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特集【公演評】アンナ・カレーニナ
恋の功罪を改めて考えさせられる

2013年2月13日
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 3度目の上演、ミュージカル「アンナ・カレーニナ」が2月5日に開幕した。原作である、ロシアの文豪トルストイの小説はあまりにも有名。恋によって破滅していく貞淑な人妻アンナを今回がファイナルとなる一路真輝が演じる。(フリージャーナリスト・中本千晶)

 この舞台、2011年の再演時にも個人的に観劇の機会があり、そのときの感想の記録を紐解くと、観た後に「どよーんとした気分になった」とあった。だが、今回はそうならなかった。不思議と最後まで冷静に観ることができた。ともすれば重苦しくなりがちなこの作品を、いかにエンターテインメントとして美味しく食べ応えのある舞台に料理するか? それが、再々演の眼目だったようだ。

 演出の鈴木裕美氏はお稽古の際に「恋に器用な人と不器用な人に分けましょう」という手法を用いたそうだ(「スターファイル」一路真輝インタビュー参照)。アンナとヴロンスキー(伊礼彼方)はもちろん「不器用な人」である。対するレイヴィン(葛山信吾)とキティ(遠野あすか)のカップルは、不器用そうでいて、じつは「器用な人」のカテゴリーだったとか。この区分けの効果か、アンナをはじめとした各登場人物が見事に客観視され、分かりやすく描き分けられていたことが、「冷静に観られた」ことにつながったように感じた。

 不倫で身を滅ぼすアンナという女性は、身勝手とも思われがちで、観客の共感を得るのが難しい。そこをどうクリアしていくのか? …今回、アンナを演じる一路も「少しでも、アンナを好きになっていただけるように」とプログラムでもコメントしている。だが、アンナを「恋に不器用な人」に組み入れる鈴木演出は、アンナに対して決して優しくはなかった。あまりにも純粋で世間知らずな女性が恋を知ってしまった結果、器用に身を処すこともできず、世間に潰されていくさまが、残酷なまでにクールに、ロジカルに描かれる。ゆえに、アンナに我が身を重ねて共感はできなかったけれど、客観的に見て、とても哀れな女性だと感じた。

 冒頭シーンのアンナの無邪気さが、後に起こる悲劇をすでに予感させる。一幕では和気あいあいと談笑する登場人物たちの生き様の明暗が、2幕では恐ろしいほどくっきりと分かれてくる。アンナとヴロンスキーに対比されるレイヴィンとキティの幸福な結末への道筋も、ストーリーの中の息抜き的役割というより、むしろその微笑ましさゆえに、アンナとヴロンスキーの悲劇性をさらに強調する役割を果たしているように思えた。

 ラストにアンナが死を選ばざるを得なかった理由も非常にわかりやすく描かれている。社交界での居場所を失い、ヴロンスキーにも失望し、さらに母としての役割も失ったアンナには、もはや「生きる場所」がなくなってしまったのだ。最期、息子セリョージャに向けて歌う場面には、鬼気迫るものさえ感じられた。アンナは死ぬことで、セリョージャと「ずっと一緒にいよう」とした。死ぬことでしか、息子を我がものとすることができなかったのだ。それは母の愛というお定まりの表現では言い尽くせない、むしろ母親のエゴ、母の狂気である。

 11年再演時とほぼ変わっていない主要キャストも安定している。伊礼のヴロンスキーは、さっそうとした軍服姿に品があり、登場した瞬間から目を奪われる。レイヴィン(葛山)とキティ(遠野)の2人はともすればバカップルになりがちなところを押さえてナチュラルに演じた。アンナの夫カレーニン(山路和弘)は堅物な外見の奥に秘められた何層もの複雑な感情をさりげなく表現してみせる。噂好きのベッツィ(春風ひとみ)は、アンナとヴロンスキーを取り囲む「世間」の代表のような存在としてのインパクトが強烈だ。唯一、アンナの兄スティーバ役の井之上隆志がミュージカル初挑戦で健闘。また、アンサンブル陣の中では、カレーニン家に仕えるアンヌーシュカを演じた福麻むつ美の芝居が目についた。

 この舞台をみて「やっぱり不倫はイケナイわよね」という公式通りの解答を導くのは簡単だ。だが、公式通りにいかないのが人生というもの。それでも「恋はしてしまうもの」だ。演出の鈴木氏がプログラムで述べているように、この作品で描かれているような宿命の恋は、「選ばれた人」にしかできない特権なのだ。凡人は好奇と羨望と嫉妬のまなざしで見守るしかないのかもしれない。

 だが、お気楽に「恋っていいわあ」ともいかなかった。やっぱり恋ってしんどいものだと思ったし、人生を100%恋だけにしてはいけない、と肝に銘じたくもなった。帝政ロシアの時代、束縛のなかで生きたアンナと違い、今の日本の女性には、そうした器用な自己管理も可能だろう。観た人それぞれが、自分の「恋愛スタイル」について改めて考えさせられる、それがこの舞台の効用ではないだろうか。

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【一路真輝インタビューはこちら】

◆「アンナ・カレーニナ」
《東京公演》2013年2月5日(火)〜17日(日) ル テアトル銀座 by PARCO
《大阪公演》2013年3月2日(土)〜3日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
《名古屋公演》2013年3月16日(土)〜17日(日) 名鉄ホール
⇒詳しくは、「アンナ・カレーニナ」オフィシャルサイトへ http://www.anna-karenina.jp/main/

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)、「なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか」(東京堂出版)。2012年11月に「ヅカファン道」(東京堂出版)を出版。Astandスターファイルでも「ヅカナビ」連載中。

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