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特集【トピックス】ウィーン、ライムント劇場ルポ
より現代的に、より人間臭く「エリザベート」

2013年3月18日

 2月上旬のウィーンが思っていたほど寒くなく、まずはほっと胸をなでおろした。真冬のウィーンを訪れた目的は、2012年9月よりライムント劇場で上演中の「エリザベート」を観劇するため。ウィーンでの上演は実に7年ぶりとあって、平日・休日ともに満員の盛況で、週末は多くの観光バスが乗りつける。開幕間もなくの時期に一度観劇しているが、それから5カ月を経て、どのように変化したのかを確認したい気持ちがあった。(フリーライター・岩橋朝美)

 幕が開くなり、登場するのはおなじみイタリア人アナーキスト、ルキーニ。ルキーニがエリザベート(以下、シシィ)を暗殺したヤスリをモチーフにした跳ね橋を駆け上がり、彼の呼びかけによってハプスブルク家の死者たちが、まるで墓所から這い出るように舞台下からせり上がる。

 高低差を生かした装置や盆を多用し、観客の視線を縦横に動かす演出はウィーン版ならでは。ヤスリの跳ね橋やゆがんだ馬車など、ハプスブルク家に立ち込める暗雲をデフォルメした不吉なイメージのセットもまた、見る者の心をざわつかせる。

 今回の公演にあたってはキャストが一新され、エネルギッシュでいい意味で若さが全面に出ている。その筆頭格がアンネマイケ・ファン・ダム(Annemieke van Dam)演じる新生シシィだ。瞳が大きく可愛らしさをも備えた美人という点は、実際のシシィのイメージとも重なる。前回観劇時は緊張からくる硬さが見られたが、5カ月を経て大きく成長していた。

 彼女のシシィは正直でパッショネートであると同時に前半はセンシティブ、後半はアイロニックな面が際立つ。相反する性質が内在しているため、感情の起伏が大きく、ひとつの楽曲の中でも表情が多彩に変化するのが魅力だ。例えば、「私だけに」は高音域が広く透明感のある彼女の歌声もあいまって、若さゆえのアイデンティティーのゆらぎと、私は私だけのものという強い自我のバランスの危うさがビビッドに伝わってくる。

 また、2幕以降では、精神病院での「魂の自由」でとくに顕著なように、空しい戦いを続ける自分たちを皮肉るような笑みが印象的。すなわち、自分を客観的に捉える知性を備えた彼女は、自分の殻に閉じこもり悲劇のヒロインを演じることもできないのだ。

 このアイロニックなシシィ像は新鮮であるとともに、皮肉屋でユーモアがあったとの証言が残っているシシィの実像とも合致する。自分を俯瞰するもうひとりの自分の存在がいて、逃げ場がない。とても現代的なヒロインだ。そして、どんなに抑えようとも、内に秘めた情熱が怒りや反発という形でにじみ出てしまう人間臭さにも心を揺さぶられた。

 そんなシシィを死の世界へと執拗に導くトートを演じるのはマーク・ザイベルト(Mark Seibert)。過去には、日本でも近年人気を博しているミュージカル「ロミオ&ジュリエット」のウィーン版でティボルトを演じている。筋肉質で厚みのある肉体、骨格のしっかりしたゲルマン系の顔立ち、オールバックにした波打つブロンドなど、どこを切っても男らしさが際立つルックスだ。

 役作りも同様に男っぽく俺様な印象。一見ニヒルだが、思い通りになびかないシシィに苛立ち、時折彼女への愛を持て余すかのように粗野な行動をとる。黄泉の帝王(日本版でつけられた呼称で、ウィーン版ではそのような説明はない)のように一段上から見下ろしている存在ではなく、カリスマ性はあれどもっとラフ。ちなみにトートの衣装は、前回のクラシカルな燕尾服から今風のレザーコートへ一新。ワルッぽくセクシーな雰囲気で、シシィ同様、今まで以上に現代的なトート像を打ち出していた。

 ウィーン版は、トートとシシィの間には甘美な空気がほとんど流れず、常に互いをけん制しあいねじ伏せようとする激しいやりとりが見ものだ。また、ウィーン版のトートはシシィの心にある死への憧れを具現化した存在、すなわちシシィのもうひとりの自分という位置づけとされているにもかかわらず、そのトートが甘く優しい存在ではないのは、トート像にもシシィのアイロニックな視点や、死を求める一方で死を拒絶し自分らしく生きることに執着したシシィの引き裂かれた思いが反映されていると考えるのはうがちすぎだろうか。

 ちなみに今回より、日本ではおなじみながらウィーン版にはなかった「愛と死の輪舞」が追加されている。日本版ではトートがシシィへの愛を歌うソロナンバーだが、ウィーン版はデュエットで、シシィへの愛を自覚しながらも受け身のトートに対し、積極的に親しみを示すシシィが印象に残る。ゆえに、トートがシシィとフランツの結婚を自身への裏切りととらえる流れが自然でわかりやすかった。

 マーク・ザイベルトは歌声が甘く高音を気持ちよく張れるため、「闇が広がる」がとくに絶品。彼は7月に東京と大阪で開催される「ウィーン・ミュージカル・コンサート2」への出演が決まっているため、そこでぜひとも披露してもらいたいものだ。

 ほかにも、愛嬌がある一方で心に巣くう闇やシシィへの愛憎まみえる思いを感じさせるクロッシュ・アバシ(Kurosch Abbasi)の新しいルキーニ像や、フレッシュさの薫るフランツ、シシィとの共通点に富んだルドルフなど特筆すべき点には事欠かない。彼らについては、ぜひ有料ページでご堪能いただければ幸いだ。

 ウィーン版「エリザベート」は好評につき、当初の千秋楽である6月30日まで上演されたのち、秋から2014年1月までの追加上演が決定した。若きエネルギーに満ちた舞台が、今後どのように進化&深化するのか興味は尽きない。

【フォトギャラリーはこちら】

◆「エリザベート」2012年ウィーン版
告知映像やチケット検索はこちら⇒http://www.musicalvienna.at/index.php/de/spielplan/production/102951
※公演日によって、予告なく1stキャストに代わって2ndキャストが出演します。公演日によっては、記事で紹介している出演者が必ずしも出演するとは限りません。

◆「ウィーン・ミュージカル・コンサート2」(トート役:マーク・ザイベルト出演)
《東京公演》2013年7月5日(金)〜6日(土) Bunkamuraオーチャードホール
《大阪公演》2013年7月11日(木)〜15日(月) 梅田芸術劇場メインホール
《東京公演》2013年7月20日(土)〜22日(月) 東急シアターオーブ
⇒詳しくは、梅田芸術劇場 オフィシャルHPへ http://www.umegei.com/schedule/272/

《筆者プロフィール》岩橋朝美 フリーエディター、フリーライター。WEBおよび出版を中心に、企画、編集、取材、執筆を行う。エンタテインメント、女性、仕事など、幅広いテーマで活動。

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