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特集 (3)ここにいてはまずい、芝居をしなければと思った

2016年10月7日更新
写真:伊礼彼方=岩村美佳撮影 伊礼彼方=岩村美佳撮影

――8月3日に舞台デビューから10年を迎えましたが、これまでについてお話をうかがわせてください。「テニスの王子様」で舞台デビューをして、「エリザベート」のルドルフ役で抜擢(ばってき)されてグランドミュージカルなどを経験し、その後いろんな思いでミュージカルから離れていたと思いますが。

 僕は新人でしたから、こんなことをいうのは失礼だと思うんですが、感覚的にここにいてはまずいという恐怖心にかられて、芝居をしなければと思ったんです。

――そのきっかけは何ですか?

 トート役の(山口)祐一郎さんと一緒に稽古していて、僕は新人ですが、芝居をつくるのにコミュニケーションを取るのはあたりまえだと思っていたんです。それまでどんな仕事でも、アルバイトのときでも、話し合ってひとつのものを作ってきました。その感覚で懐に入って話をしていたら、祐一郎さんは快く受け入れてくれて、「好きなようにやってごらん。僕も動いてみるから」と言ってくださったのですが、周りがざわざわしはじめたんです。そして、ストップがかかったんですね。トークショーでも自分らしく話していると「皇太子役のイメージが……」と言われたり。そういう細かいことからも危機感を感じましたね。こういう雰囲気と戦うには、僕自身がもっと芝居の経験値を増やさなければと思いました。

――伊礼さんは芝居をやりたくてこの世界に飛び込んだわけではないと思いますが、ミュージカルの現場でどうして芝居をやらなくてはと思えたんですか?

 音楽をやってる時は作詞作曲はもちろん、自分で自分の作品を作っていましたが、ひとりでやることに限界を感じていて、この世界に飛び込んでみた時、自分ではなく“役”を通して表現する楽しさを知ったんです。あれ、芝居を通して表現した方が素直になれるぞ、って。

――芝居をめざしてきたわけではなかったけれど、その環境に入ったときに自然とそう感じた?

 動機は音楽でちょうど伸び悩んでいて、迷っているときに、「テニスの王子様」にスカウトされてオーディションに受かり、こういう世界もあるんだと初めて知った。ライブのようなコール&レスポンスはないけれど、作品や役を通してお客さんに何かを伝えていく仕事が面白い、もっとやってみたい、芝居をちゃんとやってみたいと思ったんです。へたくそなりに、会話をすることがすごく面白かったんですね。自分が思っていることじゃないのに、自分のフィルターを通してセリフを言うと、相手から反応があって返ってくる……その会話のなかで心が動かされる経験をしたんです。音楽を通して味わったことがない感覚でした。

 音楽は僕が一方的に発信したものを、お客さんが受け取って返してくれて、一緒に作り上げていました。芝居は役者たちが稽古場で作ったものを、見て感じとってもらい、評価してもらうもので、お客さんは第三者なんですね。自分を置いておいて、役を通して見てもらうことで、もっといろんなことを伝えられるんじゃないかと思ったんです。

――そういうのを天職というのかもしれないですね。理屈ではないというか。

 もしかしたらそうかもしれないですね。

――ストレートプレーの現場に行ったら違っていましたか?

 もちろんですけど、芝居力はつけられましたね。ミュージカルと特に違うと思ったのは、やはり芝居しかないから、演出家がそこだけに目を向けている分、面白かったんです。

――ミュージカルに帰ってくるつもりでしたか?

 歌がありますからね、歌うことが好きだから、いつか戻りたいと思っていました。2年間ミュージカルに出なかったときは、やめたのかと思われていましたけど(笑)。そもそも、ミュージカルやめるっていう表現も変なんですよね。

――(笑)。帰ってきてくださってうれしいです。「王家の紋章」では「キャロル~」と歌うワンフレーズだけであんな芝居を見せるんだと感動しました。

 あそこに懸けていますから(笑)。「ピアフ」で共演した大竹しのぶさんの背中をみて、学んだことですね。「マルセル」と名前だけを5、6回呼ぶシーンがあったんですが、そのとき1回1回全部違う感情が見えたんです。短い名前を呼ぶだけでも、こんなにいろんな感情が出せるんだと。以前、村井國夫さんに「稽古場では先輩の芝居をみるのも勉強だ」と言われたのですが、本当にそうだと思います。作り上げていく過程も、失敗する過程も、作り直していく過程も見られるんですから。それは財産ですね。

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