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特集 (3)「アーサー王伝説」と「ランスロット」

2016年10月31日更新

 よくよく考えてみるとこの「アーサー王伝説」、タカラヅカにおけるラブストーリーの原則を逸脱する作品だ。通常、トップコンビはトップ娘役と多かれ少なかれ相思相愛であり、2人を引き裂く様々な苦難を乗り越えて愛を貫いていくのが、お約束のパターンである(なぜこのような原則が出来上がってしまったかについては拙著「宝塚歌劇は『愛』をどう描いてきたか」をぜひご参照ください)。ところがこの作品で最終的に相思相愛となるのはランスロット(朝美絢)とグィネヴィア(愛希)であり、アーサー王は2人を許し孤独を受け入れるという結末である。

 その点で、むしろタカラヅカ的原則にフィットしていたのが、2011年に真風涼帆(当時星組)が主演したバウホール公演「ランスロット」だった。この作品ではグウィネビア(早乙女わかば/「アーサー王伝説」のグィネヴィア)への愛と主君アーサー(天寿光希)への忠誠との間で苦悩するランスロット(真風)が描かれる。ちなみに、「アーサー王伝説」でも活躍するマーリン(如月蓮)、モルガン(夢妃杏瑠/「アーサー王伝説」のモーガン)、ガウェイン(麻央侑希)なども登場している。

 「ランスロット」は正しくタカラヅカ的な作品だったが、確かこの時もアーサー王を演じた天寿の芝居のうまさが光っていた。だが、どうやら珠城はそんな役どころをトップスターという立場で演じられる稀有(けう)な役者らしい。

 それを支える陣容も充実していた。宝塚の娘役としては難しい役どころを嫌みなく演じてみせたグィネヴィア役の愛希、爽やかな男ぶりでランスロット役としての説得力十分の朝美をはじめ、男役ながら妖女モーガンをインパクト十分に演じた美弥るりか、アーサー王の成長を温かく見守り続ける魔法使いマーリンを演じた千海華蘭、敵役メリアグランスとしてアーサー王と渡り合えるまでに成長した輝月ゆうま、忠臣ガウェイン、ウリエンとしてアーサー王を支えた紫門ゆりや、貴千碧など、適材適所なキャスティングが気持ち良かった。

 いま「芝居の月組」の伝統を背負った新生月組が新トップ・珠城りょうのもとでスタートを切った。最新のフレンチ・ミュージカルは、その船出を飾るにふさわしい一作に見事に生まれ変わっていた。

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《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で鋭く分析し続けている。主な著作に『宝塚読本』(文春文庫)、『なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか』(小学館新書)、『タカラヅカ流世界史』『タカラヅカ流日本史』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』(東京堂出版)など。2016年10月に『宝塚歌劇に誘う7つの扉』(東京堂出版)を出版。NHK文化センター講師、早稲田大学非常勤講師。

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