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特集 (6)ミュージカルとしてもうひとつ表現できる

2015年9月4日更新
写真:石井一孝(右上)、中川晃教(右下)、田代万里生(左上)、安蘭けい(左下)=撮影・宮川舞子 石井一孝(右上)、中川晃教(右下)、田代万里生(左上)、安蘭けい(左下)=撮影・宮川舞子

――最後に、「CHESS」のテーマを踏まえて、作品への意気込みをお願い致します。

石井:政治的なところを浮き彫りにするような結論を作家が念頭に置いて書いた物語だけれど、結局アナトリーもフローレンスも冷戦下で時代に翻弄(ほんろう)されたということがすごく強いなと思いますよね。本当にチェスが好きで、純粋に生きたかった人が、勝たなければいけないという重圧の中で生きた。想像すると、共産主義のチャンピオンってことを考えると、5歳くらいの適性検査で「君はチェスに向いてるね」みたいなことがあったと思う。割と早い段階で英才教育を施されて、それがゆえに逃げ場がなくなったんじゃないかな。チェスは日本人には理解できないぐらい、西洋人には重要な文化で、勝つか負けるかが国家的な争いだと言うんですよね。それを担う逸材だと育てられて、負けたらいけないというどこか恐喝的なことをずっと言われてきたから、心を開けない人になったんじゃないかなと。

 冷戦下でものすごく被害者だし、そして一番大事なことは家でも言わなくなっていったんじゃないか、だから奥さんともどこか隙間があって、フローレンスにも本当に求めていることを聞くことができなくて、どこか自分を守ってしまう。その結果、世界チャンピオンにはなったけれど、それと引き換えに失っていくものもある。だから、戦争がゆえ、時代がゆえのひとりの被害者なんじゃないかと。その刹那(せつな)とかも、フローレンス、フレディ、アービターと向かい合うことで、ミュージカルを通してもうひとつ表現できるんじゃないかと思います。

中川:アナトリーはフローレンスに共感して「Anthem」が生まれたのかな? それとも、元々「Anthem」を持っているのかな?

石井:設定がミュージカルでは逆になるんだよね。コンサートでは「Anthem」を歌ったあとに「亡命する。フローレンスと一緒に旅立つと決めた」というけれど、ミュージカルでは決断が先で、「Anthem」を後で歌うんだよね。インタビュアーにソビエトを忘れられるのかと聞かれ、僕は決して忘れないと言う。フローレンスの手を取って、その後に歌うから、そこは大きな違いがあるかな。

中川:「Anthem」は内容がここに生きている人たちのテーマ曲でもあるけれど、「CHESS」というミュージカルのテーマではなかったりもするから、アナトリーがあの精神を元来持っていたのか、何かが起こって歌い出すのかによって、全然歌の聞こえ方が変わってくるなと思って。

石井:今度の方がフローレンスと「Mountain Duet」で向き合って、そして被害者的な弱者とか、時代に流されそうなところをもがいている者同士が支えあって、歌いあうような感じがするね。フローレンスから渡されたものが歌わせる。祖国を捨てるべきかどうかというのは、もっと以前から悩んでいたと思うけれど、そんなに簡単に亡命なんてできない。それがフローレンスとだったら新しい人生をはじめることができるという決意が先にあって歌えると思うんだよね。それがストーリー的にはふさわしいと思うから、「Anthem」に対する導入がもっとスムーズになるかもしれないと思う。

安蘭:この物語のテーマであり、皆が求めているのは、心の自由と平和。それは今の時代にも「求めているからこそ戦う」と理由づけるじゃない? だからそれぞれが、どんな価値をもって、どういうジャッジをしていくかで、それぞれの平和と自由が全然違ってくるんだなと。それを、このミュージカルで考えてもらうことができるんじゃないかなと、今、思った。ひとつのチェスというゲームに全然違う価値観の人たちが集まってきているというところが大きなテーマで、結局は人生ってチェスのようなゲームなんだよと言っているむなしい感じなんだなと。

中川:その対比が出せるといいよね。

田代:僕は、政治とか戦争とか、翻弄(ほんろう)されているんだけれど、それを作りだしたのは人間で、時代に流されるというのもあるだろうけれど、時代を作っているのも人間。その過程で、うそや裏切りや愛が生まれて、その結晶体みたいなものがアービターで、そこを何かしら表現できたらと思います。改めて、いろんな歴史の勉強をしたら、知らないことがたくさんありました。チェスもこんなに奥深いものだと思わなかったし、オセロと同じぐらいだと思っていたから……。

全員:(爆笑)。

田代:オセロもすごいんだろうけれど! 僕は途中参加なので、これからもっとかみ砕いていけたらと思います。今日はすごく勉強になりました。

石井:皆で語るのは勉強になるよね。

――最後に中川さん、まとめてください。

中川:今のまとめでいいと思うんですが……(笑)。ぜひ、劇場に足を運んで下さい!

――ありがとうございました!

〈インタビューを終えて〉
 4人を前に、座談会を進行するのはなかなかの緊張感だった。話が専門的になると、そのスピードについていけなくなることも。この4人がそろっただけでもぜいたくな座談会になったと思う。撮影では安蘭さんを中心にじゃれあいながら盛り上がり、スタッフ陣も含めて、にぎやかな現場だった。インタビューの中で、役名ではなく、私は、俺はという言い方が多く、役に入り込んでいる印象があった。他のインタビューではもっと役を俯瞰してお話頂くことが多いが、コンサートを経て、より思い入れが強いのか、「CHESS」という作品がそうさせるのか……。個人的にもすっかりハマっているこの作品が、ミュージカルとなってどんな変貌(へんぼう)をとげるのか、公演を楽しみに待ちたい。

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◆ミュージカル「CHESS」
《東京公演》2015年9月27日(日)~10月12日(月) 東京芸術劇場 プレイハウス
《大阪公演》2015年10月19日(月)~25日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。
http://www.chess-musical.jp/

《筆者プロフィール》岩村美佳 フリーランスのフォトグラファー、ライター。舞台関係、ファッションなどを中心に撮影してきた経験をいかし、ライターとしても活動している。「目に浮かぶ言葉」を伝えていきたい。