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特集(5)震災…できることがあるという幸せ

2011年7月14日

写真:井上芳雄

撮影・岩村美佳

――私は震災後、舞台稽古の取材以外で客席で初めて見た作品が、「ウェディング・シンガー」だったんです。日比谷が真っ暗で。やはり微妙な心持ちで席についたのですが、見せて頂いてエンターテイメントの力を実感したというか。お客様も皆さん楽しんでいらして、元気になるということをリアルに体感したのですが、井上さんにとってどんな期間だったのかを伺えればと思うのですが。

 皆そうですけれど、まさかそんなことになると思っていなかったし、僕達も「再演嬉しいね」と思いながら幕を開けて、劇場がクリエになってお客さんどうかなと思っていた最中だったので、びっくりもしたし、やっぱりある意味すごく人生観とかが変わるくらいのことだったなと思いますね。嫌が応にも突きつけられちゃったというか。この仕事をやっている意味とか、もっと言うと生きる意味というところまで考えました。皆考えたと思うんですけれど、大きかったですね。でもやっぱり最終的には、この仕事で、あのとき公演をしていて、それが「ウェディング・シンガー」で良かったなという風に思いました。やっぱり自分達で何ができるかということを考えたと思いますけど、できる事をやるしかない、できる事があるということがすごく幸せだなと思って僕達はやって、義援金を募ったりもしました。

 もちろん被災地の方々への為であるんですけれど、でもその方達のためだけに、僕達は毎日生きて働いている訳でもなくて。自分達の生活もあってそのうえで今は支え合いたいという時期だなと思いましたし、逆に言うと自分達の生活とか気持ちをキープするためにも、そういうことをやらなければいけなかった。やる必要があったんだと思うんですよね。持ちつ持たれつで、義援金を集めることで、自分達も今の日本に何か役立ってるんだっていう実感を持てて、それが舞台に立ってもいいのかなという肯定に繋がっていたと思いますし。結局は支え合うしかないんだなと思いましたし、そういうときにその人が普段どう思っているかとか出てしまう。色んなことを感じました。まだ今も終わっていないですけどね。

 あのタイミングで、僕があそこであの作品であの役をやっていたということが、きっとそういう運命というか巡り合わせで、自分にとって必要だったんだなと思いますね。やっぱり天災だから「なんで今ここでこんな災害が起こるんだろう」と思っても答えなんて出ないですよね。そういう意味ではそのときの状況にどういう風に対応出来るかっていうことだったなぁと思うし、一緒にそのときの仲間で何が出来るか考えました。

――多分お客様も見に行っていいのかなとか思っている時期だったと思いますし、舞台をみて「よかったんだ」と思って帰る空気を義援金のところで感じました。皆さんその答えを出して行かれている、あの明るい作品で笑って帰れていると感じたんですよね。

 公演を続ける続けない、見に来る見に来ないというのも正解はないと思うんですよね。見に来ない人がじゃあ間違いかっていうとそうではないし、見に来たら間違いかというとそうでもない。ひとりひとり来てくださった方にはそう思ってもらいたいなとは思っていましたね。自分達もですけど。

――いい空間だったなと思いました。

 そうですね。すごく…なんだろうな…一生懸命でしたね。もちろんその責任も感じてはいましたけれど。でも、それが反応となって帰ってきて、とても幸せだったなと思います。

――「三銃士」もこの色紙に書いて頂いた「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」というメッセージが、今だからと言う訳ではなく普遍的なテーマだと思います。とても元気になりそうな作品ですけれど、どんなところを特に見てほしいとか、こんな風にやりたいなどありますか?

やっぱりこのメンバーが見どころかな。作品はしっかりしているというか、話は普遍的なものであるし、ナンバーもちょっとドラマティック過ぎるんじゃないかというぐらいドラマティックないい曲が揃ってます。色んなタイプのキャラクターが出てきてますし、本当にうまく作られているという感じがします。

 さらに今、今回やる僕達の力を足して、そうしたらすごく面白いものになるんじゃないかと思います。そんなにシリアスなものではないけれど、ちゃんとテーマというか伝えたいものもあります。僕がやらせてもらうダルタニャンという少年が成長して青年になっていく過程を通して、これも普遍的なことですけれど、夢ばかりみていた理想に燃えていた若者が色んなことを知りながら前に進んで行く。しかも三銃士に支えられながらというしっかりした流れもあります。

 そしてこの時期に、この震災のあとにやるのにすごく合っていると思いますね。「ウェディング・シンガー」もそうだけれど、今この作品で良かったなと思います。

――今、そういう作品が多く感じるのは多分皆がそういうことを考えているからかなと。

 そうしたいという思いもあるでしょうしね。本当にこう、楽しんでもらいたいという思いに溢れている作品なので、楽しませようという。だからどうせやるならとことんやりたいなと思いますね。

――ありがとうございました。

〈インタビューを終えて〉

 実は「ウェディング・シンガー」を見たときに、こういう役の井上さんが悲劇よりいいなと思い、「三銃士」のダルタニャンに期待した。お話を伺い、井上さん自身の明るさとトークでの軽妙さが吹き込まれたダルタニャンに、血が通って息づいていく様子を思い描いた。キャスティングを見て抱いた期待は間違いないだろうなと。

 震災後に拝見した舞台のお話を聞けたことを感謝している。日比谷の暗い夜道を歩いて入った劇場の中で、人々が本来の姿で生きていた。あのとき賛否両論あったことは私自身記憶しているが、その中で公演を続けたことの意味は大きい。エンターテイメントの力を肌で感じた貴重な機会だった。

〈インタビュアー・プロフィール〉岩村美佳 フリーフォトグラファー、フリーライター。舞台関係、ファッションなどを中心に撮影してきた経験をいかし、ライターとしても活動している。「目に浮かぶ言葉」を伝えていきたい。

◆ミュージカル「三銃士」
《東京公演》2011年7月17日(日)〜8月26日(金) 帝国劇場
詳しくは、公式サイトへ
《福岡公演》2011年9月3日(土)〜9月28日(水) 博多座
詳しくは、公式サイトへ

 (関連リンク:井上芳雄オフィシャルサイト

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