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特集 (3)北翔海莉にしかできない一作

2016年11月24日更新

 このように異彩を放つ作品を成立させてしまうのが、北翔海莉というスターの実力ではないかと思うのだ。そもそも「SAMURAI The FINAL」というサブタイトルがこれほど似合うスターもいないだろう。

 タカラヅカらしい衣装に頼れる場面も本当に少ない。途中、軍服で登場する場面ぐらいだ。それでも、内面からにじみ出るもので存在感を醸し出せるから主人公として成立する。これはほめ言葉なのだが、畑仕事にいそしむ農夫の衣装で銀橋をさらりと歩けるスターは、なかなかいるものではない。

 もちろん「野太刀自顕流」の達人であり、「人斬り半次郎」の異名を取った桐野利秋だけに、殺陣のシーンは見事だった。ちなみに北翔は、その「野太刀自顕流」の稽古のために、わざわざ鹿児島を訪れたとか。いかにも勉強熱心な努力家の北翔らしいエピソードである。

 ただイケメンでスマートなだけじゃない、むしろ癒やしと温かみを感じさせる。それこそが、彼女が多くの人に愛されるスターであったゆえんだろう。サヨナラ公演というものは、卒業するトップスターのエッセンスが凝縮されるものだと思うが、その意味で「桜華に舞え」は北翔海莉にしかできない一作であったと思う。

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《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で鋭く分析し続けている。主な著作に『宝塚読本』(文春文庫)、『なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか』(小学館新書)、『タカラヅカ流世界史』『タカラヅカ流日本史』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』(東京堂出版)など。2016年10月に『宝塚歌劇に誘う7つの扉』(東京堂出版)を出版。NHK文化センター講師、早稲田大学非常勤講師。