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特集【公演評】作品が持つ世界観を忠実に再現
人気漫画をもとにしたミュージカル「黒執事」

2013年6月19日
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 大人気漫画をもとにしたミュージカル「黒執事 The Most Beautiful DEATH in The World 千の魂と堕ちた死神」が、6月8日と9日、梅田芸術劇場で上演された(5月17日〜26日 東京/赤坂ACTシアター)。コミックの累計発行部数は1500万部を超え、TVアニメやDVDも大ヒットを記録。2009年には舞台化が実現し、1万人以上を動員する大成功をおさめた。今回は2010年に上演されたオリジナルストーリーをブラッシュアップし、さらに華やかに蘇る。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

 漫画を人間で三次元化する映画や舞台の例は少なくないが、原作が持つイメージは絶対的なだけに、熱烈なファンを納得させるのは難しい。特に耽美系作品となるとますますそのハードルは上がり、それがゴシック調ならば、「美」と「妖しさ」が不可欠となるだろう。

 そんな中、ミュージカル「黒執事」は、作品が持つ世界観を忠実に再現したといえる。最近、流行りの「イケメンミュージカル」にカテゴライズされるのも納得なキャストのビジュアル偏差値は限りなく高く、キャラクターのシンクロ加減も抜群。ミステリアスな雰囲気を損なうことなく表現され、劇場内に作り出されたドラマチックな空間が、さらに「美」と「妖しさ」の濃度を高めている。

 「黒執事」は、19世紀後半、ヴィクトリア朝時代の英国における、名門貴族の若き当主シエル・ファントムハイヴと、執事セバスチャン・ミカエリスの物語だ。殺戮と地獄を見た果てに天涯孤独となったシエルは、「悪魔」と契約を結んだ。それがセバスチャンで忠実かつ完璧にして最高の執事である。ファントムハイヴ家は代々、ヴィクトリア女王から秘密裏に仕事を請け負い、裏社会の事件を闇で片づけていた。

 セバスチャンを演じる松下優也の本業は歌手だが、2009年の初演に当時19歳の若さでこの役に抜擢された。体をつかったアクションが多いパーフェクトな執事を、俊敏な動きとダンスで華麗に表現し、得意の歌では美声を響かせ、高い評価を獲得して現在に至る。180cmの長身は見栄えも良く、今回も、13歳の田中偉登が演じるシエルとのバランスはばっちりだ。心に傷を負いそれでも一人立つ小さな当主シエルと、彼を守り忠実に従う執事…「互いの関係と正反対の身長差」もこの作品の「美しさ」を物語るものの一つだ。

 彼らを取り巻く人物も、一筋縄ではいかない面々ばかり。今回の舞台で登場するのは…。

 料理人のバルドロイ(鷲尾昇)、庭師のフィニアン(河原田巧也)、メイドのメイリン(松田沙紀)はファントムハイヴ家で働く使用人。まともな仕事ができず、むしろ失敗「しか」しないが、底抜けに明るく、時にシリアスとなった空気を中和するファントムハイヴ家のアイドル(?)たちである。

 和泉宗兵が演じる葬儀屋(アンダーテイカ―)は、事件解決に欠かせない人物。目元を完全に隠した前髪が特徴で、情報提供の報酬には金より笑いを求める変人だが、どこか憎めない。ドルイット子爵(佐々木喜英)は高い美意識を持ち、権力と財産でやりたい放題の貴族だ。

 そして、イギリス各地で起こる難事件の数々に挑むシエルとセバスチャンに、時折、横槍を入れるように登場する「死神派遣協会」の皆さんは、いわばライバル的存在。魂を回収する仕事に従事しており、唯一、セバスチャンを傷つけることができる強靭な力を持つが、キャラクターも個性的なせいか、原作ではたまにしか出てこないのにファンは少なくない。

 この公演ではそんな彼らに焦点を当て、オリジナルストーリーで展開する。オネエ系死神グレル・サトクリフ(植原卓也)、チャラ男系死神ロナルド・ノックス(井出卓也)、超堅物死神ウィリアム・T・スピアーズ(輝馬)に、オリジナルに作られたアウトロー系死神エリック・スリングビー(良知真次)、真面目系死神アラン・ハンフリーズ(中河内雅貴)を加え、舞台ならではの「死神たちの活躍」をじっくりと深く味わえるのが今回の見どころ。チーム死神はダンスユニットのごとくキレ味するどいダンスナンバーを多数披露し、こんなにカッコいい団体だったのかと、思わず感心させられてしまう。

 女王陛下の命により、ロンドンで頻発する無差別殺人の捜査に乗り出したシエルとセバスチャン。ロンドン警視庁の2人組も出動する一方、死神派遣協会では、その事件に伴う「回収されない魂」の異常発生が問題になる中、死神ウィリアムはさぼってばかりのグレルに苛立ちつつ、真面目なアランとその相棒のエリックに調査を求めた。ドルイット子爵が開催するオペラ公演で何かが起こると読んだセバスチャンは、シエルを女装させ、共に潜入。次第に明らかになる事件の真相、そして犯人は意外な人物に――!

 舞台上のセットは高さがあり、暗さを生かした照明や、舞台上から客席を照らすなど、さまざまな工夫で、ゴシックな雰囲気を盛り上げる。そんなクールな空間で、人生を達観したようなシエルと、いついかなる時でも感情を出さないセバスチャンの静寂を切り裂くようにたびたび飛び込んでくるグレルは、この公演一番の目立ちキャラ。赤いロングヘアに赤い衣装でオネエしゃべりも全開、原作をさらにデフォルメし、ギャグ満載で客席を沸かせる。堅物なウィリアムにチャラすぎるロナルドも要所で介入しつつ、オリジナルキャラのアランとエリックが、事件のカギを大きく握る。

 事件を追う警部フレッド・アバーライン(高木俊)と刑事シャープ・ハンクス(寺山武志)のコンビは、絶妙な話術でコントを繰り広げ、客席もこの2人が出てくるたびに大爆笑の渦に。なんとセリフの8割は2人の創作だという。

 とにかくどのキャラクターも原作からそのまま抜け出してきたかのよう。女性漫画家が描く繊細な美男子のイメージを損なうことなく三次元化していて、迷いなく物語に引き込まれる。アンサンブルのコーラスや本格的なオペラ、バレエダンスも見逃せない。特にオペラ歌手・前原加奈の透明感のある歌声と、バレエダンサー・美踊の優雅な踊りが光っていた。

 原作ファンにはおなじみのあのセリフはもちろん、原作のストーリーで登場するエピソードを巧みにおりこみながら描く、死神派遣協会の外伝的ストーリー。歌、ダンス、笑いも加え、最後は切ないストーリーでほろりとさせる。ミュージカルの良さがぎっしり詰め込まれた作品は、原作の魅力をより高めたのではないだろうか。

 歌って踊る、生きたキャラクターが脳裏に焼きついたおかげで、まだまだ連載中の原作がこの先、何倍にも楽しめそうだ。

【写真】ミュージカル「黒執事 千の魂と堕ちた死神」公演より=(C)2013 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト

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◆ミュージカル「黒執事 The Most Beautiful DEATH in The World 千の魂と堕ちた死神」
《東京公演》2013年5月17日(金)〜26日(日) 赤坂ACTシアター
《大阪公演》2013年6月8日(土)9日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
※公演は終了しています

《筆者プロフィール》さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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