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特集【公演評】謝珠栄演出、4年ぶりキャスト一新
朝海ひかる主演「天翔ける風に」

2013年6月14日
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 ロシアの文豪・ドストエフスキーの「罪と罰」を幕末に舞台を移し、大胆に翻案した野田秀樹演出の「贋作・罪と罰」。主人公を女性志士に改変したこの戯曲に着想を得た謝珠栄が、セリフの妙味を活かしつつミュージカル化したのが「天翔ける風に」だ。2001年の初演以来再演を重ねてきた本作が、4年ぶりにキャストを一新して登場。現在、東京・シアタークリエにて6月25日まで上演中、次いで大阪・梅田芸術劇場「シアター・ドラマシティ」にて6月29日〜30日まで上演される。(フリーライター・岩橋朝美)

 三条英(さんじょうはなぶさ・朝海ひかる)は、優れた頭脳と剣の腕を持ち、女ながらに江戸開成所の塾生として学んでいる。新たな時代の到来に混乱を極める幕末の世に、変革を求める英は「ひとりの悪人を殺し、万の善人を救う」という思想にとらわれ、強欲な金貸しの老婆を殺害してしまう。しかし、偶然そこに居合わせた老婆の妹までも手にかけてしまったことから、思想と罪の意識の狭間でさいなまれ始める。そんななか、事件の担当刑事・都司之助(みやこつかさのすけ・浜畑賢吉)は英に疑惑の目を向け、英の親友・才谷梅太郎(さいたにうめたろう・石井一孝)は彼女の身を案じるが……。

 幕開け早々にまず目を引いたのは、登場人物の心情や世の中の空気を巧みに表した映像だ。朝海演じる主人公・英が思索にふけりながら上手から下手へと歩く冒頭では、蜘蛛の巣のような映像が彼女の背後を追いかけ、彼女の不穏な心の内をさらけ出す。英が老婆殺害を実行に移す場面では、赤い炎のような映像が登場人物たちを焼き尽くすように重なる。また、回転扉を多数設置し、両サイドに階段をしつらえた二階建てのセットが観客の視線を縦横に動かし、畳みかけるように進行するサスペンスフルな展開の助けとなっていた。

 英を演じる朝海は、その中性的でクールなルックスが独自の哲学を持つ女志士のイメージそのもの。殺人をきっかけに狂気の淵へと追い詰められていく英を、大量の台詞をもろともせず熱演している。これほど激しく感情を表す演技をする朝海を見るのは初めてで、彼女の新境地を見た気がした。歌に関しては声量不足などやや課題が見えるが、舞踏のような華麗さをたたえた殺陣など見どころは数多い。

 彼女の同志であり、実は歴史上の大人物でもある才谷役・石井は白眉の演技。「思想よりも金」と豪語し柔軟な考えを持ちながら、自身と正反対ともいえるストイックな英を支える才谷の包容力をしっかりと感じさせる。同志から男女の愛へと変化する英と才谷の関係にも説得力を与えていた。

 そのほか、英と手に汗握る攻防を繰り広げる刑事(浜畑)、政治の裏舞台を暗躍する資産家・溜水(たまりみず・吉野圭吾)、貧困に苦しむ家族のために溜水と愛のない結婚をしようとする英の妹(彩乃かなみ)、酒で人生を踏み外した英の父(岸祐二)など、実力派が演じるキャラクターの緻密な人物造形にも目を奪われた。とくに彩乃のたおやかな存在感と清廉な歌は、宝塚歌劇団の娘役時代を彷彿とさせた。

 また、プリンシパルを支えるアンサンブルも素晴らしく、なかでも木刀や旗などを駆使したアクロバティックなダンスは一見の価値あり。演出と振付を兼ねる謝の、時代のうねりや熱狂を感じさせるパワフルな群舞は本作の大きな見どころとなっている。

 「人間の贖罪」という普遍的なテーマを、世の中の価値観が大きく転換した幕末の動乱に重ね合わせてサスペンスフルに描き出した本作。現代に生きる私たちも身につまされる台詞や歌詞に思うところの多い作品だった。

【写真】「天翔ける風に」公演より=写真提供・東宝演劇部

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◆ミュージカル「天翔ける風に」
《東京公演》2013年6月10日(月)〜25日(火) シアタークリエ
⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。
http://www.tohostage.com/amakakeru/
《大阪公演》2013年6月29日(土)〜30日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。
http://www.umegei.com/schedule/261/

《筆者プロフィール》岩橋朝美 フリーエディター、フリーライター。WEBおよび出版を中心に、企画、編集、取材、執筆を行う。エンタテインメント、女性、仕事など、幅広いテーマで活動。

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