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特集(6)史実かどうかが問題ではないラストの演出

2013年3月18日

写真:ウィーン、ライムント劇場ウィーン、ライムント劇場前で=撮影・岩橋朝美

 こうして、さまざまな人間を巻き込んだシシィの生涯は、ご存じのとおり、ルキーニの暗殺による突然の幕切れで終わる。この演出もまた秀逸だった。

 終盤のフランツの悪夢。沈みゆくハプスブルク帝国をイメージした揺れる船上で静かな悲しみをたたえた表情のシシィが座り込んでいる。トートとフランツのせめぎあいの中、船に近づいていくルキーニをシシィの目が捉えて、彼女はルキーニへすっと手を伸ばす。それを機に、ルキーニは暗示をかけられたかのように色を失い、トートから暗殺のためのヤスリを受け取るのだ。

 物語の外側にいたルキーニがシシィによって存在を認められ、シシィの人生に否応なく巻き込まれるというくだりは実に鮮やか。トートがシシィの幸せ=死と考えているのと同様、ルキーニも彼女の苦痛を和らげるために殺したように見えるのだ。史実ではルキーニが思いつきでシシィを暗殺したと証言しているためありえないが、なにせこの物語は、毎晩地獄で行われる裁判でルキーニが語る証言だ。ゆえに、百何十年の間に何べんと語るうちに、アナーキストのルキーニが、忌むべき体制側の人間である皇妃への憎悪を持ちつつも、リベラルで先進的な考えを持ち、あるがままに生きることを欲した個人としてのシシィに次第に共鳴していったとしても不思議ではない。

 ルキーニに刺され死したシシィは自ら黒衣を脱ぎ捨て、真っ白な衣装で、自分を迎えたトートとキスし死の世界へと誘われる。子供は時に現実と虚構の区別がつかなくなるように、生にも死にも等しく共感し身近に戯れていた少女時代から、自我を確立し死を意識して常に己とも周囲とも戦っていた大人の時代を経て、再び死と溶け合い肉体の死を迎える。

 オーストリア皇妃という特異な立場にあったエリザベートだが、彼女を通して描かれるコアな部分は誰しも身に覚えのあることではないか。ただ、彼女が特別だったのは、周囲を引きつけてやまない強烈な「磁力」があったこと。シシィという磁場に、トートがフランツがルドルフがルキーニが、そして観客が引きつけられる。

 「エリザベートにはかなわない」。――幾度となく見てなお心をかきみだされる数奇な物語は、冒頭で死せるハプスブルク家の一族が歌うこの一言につきるのだ。

◆「エリザベート」2012年ウィーン版
告知映像やチケット検索はこちら⇒http://www.musicalvienna.at/index.php/de/spielplan/production/102951
※公演日によって、予告なく1stキャストに代わって2ndキャストが出演します。公演日によっては、記事で紹介している出演者が必ずしも出演するとは限りません。

◆「ウィーン・ミュージカル・コンサート2」(トート役:マーク・ザイベルト出演)
《東京公演》2013年7月5日(金)〜6日(土) Bunkamuraオーチャードホール
《大阪公演》2013年7月11日(木)〜15日(月) 梅田芸術劇場メインホール
《東京公演》2013年7月20日(土)〜22日(月) 東急シアターオーブ
⇒詳しくは、梅田芸術劇場 オフィシャルHPへ http://www.umegei.com/schedule/272/

《筆者プロフィール》岩橋朝美 フリーエディター、フリーライター。WEBおよび出版を中心に、企画、編集、取材、執筆を行う。エンタテインメント、女性、仕事など、幅広いテーマで活動。

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