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特集(3)感情を解放した時、生を実感できた

2013年5月21日

写真:伊礼彼方撮影・岩瀬春美

――役者の世界に入ってからも、伊礼さんの核にあるものは変わらなかったということでしょうか。

 変わらないですね。人は幼少時代に過ごした経験に左右されて生きていると思うんです。皆それぞれだと思いますが、幼少時代に受けた影響は、人格を作り上げる上で、大きな核になっていると思いますね。

――伊礼さんがおっしゃる幼少時代というのは、アルゼンチンですか? それとも、その後の日本でのことですか?

 両方ですね。物心がついてからの話ですが。

――どちらかがより強く影響しているわけではなく、両方?

 両方ですね。日本に来た結果、こういう仕事にも就けたし、いろんな方とも出会えたので、それはすごく感謝しています。もしアルゼンチンにいたら、たぶん真逆の仕事をしただろうなと思います。

――真逆の仕事とは?

 公務員とか。多分、エンターテインメントではない仕事をしたと思います。

――どうしてそう思われるのですか?

 僕は小さい頃、勉強がすごく好きだったんです。おやじが取っている新聞を読んで、記事を勝手に切り抜いて、自分の感想を書き込んだり、先生に見せたりしていた時期があったんですよ。それが面白かった。

――勉強が面白いと感じていたのですね。

 面白かったですね。恐竜とか、どうやって地球が出来上がったのか、とか。あとは聖書や、イエスキリストの話や、宇宙の話など、そういう自分では想像もつかないようなことを勉強するのがすごく好きだった頃があります。

 日本に来てからは、言葉がわからなくなってしまったので、その勉強はしなくなりましたけどね。まずは言葉を覚えることに必死だったので。当時は、とにかく生きることに一生懸命でした。

――日本に来てチャンネルが変わった、みたいな感じでしょうか。

 それはありますね。良くも悪くもいろんな経験をしたおかげで今、自分はこうやって生きていると思うと、やっぱりすべてを受け入れないといけないと思いますし。

――すべてを受け入れる。

 人はいいことは受け入れられます。でも、悪いことや、嫌だった思いも受け入れて、それを改善していく努力をしていかないと、人間が大きくならないんですね。まだまだ課題は残っていますが、まあ死ぬまでにはできればいいと、僕は長い目で見ています。自分の過去を、だいぶ受け入れられるようにはなりましたけどね。

――ご自身の過去について、今も受け入れようとしている最中なのですか?

 そうですね。たぶんこれは自分について回る課題だと思います。そんな暗い話とかではなくて、単純に自分が進んできた道を認める必要がある。過去の自分を認めてあげることで、今の自分が楽になり、さらに前へ進んで行ける。その中でも、あれはまだ認められていなかったな、と気付くときもありますね。それが、幼少時代からずっと根に持っているものとつながっていることもあるので。

――すごく冷静にご自身のことを分析されていますね。客観的にご自身を見つめて、過去とどうつながっているのかをきちんと考えていらっしゃる。そして消化…。それを消化と言っていいのかわかりませんが。

 もちろん消化もしていけています。そうですね、冷静に分析する…。楽しいですよ。

――辛くはないですか?

 いえ、今はそれ以上につらい経験はしていないですね。

――それ以上…。

 たとえば昔、変なあだ名を付けられていたこととか。今だと笑い飛ばせるようなことが、子どもの頃はすごく傷ついたりするものがあるじゃないですか。今はそれも受け入れられる態勢ができているので、何を言われても怖くないし、痛くも何ともないと思える。過去の自分を受け入れることで、それがどんどん自分の鎧になっていく感じですね。

――それでたまに、心がチクッとするようなことがあると、過去の経験を振り返り、気づくことがある。

 それはあります。こういうことをためるからなんだなとか。

――ためる?

 僕は元々、内気だったんです。しゃべることが苦手で、自分の思いを一切、人に伝えられませんでした。でも伝えていかないと、風船のようにどんどん空気がたまって限界がくるじゃないですか。そういう限界が、精神的に人を壊したりするわけですよ。

 そんな経験を経て、勇気を出して自分の意見を言ったときに、ものすごく解放されて、生きている実感が沸いたことがありました。じゃあ、なんで今言えたのだろう、なんで今までは言えなかったのだろうと分析していく中で、自分の思いを伝えることが、自分を解放できるとともに、相手の思いも必然的に知りえることがわかってきました。

 結局、解放したいのは感情なんですよ。嬉しい、悲しい、怒りとか、喜怒哀楽を抱えたときに、それを出すことによって初めて解放され、生きている実感を覚えたんです。

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