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この作品は沖縄の伊江島で起こった実話から、井上ひさしが着想したものだ。だが、2人の関係を「上官=日本人、新兵=沖縄人」という構図で見せたのはこの作品のオリジナルである。「日本国を守る」という建前のもとに行動する上官と、「自分たちの島を守る」と本気で思っている新兵。決して理解し合えない2人の間の溝は、木の上という閉ざされた空間の中で次第にあからさまになっていく。
それは端的にいうと「日本」と「沖縄」の関係の縮図でもあるということに、観客は気付かざるを得ない。時が経つごとにどんどん大きくなっていく米軍の駐屯地。上官はもはやそのことに無頓着だが、新兵にとってそれは「自分たちの島」が侵されていくことなのだ。
山西の上官はまるで典型的日本人を映し出す鏡のようで、見ていてつらい。何層もの「恥」という概念で自分を守っているが、その中身はずるくて醜い。当初は「敵国の食料を口にするなんて」と米軍の残飯を盗んで食べることを徹底拒否していたくせに、いつの間にか都合よくそれを忘れ、次第に太っていく。後半には本当に少し太ったように見えてしまった。しかし、それもまた人間。どこかユーモラスで、ふと笑ってしまいたくなるようなところがあるのが救いである。