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特集(3)真面目な問題提起の多い作品

2013年5月23日

写真:「月雲の皇子 ―衣通姫伝説より―」より「月雲の皇子 ―衣通姫伝説より―」より、木梨軽皇子役の珠城りょう(写真右)、衣通姫役の咲妃みゆ(中央)、穴穂皇子役の鳳月杏(左)=撮影・岸隆子

 この作品、演出家・上田久美子氏のバウホールデビュー作である。決して甘ったるい恋愛劇ではない。むしろ壮大な歴史のうねりの中で個人の愛憎をもすべて押し流されていく感じで、哀しくも見応えのある一作となっていた。本でも何でも、処女作には創り手のエッセンスが凝縮されるといわれるが、だとすると上田氏の今後の作品も楽しみだ。

 そもそも、国というものが当たり前に存在すると信じている我々日本人にとって、日本という国もまた、こうして血を流しながら形成されて行ったのかと思い知らされるのは衝撃だ。作品の中で、「歴史は何のために記録されるべきか」についての、問答をするくだりがある。弟の穴穂は「歴史の記録は権力者が国の安定と強大化のために行うべきもので、そのために都合の悪い事実は修正削除があっても仕方がない」と信じて疑わないが、兄の木梨は「その時代に生きた人々のまことの心を伝えるためのもの」だという。

 何が歴史上の真実で何が嘘なのか? 嘘かもしれない「物語を紡ぐことの意味」は何なのか? 古今東西あらゆる時代を題材に取る作品を上演するタカラヅカだけに、タカラヅカ自身の存在意義さえも問われているようで、ヅカファン道を邁進する者としても考えさせられる。真面目な問題提起の多い作品だった。

 主演3人の役も、それぞれに振れ幅が大きく、演じ甲斐のあるキャラクターになっていた。木梨も穴穂も1幕では雅やかなプリンスであったのが2幕では一気に豹変する。その変わりようも見事だったが、ともに善と悪、光と影の二面を持つひとりの人間としての説得力を感じさせた。咲妃みゆ演じる衣通姫は、男性と言葉を交わすことを禁じられた巫女のため、幕開きからしばらくは台詞がまったくないという難役。それでも、神に仕える巫女としての清らかさの中に、本当は快活なおてんば娘であるという気性を上手く垣間見せていた。 

 加えて、この3人以外にも面白い役どころが多かったのも良かった。中でも、新境地を開いたと感じたのは大中津姫役の琴音和葉。博徳の輝月ゆうまの名老け役ぶりは想像の範囲を軽く超えていた。演技派娘役の咲希あかねや若手の晴音アキといった人にも見せ場があったし、2幕の殺陣シーンでは貴千碧らを筆頭としたダンサー陣の活躍も見られた。

 可能ならば2回、3回と観たかった…というわけで、東京での再演をここで密かに期待しておこう。物語の展開も役者の動きもダイナミックな作品だけに、もう少しキャパシティーの大きい劇場でも十分いけるはずだ。入団6年目の珠城りょう以下、若手中心の今回のメンバーが少しキャリアを重ねたときにこの作品がどうなるかも是非観てみたいところだ。

写真:「月雲の皇子 ―衣通姫伝説より―」より「月雲の皇子 ―衣通姫伝説より―」より、木梨軽皇子役の珠城りょう(写真中央)ら=撮影・岸隆子

◆「月雲の皇子 ―衣通姫伝説より―」
《宝塚バウホール公演》2013年5月2日(木)〜5月12日(日)
※公演は終了しています。

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。1967年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。2000年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。12年11月に「ヅカファン道」(東京堂出版)を出版。

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