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特集【公演評】マイ・フェア・レディ
しっかり者の霧矢イライザ

2013年5月13日
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 日生劇場で開幕した「マイ・フェア・レディ」。言わずと知れた戦後ブロードウェイ・ミュージカルの代表作であり、オードリー・ヘップバーン主演で映画化もされている。日本では1963年に初演され、2013年の今回は、「日本初演50周年記念公演」とのこと。「この古典的な作品をなぜ今再び?」と思わないでもなかったけれど、いざ蓋を開けてみると、脚本・演出の工夫に演者一人ひとりのキャラクターも相まってか、意外にも古くさいとは感じず、新鮮な気持ちで楽しむことができた。(フリージャーナリスト・中本千晶)
※今回の「マイ・フェア・レディ」には、霧矢大夢さんがイライザを演じたバージョンと、真飛聖さんがイライザを演じたバージョンの2種類があります。公演評は、それぞれを別記事として2本掲載します。

 幕が上がると、いきなりロンドンの下町の世界に引き込まれるような舞台セットだ。左右両脇の建物のベランダの部分に音楽バンドが配されている。猥雑な下町と、クラシカルなヒギンズ邸とが巧みに切り替わりながら、物語は進んでいく。

 決して甘美なラブストーリーではない。イライザは自立を求め続ける凜とした女性として、ヒギンズ教授は確固たる自分の世界をひたすら追究し続ける男(今風に言うならいわゆるオタク?)という風に描かれている。どちらも、現代の女と男を映し出しているようだ。そして、そんな2人が、すったもんだの末にようやくお互いの必要性を認め合うという結末は、観客の共感を得られやすいのではないかと思った。

 ダブルキャストのイライザのうち、最初に観たのは霧矢イライザ。宝塚卒業後初めてミュージカルで「女性」を演じるということで、事前のインタビューでは「ちゃんと女子になれるのが心配」「イライザとともに自分も変わって行けたら」という話もあったが、どうしてどうして。初日の段階から十分に可愛らしく女性らしいイライザであった。

 宝塚時代も「ガイズ&ドールズ」のアデレイド役などで女役の経験もある霧矢だが、今回は宝塚時代の「男役があえて演じる女役」とはやっぱり別物で、「女子・霧矢大夢」のチャーミングさが自然とにじみ出ていたように感じた。宝塚時代から芝居巧者といわれた霧矢が見せるイライザは、たとえば、ヒギンズ教授の元に教えを乞いに訪ねて行くとき、僅かでもきちんと授業料を払おうとするところなどが丁寧に演じられ、ちゃんと地に足のついたしっかり者の女の子であることを感じさせる。

 また、たとえ貧民街の中にあっても常に純粋さを忘れていない女性であることが、一貫して伝わって来るイライザでもあった。初めて会った瞬間からヒギンズ教授やピッカリング大佐、ヒギンズ夫人の心をとらえたことも納得できる。大使館パーティーの場面での誇らしげな表情からは、強い向上心を持つ女性であることも伝わって来た。

 歌声もファルセット(裏声)を使いこなしており、宝塚時代の男役の歌い方とは変わっていた。まだ高音部が厳しい感はあったがヒロインらしい美しい歌声で、これからミュージカル女優としてやっていこうという意気込みを感じさせた。

 対するヒギンズ教授(寺脇康文)なのだが、これが最初はとにかく我が道を行く男で、女性からみると一見困った男である。歴代のヒギンズ教授のイメージには、中年の色気(?)を感じさせるようなところがあったと思うのだが(ゆえに、年上男の個人授業を受け、最後にハッピーエンドという展開があまり好きではなかったりしたのだが)、今回のヒギンズ教授には、それがあまり感じられない。むしろ若々しくてやんちゃでちょっとオタク、いかにも今どき風のヒギンズ教授である。

 霧矢イライザが、同性としてとても共感しやすい地に足がついた女性だっただけに、当初は「こんな自分勝手な男とはくっつかないで欲しい!」とさえ思った。だが、それゆえに、最後の最後にお互いが本音をぶつけ合い、分かり合って行く段階はぐいぐいと引き込まれた。実は彼には彼なりの「理想の貴婦人像」へのこだわりがある。それが明かされたとき、「ああ、この人ならイライザとうまくいくのかも」と初めて思えるのだ。

 ラストシーン、帽子で顔を隠しながら「ちょうど今、スリッパを探していたところなんだ」という呟きに、シャイな男心がにじみ出ている感じがしてきゅんとした。私は女性として今回のイライザに共感できるところが多々あったが、男性の観客の皆さんも今回のヒギンズ教授には共感できるところが多いのでは? ぜひ、ご覧になった男性の感想も聞いてみたいところだ。

 さて、イライザが変わると、この関係性も変わるのか? 続いての真飛イライザに期待することとしよう。

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【「マイ・フェア・レディ」(イライザ・真飛聖)公演評はこちら】
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◆「マイ・フェア・レディ」
《東京公演》2013年5月5日(日)〜28日(火) 日生劇場
《金沢公演》2013年6月7日(金) 金沢歌劇座
《福岡公演》2013年6月11日(火)〜12日(水) キャナルシティ劇場
《名古屋公演》2013年6月15日(土)〜16日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
《大阪公演》2013年6月21日(金)〜23日(日) オリックス劇場
⇒詳しくは、「マイ・フェア・レディ」公式サイトへ http://www.tohostage.com/myfairlady/index.html

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)、「なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか」(東京堂出版)。2012年11月に「ヅカファン道」(東京堂出版)を出版。スターファイルでも「ヅカナビ」連載中。

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