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特集(5)美術・映像・照明、ロンドンの2氏が日本初登場

2011年5月10日

写真:劇団「スタジオライフ」

撮影・岩村美佳

――あらすじには「お母さんが人形を愛してしまう」とありましたが、これはどういうことなんでしょうか。

林:エリックの部屋のマントルピースの上に、陶器でできた羊飼いの人形があるんです。エリックは自分がこういう顔だから母親から愛されていないのが、わかっている。それで、あるときエリックは、母親の友達から、腹話術の本を誕生日にもらうんです。マドレーヌは危険だからと思って、その本をずっと隠していたんだけど、エリックは見つけて読んで、腹話術を会得していくんです。じつはエリックの声は顔とは正反対で、人を酔わせちゃうくらいの、天使のような美しい声を持っているので、腹話術でもって、その羊飼いの人形を歌わせるんです。マドレーヌはそれがエリックの声だとわかっているんだけど、魔法にかかったみたいに惹かれていって。エリックのことは我が子なのに抱きもせず、キスもしない、その替わりなのか何なのか、その人形を抱き、あやし始めるんです。

――歌も歌うんですか?

林:ミュージカルではないので歌はないですね。でも、腹話術のシーンは出てくると思います。それを、舞台上でどうやるのか…それも今、いろいろ考えている最中らしいです。

曽世:全編クライマックスだらけで、「これ、言っていいのかな?」ばっかりなんですけど(笑)。母親も人形に対してでしか、エリックに対する気持ちを素直に表せない。我が子を嫌悪している自分自体を、嫌悪しているんです。

――幼児虐待をしてしまう母親のようなものですね。

曽世:母親は、声はエリックだとわかっていても、人形だったら愛せるし、エリックも、人形でなら母親に愛してもらえる、お互いの妥協点の産物なんですね。

及川:子供を素直に愛せない母親の代償行為ですね。

曽世:これ以上詳しく言っちゃうとストーリーに大きく絡んでくるので、言えないんですけど(笑)。でも、エリックとマドレーヌの関係性の一番せつないポイントなんですよ。

林:その人形のデザインもマット・キンリーに委託してます。

――その方は特別な方なんですか? 「『レ・ミゼラブル』25年目にして創られた日本未公開のニューバージョン、その美術&映像を担当した」ということですが…。

林:ミュージカルの「レ・ミゼラブル」は25年ロングランしてきたんですけど、ロンドンではいったん閉幕した後、歌などはまったく同じで演出だけが変わったニューバージョンが上演中なんです。舞台美術なども変わったのですが、その、新しい舞台美術の担当をしているのが、マット・キンリーです。ちなみに、今日本でやってるレミゼは、これまでの古いバージョンを、今回限りということでやってるわけです。ニューバージョンのほうを日本でやるのは、来年か再来年あたりらしいですよ。だから、マット・キンリーの日本デビューはこの公演です。

――おお、すごい!!!

林:彼にとっては、スタジオライフが日本での初めての仕事なんです。レミゼにしろ何にしろ、ウエストエンドの舞台を日本でやる場合、演出から何から、まるまる同じものを買うんですよ。でも、今回はスタジオライフのためにオリジナルで創ってもらうという。

曽世:日本発注は初めてってことです。また、ロンドンのミュージカル界で旋風をまきおこしている、ニック・シモンズにも照明に加わってもらい、マット・キンリ―、ニック・シモンズ&スタジオライフがタッグを組んで行う、日本初となる公演となるわけです。

――なるほど、すごいですね。

及川:これ、成功したら世界に売っていけるんじゃないかって。

林:そのオリジナルキャストがスタジオライフ版になるってことです。なにげにね、すごいんですよ。

曽世:それをシアターサンモールっていう300人規模の劇場でやるのは、とても贅沢なことなんです。

――そうですよね。

曽世:演劇界においては、これは大事件なんですよ! まあ、気づいてくれればの話なんですけど(笑)

林:「ファントム」は、演出家の倉田が大好きで、ずーっと温めていた作品なんですね。いつやろうかと、ずっとタイミングをはかってた。それで、うちの劇団も25周年を迎えまして、26年目の新たなスタートを切るときに、やっぱり「ファントム」をやりたいと。でも、普通にやるんじゃ面白くないから、どうしたらいいんだろうと、ずーっと探してたんです。で、この間ロンドンで、ニューバージョンのレミゼを観に行ったら、マット・キンリーの美術がどーんと迫って来て、もう大ショック。「これだーっ!」と思ったらしいです。

――そうだったんですか。

林:でも、ロンドンのウエストエンドの、レミゼの美術をやってる人が、まさか日本の弱小劇団の美術をやってくれるかっていうと、普通、まずそこで尻込みするじゃないですか。そこがうちの演出家のすごいところというか、変なところで、「やってくんないかな〜」って(笑)。向こうにいる知り合いを介して、聞いたらしいんですね。そしたら、「いいよ〜」って(笑)。…ま、実際はそんな簡単な話じゃないんですけど。彼もたまたま、いわゆる「大劇場」じゃなく「小劇場」ものをやりたかったタイミングだったらしいんですよね。だから、「願えば、叶うのよ」って(笑)

――なるほど。

曽世:「トーマの心臓」のときも、そうでした。東京・中野の新井薬師にあった、誰も知らないような劇団が、誰もが知ってる「トーマの心臓」を上演させてもらうことを思いついたときも、周りの人すべてに「無謀だ」「無理だ」っていわれたらしいです。でも、とにかく突撃だ! と、企画書を持って小学館に直談判に行ったんです。

――そうなんですね…。

曽世:結局、当時、萩尾先生をずっと育ててらっしゃった小学館の編集長さんが、「よし、じゃあ俺が間に入ってやろう」ってことになって。

林:「トーマの心臓」は、それまでも映像化、舞台化のオファーがいっぱいあって、全部ノーだった作品なんですよ。それすら知らずに「これだー!」と言って、「あたしが企画書書いて、小学館に乗り込みます」って行って、「やりたいですー」って言っただけで、実現しちゃってるんですよね。

曽世:その編集長さんが、当時の作品を観てくださって、「ここなら大丈夫だ」って、萩尾先生にゴーサインを出してくださったらしんです。いつも、間に入ってくださる方のご尽力を非常にいい形でいただけるのですが、今回もそうだったみたいで。うちの演出家が「やりたいー!!」と心底思ったことに対して、ルートを築いてくださるんですよね。

林:今回もある種、そのトーマの初演のころの空気というか、そのくらいの勢いは、あるなと感じています。

――お話をうかがって「ファントム」への期待がますます高まりました! 今日はありがとうございました。

〈インタビューを終えて〉

 ずっとイケメン男優のお耽美劇団だと思い込み、ちょっと憧れていたスタジオライフ…その実態は意外にも、体育会系のアツい芝居好き集団だった。あの「かわゆい」女役の及川さんが、釣り好きのトリス好きだったとは…そのギャップもまた、役者としての魅力ということだろう。

 だが、その熱さ、その勢いこそが、かつて「トーマの心臓」の舞台化を実現させ、そして今、マット・キンリーやニック・シモンズという話題のデザイナーをも巻き込んでの「ファントム」舞台化を実現させようとしているのだとわかった。

 ロイド・ウェバー版の「オペラ座の怪人」は日本では劇団四季の定番演目だし、この夏には、タカラヅカがアーサー・コピット版の「ファントム」を上演予定だ。そして、スタジオライフによる、スーザン・ケイの小説の舞台化。アツき男優たちが、どんな「ファントム」の世界を創り上げるのか? オペラ座の地下から目が離せない夏になりそうだ!(中本千晶)

〈インタビュアー・プロフィール〉中本千晶(なかもと ちあき) フリージャーナリスト。宝塚歌劇やミュージカル、文楽まで、舞台の「なう」を追いかける。著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)などがある。

◆スタジオライフ公演「PHANTOM ‐THE UNTOLD STORY‐〜語られざりし物語〜」
《東京公演》プレビュー公演:2011年6月9日(木)〜6月10日(金)
本公演:2011年6月11日(土)〜6月27日(月)

於:新宿シアターサンモール
⇒詳しくは、「劇団スタジオライフ オフィシャルホームページ」へ

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