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特集【公演評】「百年感謝 これからもよろしく」
「吉本百年物語」最終章、華やかに

2013年4月1日
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 「吉本百年物語」の最終章となる3月公演「百年感謝 これからもよろしく」が大阪・なんばグランド花月で上演中だ。本作では、間寛平が扮する「笑いの神様」が登場。これまでの「百年物語」にまつわるストーリーが幻想的に脚色され、オムニバスのように展開していく。過去と現在を浮遊するような、摩訶不思議な作品だった。(フリーライター・岩瀬春美)

 2012年4月から続いた、吉本百年史を月替わりの芝居で振り返るシリーズの最終回。今作はファイナル公演だけあって、豪華絢爛なオープニングから始まる。「吉本花月はよーいよい」。瑞々しい声が会場内に響き渡り、和装の少女たちが銭太鼓を手に華やかに踊る。続いて河内家菊水丸が登場。林正之助少年の誕生を江州音頭に乗せて滑らかに歌い上げ、物語の世界へといざなった。

 3月公演は、吉本興業の元会長である林正之助がお笑いとともに歩んだ生涯を、いくつかのエピソードで振り返る。これまでの「吉本百年物語」の公演の中から印象深いシーンを抜き出し、それらを奇想天外でファンタジックなおとぎ話のように仕立てた。劇中では、回想シーンと並行して、寛平が演じる「笑いの神様」が子どもにお笑いの教えを語り、晩年の林正之助(江口直彌)が病床で過去をしみじみと振り返るシーンなどが交錯する。

 「吉本百年物語」初回の4月から2月公演までは、時代設定が定まっており、それぞれの時代を切り取って描いてきた。本作は、これまでの芝居とは違い、歌や踊り、短編の物語などを並べたレビューを観る感覚だ。

 開幕前に行ったスターファイルのインタビューで寛平は「今回は誰もつっこんでくれへんし、ボケる役どころでもないです。きちんと芝居をやりながら、子どもと何かできないかなと思っています」と話していた。劇中では、寛平とサルの格好をした子どもの2人だけのやりとりのシーンが微笑ましい。お笑いについて説く坊主(寛平)に対して、すべて「キキ!」と大きな声で返していく子どもザル。その中で「サルは5歳か……。見える」などとギャグを挟もうとする寛平。直球で返す5歳児を相手に、寛平がどう笑いを進化させてくれるのかも期待したい。

 本作では、出演者の年齢が幅広いのも特徴だ。日中戦争のとき、わらわし隊が中国に出向いたときの回想シーンでは、林正之助青年(亘健太郎・フルーツポンチ)がメンバーの柳家三亀松(黒田有・メッセンジャー)の行方を探しに中国の山奥をさまよう。そこで出会う老夫婦がじつは人を食う妖怪だった…という話だが、その老夫婦を演じているのが松竹新喜劇の重鎮、高田次郎と千草英子。実年齢81歳と82歳の大ベテランが、かかあ天下の夫婦関係を軽妙に演じているのも見ものだ。

 また今回は、フィナーレにふさわしく歌と踊りで祝祭的に色づけている。正之助青年の前に3姉妹の天女が現れる回想シーンでは、天女の妹の風(林明日香)が天に帰りたいと願う気持ちを歌う見せ場がある。林の高音は空間全体をベールで包み込むように繊細に響き渡り、会場内の注目を一身に集めた。また、正之助が昔作っていたという「花月乙女舞踊団」を再現するシーンもあり、昭和の少女歌劇のような彩りで華を添えた。

 これまで「吉本百年物語」を取材してきた筆者の胸に響いたのは、月替わりの公演のダイジェスト映像が次々と流れるクライマックス。「吉本百年物語」を観てきた人にとっては感慨深く、初めての人にとっても興味深いだろう。

 一般的に吉本というと、まず「吉本新喜劇」のイメージが先行するが、この月替わりの芝居シリーズでは、舞台の新たな可能性を見た気がした。「吉本百年物語」は、お笑いを通して時代を描き、人間ドラマをきっちりと見せ、そこに吉本ならではの笑いのエッセンスが加わった独創的な演劇だったと思う。各月の公演では、歌や踊り、漫才の再現など様々な試みを織り込み、同じテイストの作品がひとつもなかった。これまでを振り返ってみると、個人的な見解では、10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」が最も印象深い。呼吸や間合い、瞬発力など、芸人さんの持つ強みが芝居の中で融合されていて、吉本興業が創り出す芝居の真骨頂を見たような気がした。「吉本百年物語」はこの3月公演をもって一区切りだが、吉本興業だから創り出せる演劇をこれからも観てみたい。この世の中におけるお笑いの可能性を、芝居を通してもっと知りたい、と「吉本百年物語」の取材を終えた今、思った。

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◆吉本百年物語3月公演「百年感謝 これからもよろしく」
公演中〜4月7日(日) なんばグランド花月
⇒詳しくは、吉本百年物語公式サイトへ http://www.yoshimoto.co.jp/100th/monogatari/

《筆者プロフィール》岩瀬春美 福井県小浜市出身。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。シアトルの日本語情報誌インターン、テクニカルライター等を経て、アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当。2012年1月よりフリーランスのライターとして活動。

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