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特集【公演評】マイ・フェア・レディ
可愛く素直な真飛イライザ

2013年5月13日
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 5月5日に日生劇場で開幕した「マイ・フェア・レディ」。霧矢大夢と真飛聖、元・宝塚のトップスター2人がダブルキャストでヒロインのイライザ役を演じることも話題のひとつだ。霧矢イライザに続いて、今日は真飛イライザのバージョンを観劇した。(フリージャーナリスト・中本千晶)
※今回の「マイ・フェア・レディ」には、霧矢大夢さんがイライザを演じたバージョンと、真飛聖さんがイライザを演じたバージョンの2種類があります。公演評は、それぞれを別記事として2本掲載します。

 同じ役でも違う役者が演じると、こうも雰囲気が変わって来るのかというのが、やはり面白い。ひとことで言うならば、「健気で一途な」霧矢イライザに対し、「愛嬌たっぷりで可愛らしい」真飛イライザといったところか。霧矢イライザをみていると、思わず「がんばれ!」と応援したくなってしまったが、真飛イライザは見ていて微笑ましく、その変貌ぶりにワクワクさせられてしまった。

 霧矢イライザは自立心の強いしっかり者の女の子で、自らの努力でつかみ取った貴婦人の座だったが、真飛イライザはとても素直で、ヒギンズ教授の教えを吸収してあれよあれよという間に貴婦人になってしまいましたという印象を受けた。それに、ちょっと抜けたところもあって、思わず構いたくなってしまう女の子でもある。英語レッスンの場面も、霧矢イライザの場合は手に汗握る真剣勝負だったが、真飛イライザはヒギンズ教授も面白がりながら教えている感じに見えた。

 真飛が宝塚時代に演じた娘役としては、ミュージカル「雨に唄えば」のリナ役が強烈に印象に残っている。この役は、変な声を持つサイレント映画時代の女優の役だが、真飛は娘役姿の美しさと妙な話し方のギャップでもって客席を大いに沸かせたのだった。この「声芸」は今回のイライザ役でも健在だ。とくにアスコット競馬場の場面では「習ったことが今ひとつマスターし切れていない」話しぶりが細かく工夫されている。おなじみのドレス姿は抜群に似合うのに、言葉遣いは何だか妙な女の子が上流階級の人々を煙に巻いて行くさまは、何とも愉快だった。

 今回、脇を固める登場人物もそれぞれユニークだ。まず何といってもイライザの父ドゥーリトルが何とも味わい深い存在感で印象に残った。決して奇をてらい過ぎず、貧しい庶民のユーモアとペーソスをしみじみと醸し出す。ヒギンズ邸の場面の少人数芝居に対し、このドゥーリトルが登場する下町コヴェントガーデンの場面は歌って踊る群衆芝居となっており、メリハリが効いている。ドゥーリトル役の松尾貴史はミュージカル初挑戦とのことだが、それをまったく感じさせず、むしろ群衆シーンのセンターでの歌や踊りを楽しんでいる余裕さえ見せた。

 ヒギンズ邸でイライザを見守る2人、ピッカリング大佐(田山涼成)とピアス夫人(寿ひずる)。ピアス夫人は、変人の多いヒギンズ邸の住人の中で唯一、的確なバランス感覚を持ち合わせて家をしっかり取り仕切っている感じが頼もしい。また、今回のピッカリング大佐は、ヒギンズ教授とは世代も近い親友同士という関係性で、二人の掛け合いのリズム感が心地良い。イライザが家出してしまったとき、「俺が淋しいんだヨ」と言いながら探しに出かけてしまう姿が印象的だった。

 ヒギンズ夫人(江波杏子)は、優雅さに加え、上流階級の夫人らしからぬユーモアと茶目っ気も感じさせた。「言葉の力でもって身分格差も乗り越えてみせる」と信じて疑わないヒギンズ教授は、世間のしがらみや常識にとらわれないフラットな精神の持ち主ともいえるわけだが、「この母にしてこの息子あり」というのが納得できてしまうキャラクターだった。

 日本でも「格差社会」という言葉が定着するようになった今、この作品からもまた、新たなメッセージを受け取ることができるのではないか。自らの努力と周囲の人々の後押しによって、身分格差を逞しく乗り越えていこうとするイライザの姿は清々しく、「上を目指す」ことを諦めがちな今の日本人への激励でもあると思う。そこに、今この作品が再演される意味もあるのではないだろうか。

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【「マイ・フェア・レディ」(イライザ・霧矢大夢)公演評はこちら】
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◆「マイ・フェア・レディ」
《東京公演》2013年5月5日(日)〜28日(火) 日生劇場
《金沢公演》2013年6月7日(金) 金沢歌劇座
《福岡公演》2013年6月11日(火)〜12日(水) キャナルシティ劇場
《名古屋公演》2013年6月15日(土)〜16日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
《大阪公演》2013年6月21日(金)〜23日(日) オリックス劇場
⇒詳しくは、「マイ・フェア・レディ」公式サイトへ http://www.tohostage.com/myfairlady/index.html

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)、「なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか」(東京堂出版)。2012年11月に「ヅカファン道」(東京堂出版)を出版。スターファイルでも「ヅカナビ」連載中。

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