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特集 (5)突き詰めないと、物語が音楽に負けてしまう

2015年9月4日更新
写真:右から石井一孝、安蘭けい、中川晃教=撮影・宮川舞子 右から石井一孝、安蘭けい、中川晃教=撮影・宮川舞子

中川:とうこちゃんがやってきたいろんな役の中で、フローレンスは結構強いよね?

安蘭:本質的なところでね。

中川:自分の境遇すべてがその強さを作っているじゃない? 感情ではなく、精神が強くて、だから「Anthem」という曲に共感するんだと思うし、故郷は思い出の中だけにあると歌う。フレディはもう少し違った感じ方をするけれど、フローレンスとアナトリーは、ダイレクトに浮き立って見えるんですよ。

安蘭:確かにそうね。フローレンスは自分で背負う強さを持っている人だと思う。その辺は共感というより、よくわかるという感じ。こうなりたいという強さを持っている人だから。でも、皆が思う私自身の強さって、フローレンス的な強さじゃないかと。そんなことない?

中川:確かに。

安蘭:でも実は、それは自分の中で足りない部分なの。人には甘えないけれど、自分の中で許すような弱さとか、甘えてなまけてしまったり、人のせいにしてしまったりというところがあって。

中川:持たれるイメージはフローレンスだけれど、そうではない?

安蘭:フローレンスって見た目はたおやかで、竹みたいにしなっても絶対に折れないみたいな強さがある人だと思う。

中川:フローレンスがどういう人物に見えてくるかによって、俺たちが結構変わってくると思うんですよ。コンサートバージョンでは意外とそこが芝居というより、歌で聞かせて見せていくことが多かったけれど、ミュージカルになることによって、自分の役の在り方みたいなところを、もうひとつ肉付けできるじゃない? 肉付けされたときに、どんな風に、なぜこの人を好きになったのか、この人の何を見ているのかというところも含めて、いい意味で変わる可能性もあるよね。その辺が今回楽しみなの。

石井:そうだよね。フローレンスとフレディがけんかをしているところがたくさんあるんだよね。そこをアナトリーが見ているという設定ではないけれど、そういうシーンを見ていると、すごくふたりとも孤独な感じがするんだよね。付き合っているにもかかわらず、どんどん心が離れていっているのがわかる。フローレンスを愛するようになるのは、自分の中にあるのと同じような孤独、自由への渇望、国を捨てざるを得ない窒息感という暗い心情に自分を重ね合わせたからだと思う。奥さんと子供がいるけれど、申し訳ないけれど孤独なんだと思うんだよね。

中川:今、本当に自分の言葉のように聞こえたよ! 「奥さんと子供がいるけれど……」って。

全員:(笑)。

石井:でも、この人の気持ちわかるなというのが、恋や愛への第一歩だったりするじゃない? だから、フローレンスがどう映るかというのはすごく重要で、ミュージカル版になると、そこをもう少し掘り下げられると思うんだよね。そうすると、もっと心が変わってくるんじゃないかな。そこはミュージカル版の楽しみですよね。どういう風にフローレンスが描かれるかによって、フレディもアナトリーも変わりますね。

中川:例えばアメリカとか海外では、子供のときから、子供は子供部屋、夫婦は夫婦の部屋と寝室を分けるように、個を大事にするというか、プライバシーをすごく大切にするじゃないですか? だから大人になって、考え方も相手に依存しない。私は私、あなたはあなた、といういい意味で自分を持っているという認識があるんですが、この物語もそういう意味で考えると、それぞれにイニシアチブを持っているし、あなたが私の言うことを聞かないんだったら、私はセコンドをやめてもいいわよという、恋人同士とはまた別のところではっきりと自分というものを持っていると思う。

 だから、あなたがいないと私は生きていけないとか、今あなたに恋をしたとか、そういうわかりやすい物語ではないし、それを表現しているシーンはあまり見受けられない。むしろ自分の人生、自分の道を生きているそれぞれの川が流れていて、それが同時に大河のように結びついていくような印象があるんですよ。これが依存しあっている物語だったらもっと違う表現や感情を生み出しやすいんだけれど、そうじゃないからこそ自分を掘り下げて突き詰めていかないと、川にならない。物語が音楽に負けてしまうところがあるなと思います。

安蘭:国の問題とかがあるから、大人のミュージカルという印象があるかな。アナトリーとは大人の関係だけれど、私とフレディってけんかもするし、魂がぶつかりあっているんだよね。そういう意味ではすごく本音で言いあっていたふたりなのかなと思う。アナトリーとはけんかしないと思うの。

石井:うん。アナトリーは悲しいけれど完全に心を開かない人だと思うよ。本当の最後の扉は見せないから、だからけんかもしないでいられるんだと思うんだよね。

安蘭:そこには触れないで一緒にいるんだよね。

石井:傷ついているところには触れない感じがあるんじゃないかな。だから、よく言うと大人っぽいというか。

安蘭:そう。大人として割り切っている。

石井:言っても仕方ないことは言わないようにしているよね。

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