を越えるような光景に、場内に緊張感が走った。観客は皆、息をのんで見つめた。中には涙をぬぐう女性客もいた。息子に女としての部分を引きはがされ、ズタズタに傷つくガートルード。母を愛するがゆえに追いつめてしまう息子の衝動を、全身で受け止めるしかない悲哀が、魂ごと吐き出すような悲痛な叫び声から伝わる。

 そして二人の間に、エロスと退廃した空気がゆらゆらと漂う心象風景が見えた気がした。このシーンでの母と息子からは、女と男のにおいが感じられたからだ。それでも、かろうじて正気をつなぎとめたのは、母であることの尊厳だったのだろうか。鳳が演じるガートルードは、錯乱状態の中でも、どこか懐の深さを感じさせた。

 一方、藤原が演じるハムレットは、この人に追いつめられるとつらいと相手に思わせる鋭利さと、この人にだったら追いつめられても仕方ないと降伏させられるような、相反する気持ちを同時に抱かせた。理性では矛盾しているとわかっていながらも、人を本能的に引きつける何かが、藤原のハムレットから匂い立っているように感じられ、タイトルロールを演じ3時間半もの間、観客を引きつける彼の魅力の根幹が、このシーンに表れているように感じられた。

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