マイコンテンツ

ここから本文エリア

特集【公演評】ロックオペラ モーツァルト
情熱と悲しみ、2つのモーツァルト

2013年2月21日
写真

 主役のモーツァルト役と宿敵サリエリ役を山本耕史と中川晃教が交互に演じている「ロックオペラ モーツァルト」が上演されている。2月17日に東京・東急シアターオーブでの上演を終え、22〜24日まで大阪・梅田芸術劇場で上演される。山本モーツァルト×中川サリエリの「インディゴバージョン」、 中川モーツァルト×山本サリエリの「ルージュバージョン」。ライバルとして描かれるふたつの役を2人の役者が交互に演じることにより、全く違ったカラーの作品に仕上がっており、その効果が明確に表れている。(フリーライター・岩村美佳)

 「ロックオペラ モーツァルト」は2009年9月にフランス・パリにて初演。翌年からフランス国内ツアー、ヨーロッパツアーを行い通算150万人を動員したフランスミュージカルで、日本初演となる。演出はブロードウェイで「スパイダーマン」などを演出したフィリップ・マッキンリー。天才作曲家モーツァルトの生涯を、宮廷作曲家サリエリとの対立を中心に描いている。特に日本版においてはサリエリにも光を当て、対比をより強く描いている。

 ふたつのバージョンは、もしかしたらどちらを先に見るかでその印象が変わってしまうのかもしれない。最初に見たときの新鮮な感覚で作品のイメージを記憶させ、次に見るときはそれと比較してしまう。私はまず「ルージュバージョン」を、次に「インディゴバージョン」を見た。この順にふたつを比較してみたいと思う。

 「ルージュバージョン」から感じたのはパッション。モーツァルトとサリエリの感情が爆発するエネルギーに圧倒された。中川が演じているモーツァルトは、モーツァルトそのもののように見えてくる。その中からは無邪気さを強く感じる。天賦の才とその純真さで人々に愛され、妬まれていく。圧倒的な歌声で天才モーツァルトの葛藤や情熱を表現する。対する山本のサリエリは、1幕での感情を押さえた冷淡な印象から、2幕で嫉妬や怒りを爆発させてしまう様が圧巻で、ハスキーな歌声は色気があり、狂気さえも美しい。自らの感情の動きに困惑する様や、特にその目が印象的だ。モーツァルトとサリエリ、ふたりがリアルに迫ってくる感覚が残る。

 「インディゴバージョン」では物語の終盤、何とも言えない苦しさが込み上げてきた。悩みもがく苦悩が深く打ち込まれたような余韻が残る。山本のモーツァルトはやんちゃでナイーブな心のアンバランスさに惹かれる。繊細な心のひだが垣間見え、悲しさや葛藤が迫ってくる。山本の歌声はまさにロック。歌が叫びとなって響く。中川のサリエリは神経質で陰湿な印象を受ける。1幕の狂言回し的セリフは、シェイクスピアの芝居のような抑揚がインパクトを残す。2幕の歌は、もはや押さえることが出来ない妬みや怒りをむき出しにして飢えた獣のような荒々しさだ。サリエリの苦悩が深く刺さる。それぞれの心の苦しみが浮き立ち、印象深く刻まれた。

 まさに「ルージュ」と「インディゴ」。「情熱」を連想させる「ルージュ」と、「悲しみ」を連想させる「インディゴ」が、実際の舞台から感じられたことは、偶然ではないだろう。物語のラストにモーツァルトとサリエリの声が初めて重なるとき、モーツァルトの人生とサリエリの思いの行き先を見届けたような、昇華された感覚が残った。違う道を通っても同じ場所にたどり着けるように、ふたつのバージョンにはそれぞれの道があった。それこそが山本と中川が交互に演じることにより生まれたふたつの作品ではないだろうか。

 オリジナル楽曲のロックとモーツァルトのクラシックが次々と入れ替わり紡ぎ出されていく構成が、独特の世界観を生み出し「ロックオペラ」ならではの魅力を描き出している。オペラのアリアからサリエリの魂の叫びへと繋がっていく場面など、印象的に耳に残る。また、メインの役だけでなくアンサンブルにいたるまで、衣装が華やかで特に目をひく。バロック、ロココ、モードがミキシングされ、アートな世界が広がる。美術は舞台空間を囲む大きな3つのフレームが、朽ちた額縁のようだ。むき出しのスチールの所々にアンティークな装飾が残る。舞台中央には回転する大きな八百屋舞台があり、様々な表情をみせる。舞台全体が視覚的にも楽しめる要素にあふれている。また、最近にはめずらしい映像に頼りすぎない立体的な見せ方が新鮮だ。

 主演の2人以外の役者もそれぞれ個性豊かに好演。様々な分野で活躍するキャストが化学反応を起こした。モーツァルトの妻コンスタンツェを演じる秋元才加(AKB48)は、健気で強いコンスタンツェを作り上げた。モーツァルトの父レオポルトを演じる高橋ジョージは、厳格さと深い愛情をバランス良く見せる。秋元と高橋は、自身の存在感や色が強いと思うが、いい意味でそれが見えず、役の魅力が立っている。また、「運命」を演じる鶴見辰吾は、変えることの出来ない「時」を存在感で表現し、セシリア(コンスタンツェの母)を演じるキムラ緑子は、表現豊かにしたたかな母を演じるがどこか憎めない。さらに、アロイジア(コンスタンツェの姉)を演じるAKANE LIVと、ローゼンベルク伯爵を演じる湯澤幸一郎が印象に残る。秋元とAKANEの姉妹対決は見応えがある場面だ。

 客席は連日満員の盛況ぶり。著名な演出家、俳優、関係者も数多く訪れ、エンターテインメント界においても注目されている今作。歴史を紡いでいく他の作品のように、この初演を皮切りに再演、再々演と続いていくことを期待したい。

【フォトギャラリーはこちら】

【中川晃教の写真語り 「ロックオペラ モーツァルト」はこちら 】

◆「ロックオペラ モーツァルト」
《東京公演》プレビュー公演:2013年2月9日(土)〜10日(日)
本公演:2013年2月11日(月・祝)〜17日(日) 東急シアターオーブ ※公演は終了しています。
《大阪公演》2013年2月22日(金)〜24日(日) 梅田芸術劇場メインホール
⇒詳しくは「ロックオペラ モーツァルト」公式サイトへ http://www.mozart2013.jp/

《筆者プロフィール》岩村美佳 フリーフォトグラファー、フリーライター。舞台関係、ファッションなどを中心に撮影してきた経験をいかし、ライターとしても活動している。「目に浮かぶ言葉」を伝えていきたい。

バックナンバー

宝塚歌劇一覧へ>> 舞台一般一覧へ>> 動画掲載記事一覧へ>> 過去記事一覧へ>>

過去記事一覧へ>>

ページトップへ戻る

Astandについて個人情報著作権利用規約特定商取引会社案内お問い合わせ