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特集【インタビュー】独立して1カ月、伊礼彼方に聞く
「一人の人間として存在したい」

2013年5月21日

 舞台やミュージカルで幅広い役をこなし、活躍の場を広げている俳優の伊礼彼方。この春、伊礼は5年間所属していた事務所を卒業し、自身の会社「KANATA LTD.」を設立した。朝日新聞デジタルでは、新たなスタートを切った伊礼に、これまでの道のりから現在の思いまで、じっくりと話を聞いた。俳優という枠を越えて、一人の人間として向き合ったインタビュー。今の伊礼彼方につながる、その歩みがしみじみと語られた。(フリーライター・岩瀬春美)

 アルゼンチンと日本、二つの祖国を持つ伊礼。幼少時代の両国での経験が「人格を作り上げる上で、大きな核になっています」と話す。アルゼンチンで過ごした時期は、勉強がとても好きだったという。「おやじが取っている新聞を読んで、記事を勝手に切り抜いて、自分の感想を書き込んだり、先生に見せたりしていました」。その興味は、地球の誕生や、恐竜、聖書、宇宙の話など多岐にわたり、「自分では想像もつかないようなこと」を知ることに夢中になった。

 伊礼が小学生の頃、アルゼンチンから日本へ。異文化の中に放り込まれた。新天地での日々は「とにかく生きることに一生懸命でした」と振り返る。「日本に来てからは、アルゼンチンでしていた勉強はしなくなりました。まずは言葉を覚えることに必死でしたので」。生きていくために、好きなこと、やるべきことの優先順位が変わった。そして伊礼は「しゃべることが苦手で、自分の思いを一切、人に伝えられなかったんです」と言い、当時は内気な少年だったと打ち明けた。「たとえば昔、変なあだ名を付けられたこともありました。今だと笑い飛ばせるようなことが、子どもの頃はすごく傷ついたりするものがあるじゃないですか。今はそれも受け入れられる態勢ができているので、何を言われても怖くないし、痛くも何ともないと思えますが」

 子どもの頃に味わった苦しみに、時間をかけて向き合ってきた伊礼。「人はいいことは受け入れられます。でも、悪いことや、嫌だった思いも受け入れて、それを改善していく努力をしていかないと、人間が大きくならないんですね」。そんな思いで過去を受け入れ、前へと進んできた。その道のりでいろんな人に出会い、「居場所」を作ってもらってきた。伊礼にとって芝居は、自身と周りの人をつなぐ、大切な居場所のひとつ。

 会社の設立もそうだ。「今ここが自分の居場所になるように、常にオープンマインドでいようと思っています。そのためにはもっといろんな経験をして、人をぐっと巻き込めるような人間になりたいです」と伊礼は語る。また今の伊礼には、こんな思いもある。「ここ20年ぐらい、高学歴が当たり前の時代がありましたが、僕は中卒なんです。でも学歴がなくても道はあるんだ、こういう生き方もありだよというのを示したいです。人に示すことによって、過去の自分を受け入れることにもなるので」。自身の経験から学び、血肉にしている、伊礼がそんな生き方をしているのは明白だ。ただ、学びの場が学校ではないだけの話。

 5月18日からは、舞台「キフシャム国の冒険」に出演し、東京、福岡、大阪を巡る。2012年の「リンダ リンダ」に続き、作・演出は鴻上尚史。ファンタジックな冒険物語の中に、東北の被災地を訪ねた鴻上のメッセージが込められる。「一見、震災とはかけ離れているように見えますが、その中に大事なテーマが織り込まれています。全体的にはコメディタッチの作品ですが、最後にはすごく深いものが残ると思います」と伊礼。本作で伊礼は、主人公の王子がキフシャム国の王になるのを阻もうとする悪役と、冥界の見張り番、現実世界での夫役の三つを演じる。「観客に何かを投げかけることもあれば、批判する役もあるし、言葉では説明できない役もあります」。役を通して、観客の気持ちを引き出すのが自身のテーマだという。

 伊礼は言う。「もちろん、役者としてこういう仕事をしたい、ああいう役をやりたいという目標はあります。でもそれは、目的ではありません。僕はまず、一人の人間として存在したい。それに、現実の世界の真実を知ってこそ、夢を与えられると思いますので」

 俳優、伊礼彼方の第2章は始まったばかりだ。

〈伊礼彼方さんプロフィール〉
1982年神奈川県生まれ。中学生の頃から音楽活動を始め、ライブ等に出演しながらミュージカルと出会い、2006年、舞台デビュー。以後、「エリザベート」「アンナ・カレーニナ」などミュージカルで活躍する一方、「今は亡きヘンリー・モス」、「港町純情オセロ」などのストレートプレイや朗読劇、システィーナ歌舞伎などジャンルや役にこだわらず幅広くその活躍の場を広げている。鴻上作品には、音楽劇「リンダ リンダ」(’12年6〜8月上演)以来の参加となる。

◆「キフシャム国の冒険」
《東京公演》2013年5月18日(土)〜6月11日(火) 紀伊國屋ホール
《福岡公演》2013年6月15日(土)〜16日(日) キャナルシティ劇場
《大阪公演》2013年6月22日(土)〜23日(日) 森ノ宮ピロティホール
⇒詳しくは、「キフシャム国の冒険」公式サイトへ http://www.thirdstage.com/knet/kifushamu/

◆「ONE−HEART MUSICAL FESTIVAL 2013夏」
《東京公演》2013年7月12日(金)〜18日(木) シアタークリエ
⇒詳しくは、「ONE−HEART MUSICAL FESTIVAL 2013夏」公式サイトへ http://www.tohostage.com/festival/

◆「ジャンヌ ―ノーベル賞作家が暴く“聖女ジャンヌ・ダルク”の真実―」
《東京公演》2013年9月5日(木)〜24日(火) 世田谷パブリックシアター
⇒詳しくは、世田谷パブリックシアター公演情報へ http://setagaya-pt.jp/theater_info/2013/09/20139.html
《兵庫公演》2013年9月28日(土)〜29日(日) 兵庫芸術文化センター・阪急中ホール
⇒詳しくは、兵庫芸術文化センター公演情報へ http://www1.gcenter-hyogo.jp/sysfile/center/top.html

(関連リンク:伊礼彼方オフィシャルウェブサイト) http://www.kanata-ltd.com/

《筆者プロフィール》岩瀬春美 福井県小浜市出身。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。シアトルの日本語情報誌インターン、テクニカルライター等を経て、アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当。2012年1月よりフリーランスのライターとして活動。

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