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特集【公演評】人間の業と悲恋描く「綺譚 生田川」
大和悠河、伝説の乙女を熱演

2013年6月11日
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 兵庫に伝わる「菟原処女(うないおとめ)」の伝説をもとにした、音楽劇「綺譚 生田川〜能 求塚より」が、6月1日、2日、兵庫県立芸術文化センターにて上演されました。その美しさから2人の男に慕われたことで、運命に翻弄される乙女・ウナイを大和悠河さんが熱演。切ない人の業と悲恋の伝説を、幻想的に、時にユーモラスに、アートな音楽劇でじっくりと表現しました。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

 その昔、菟原処女という美しい女が、2人の男から求愛された苦悩の末、生田川に身を投げた。女の死を嘆く男らも刺し違えて命を落とし、哀れに思った人々が「塚」を築くが、菟原処女の魂は死してなお罪深き己に悩み、地獄の業火に焼かれ続けるという―。「万葉集」や「大和物語」、森鴎外の戯曲「生田川」にも描かれた、あまりにも切ない「菟原処女」伝説。でも、そのさまよい続ける魂が、現実に生きる人間をも巻き込んでしまうとしたら…? 舞踊、歌、立ち回りを取り入れ、物語は独自の演出でエンタテイメント性豊かに進行していきます。

 西国から都への道中、風雲坊(津川●汀)(●は束の右に鳥)と雲海坊(津川祀武憙)は、徳高き僧の天雲上人(月登)にお供しながら「求塚」を訪ね歩いていた。だが村人たちは皆、その言葉を聞くだけでなぜかよそよそしくなってしまう。地沼丈太郎(塩谷瞬)、小竹田雄之助(鈴木拡樹)という2人の若い武士も「ウナイ」という女を探していたが、村人たちはその名を聞いてもやはり突然、口をつぐんでしまうのだった。やがて、僧らの前に突然、美しい娘(大和)が現れ、求塚にまつわる話を始めるのだが…。

 ウナイを演じるのは、元宝塚の男役トップスター大和さん。2009年に退団した後はガラリと変身し、いまや紛うことなき美人女優となりました。2人の男のみならず、周囲の人間をも魅了してしまうウナイは、大和さんが持つキラキラオーラの求心力が最高に生きる役かもしれません。ミステリアスな雰囲気を漂わせ、無意識に人々の心を惑わせるウナイの罪深き魅力を、山村若氏が振り付けた優雅な舞いで表現しているのもみどころです。

 ウナイを巡って争う2人の若い武士には、塩谷さんと鈴木さん。どちらもキリッとした武士の姿が凛々しくて、特に鈴木さんは、劇中で「きれいな武者人形」と何度も呼ばれるのが納得の美しさ。ウナイを愛するのは自分だけという強固な意志に突き動かされる様を、塩谷さんは熱く豪快に、鈴木さんは静かに強く、対照的な色を出しながら演じていました。

 物語のテーマは重いのですが、脇を固める個性的なキャラクターたちがいい具合に柔らかさを加えています。風雲坊と雲海坊は、双子かと思うほどのコンビネーションでボケとツッコミを繰り返しながら客席を笑わせ、さらに若芽摘みをしていた里の女4人もコミカルで、必死にウナイを求めるシリアスな2人の武士とのコントラストが絶妙でした。

 やがて求塚にまつわる真実が明らかになってきました。鎮められたはずの彼らの魂はいまだ成仏できず、なんと2人の男は若い武士に憑き、ウナイを求めて斬り合うことを、何年にもわたって繰り返しているというのです。天雲上人は、その終わることのない苦しみからなんとか彼らを救い出そうと、ついに求塚へとたどり着くのですが…。

 長い年月に渦巻く3人の妄執は重く、特にウナイと天雲上人の対決は迫力満点。照明・音楽・舞踊を駆使した演出で、大がかりなセットはなくても地獄絵図に苦しむ大和さんがドラマチックに浮かび上がります。

 演奏はキーボードとパーカッションのみという今回の形態にも驚かされました。舞台の左右に位置する2人の演奏ですべてを担うシンプルさに最初は戸惑ったのですが、実際に始まると、人物の動きに合わせた音のバリエーションが多彩すぎて、たった2人で演奏しているとはとても信じられないほど。まさに圧巻の「音楽劇」でした。

 物語のテーマは深く、天雲上人の手によってめでたしめでたしになったと思った瞬間に、あっと驚く結末を迎えます。理屈でははかれない人間の業。そして、人を愛する気持ちの複雑さ。意表を突く展開は、観劇後の余韻を深く心に残すことでしょう。

 兵庫ゆかりの伝説を、兵庫が誇る芸術文化センターで上演することが、今回の意義の一つでもあったのではないでしょうか。大和さんが青春時代を過ごした宝塚も兵庫。地元に密着した作品に、ほのかな愛着を感じていたかもしれません。

【写真】音楽劇「綺譚 生田川〜能 求塚より」公演より=撮影・飯島隆

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◆音楽劇「綺譚 生田川〜能 求塚より」
《兵庫公演》2013年6月1日(土)〜2日(日)
※公演は終了しています

《筆者プロフィール》さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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