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特集 (5)怖さに打ち勝つ、だから役者はやめられない

2016年5月20日更新
写真:霧矢大夢=撮影・Y.OZAKI 霧矢大夢=撮影・Y.OZAKI

――そして、4月には一人芝居「THE LAST FLAPPER」をされました。きっかけはなんだったんでしょうか。

 タイミングでしたね。一昨年、「I DO!I DO!」という作品で、初めて小劇場でミュージカルをさせていただいたんですが、小劇場独特の密度の濃い作品でした。その時と同じプロデューサー、同じ演出家、同じレッドシアターで、なにかしたいよね、となった時に、ゼルダをと言ってくださったんです。

――一人芝居ということで怖さはなかったんでしょうか

 ありました。でも、作品や役に出会った時はやるべき時だと思っているんです。すべてタイミングなんですよね。やりたいと思ってできるものではないので、そういう話をいただいたときは、自分にとって必要なタイミングなんだと思って。本格的なストレートプレーも初めてでしたし、それが「ひとりなんだ」って驚きましたが、すごく密度が濃い時間で、ぜいたくだなって思っていました。音響や照明など各セクションのスタッフさんもひとりずつで、お稽古が始まる前から密な打ち合わせをして、実際にお稽古をしたのは2週間ちょっとでした。その2週間ちょっとでセリフもすべて入れなければいけなかったけれど、役者としてぜいたくで、怖いけれどうれしいっていう気持ちでした。その怖さに打ち勝つから役者ってやめられないんだろうなって思うんです。

――怖さに打ち勝つ、これも自分との戦いですね。

 逃げ出したい気持ちに、ですかね。セリフも膨大ですから、忘れてしまったり、間違えてしまったり、そんなことが初日が開くギリギリまであったので、怖さはありました。けれど、各セクションの方々がサポートしてくださって、一人じゃないんだなと感じて。みんなで作っている作品なんだと実感できたんです。大勢の作品ではなかなか味わえないことでした。スタッフさんと“差し”で話ができる(笑)、演出家とも1対1で話ができるということは。

――そうですね、少人数ならではですね。

 それはとても楽しい作業でした。あり得ない特別な時間だということ、それをみんなが自覚していましたから。なかなか一人芝居なんてできないですし、各セクションの一人一人が切磋琢磨(せっさたくま)しながら作品を作る、その過程が楽しかったですね。

――一人芝居をされて得たものはなにかありますか。

 う~ん、何を得たかな……。あの作品は、華やかなりし日々の中で生きた二人、スコットとゼルダ。そのゼルダは精神を病みながらも客観的に人生を語っていく、それが芝居になっているんです。ドレスもメイクもない素の状態で、霧矢大夢でもなく、ゼルダそのものになりたいなと思って挑みました。もちろん自分を通したゼルダになるんだけれど、小劇場ですし、より自然な芝居をしたいと思っていました。大劇場のミュージカルだと、ボリューム感が必要だったりするけれど、小さな劇場なのでセリフも普段しゃべっているトーンでいい、出しすぎないように省エネでしゃべってと言われました。できるだけ抑えて、心からあふれ出る言葉がすっとセリフとなって出るということ……それができたとまでは言いませんが、経験させてもらえた作品でした。

――小劇場ならではの演出があるんですね。

 あとは、演出家から「けむに巻いてほしい」と言われましたね。ゼルダが観客に向かって語りかけて説明していく芝居なんですが、説明しすぎず、その説明する感覚をあと20%くらい引いて、とか、ゼルダがお客さま側に入ってきたと思ったら、ぱっとゼルダの世界に入り込んでしまってお客さまとの感覚を切ってしまう、とか、そういう「けむに巻く」ということを経験しました。

 大劇場ではすべてを伝えなきゃと思ってしまうけれど、その考え方はこの作品、この劇場のスペースにおいては考えなくていいと言われたんです。それはすごくおもしろかったですね。それで伝わるのかなと最初は不安でしたけど、置かれているシチュエーションはちゃんと伝わるから大丈夫と言ってくださって、「あ~こういう芝居もあるんだな~」と思いました。

――また一人芝居はしたいですか?

 今したいかと聞かれると、当分ごめんだぜって感じですが(笑)、できる機会があればぜひ。今回は東京公演だけでしたので、より多くの方に見ていただきたいなという気持ちはあります。とても大切な宝物になった作品です。

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