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特集【公演評】Kバレエカンパニー「ジゼル」
優しくピュア、今後が楽しみな佐々部佳代

2013年6月25日
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 バレエにはさまざまな魅力があるけれど、私はバレエだけが持つ最大の魅力は、“バレエ・ブラン(Ballet blanc:blancはフランス語で白)”=“白いバレエ”ではないかと思う。主役だけではなく、コール・ド・バレエ(群舞)も、白いお揃いの衣装を身につけて祈るように踊り、そうして創りあげるのは、人間の日々の暮らしから解き放たれた世界。「白鳥の湖」をはじめ、「ラ・シルフィード」や「ラ・バヤデール」などさまざまな演目に、バレエ・ブランのシーンがあるが、その中で、バレエの熱心なファンやバレリーナが「一番好き」と話すのは、この「ジゼル」である場合がとても多いように思う。私もやはり「ジゼル」が大好きだ。その最大の理由は、シンプルなストーリーのなかに、そのダンサーだからこそ、というような言葉では表せない深みのある表現が感じられる可能性を持ったバレエだから。(フリージャーナリスト・菘あつこ)

 1幕、踊りが好きで心臓の弱い美しい村娘ジゼル(佐々部佳代)には大好きな恋人ロイス(熊川哲也)がいる。楽しげに踊る2人。森番ヒラリオン(スチュアート・キャシディ)もジゼルに思いを寄せているが、ジゼルはまったく関心がない。だが実はロイスは身分の違う貴公子アルブレヒト(熊川)の仮の姿で、バチルド(山田蘭)という婚約者もいる身。ヒラリオンによって、その事実を知ったジゼルは、ショックのあまり狂い死にしてしまう。

 2幕はジゼルの墓がある森の中。結婚前に死んでしまった踊りが好きな娘は精霊ウィリになり、森に迷い込んだ男を死ぬまで踊らせる。女王ミルタ(浅川紫織)を中心としたウィリたちに、ジゼルは新しくウィリとして迎え入れられる。そこに、後悔の念にさいなまれて百合の花束を持って訪れるアルブレヒト。ジゼルの墓に現れたヒラリオンはつかまり、取り囲まれたウィリたちに踊らされ息絶える。次はアルブレヒトを……となった時、彼を今も愛しているジゼルは、ミルタの前に立ちはだかり、彼を助けてほしいと懇願する。やがて夜は明け、ウィリたちが墓に戻る時間。ジゼルは別れを告げ、アルブレヒトはひとり残される。

──というのが、かいつまんだストーリー。

 今回のKバレエカンパニーの「ジゼル」は、想像以上に「ジゼル」好きを満足させる舞台だった。まず、コール・ド・バレエの一人ひとりがスピーディな振りにも、スローなポーズも余裕をもってこなすレベルの高いダンサーたちで、そのダンサーたちが集団となって作り出すアンサンブルの美しさ、それにウィリの群れで男性を追い詰める迫力はなかなかのもの。メリハリをしっかり出せるコール・ド・バレエだった。脇役では特にジゼルの母ベルトを演じたゲイル・タップハウスの1幕での「ウィリになってしまうよ」というマイム(黙劇)の切実感が目を引いた。

 そして、主役アルブレヒトの熊川は、怪我を経たことや年齢を重ねたことからだろうか、以前よりも自然に気負いなく演じていて、その控えめなたたずまいがまっすぐな好青年という雰囲気で貴公子らしい品を感じさせた。2幕終盤のアルブレヒトのヴァリエーションでは、美しい空中でのバッチュ(足を打つ動き)、トゥール(回転)もまっすぐな軸での多回転といった彼らしい高度なテクニックを惜しみなく披露。それがアルブレヒトという役のなかで、想いをそのまま体現する動きに見え、期待以上だった。

 そんな良いダンサーたちの中でも、今回もっとも印象に残ったのは、タイトルロールのジゼル。昨年入団したばかりの佐々部佳代が踊ったのだが、ジゼルに必要なものを全て兼ね備えた新人が現れたという感じ。実のところ彼女のことは、学生時代のコンクールや出身団体の公演でも観ていて、良いダンサーへの可能性を感じていたのだが、それが着実に伸びているのを実感した。美しい甲を柔らかく使い、手脚がどこまでも伸びていくような、空気を味方にしたような美しい動き。優しさを感じさせ、とにかく何より“ピュア”という言葉がぴったりのダンサー。1幕ラストの狂乱シーンなどには、まだ物足りなさが残るが、役を重ねて、今以上に表現が深まっていけば、世界的にみても素晴らしいダンサーになるような気がする。表現の深まりにはゴールはない──とても楽しみだ。

【写真】Kバレエカンパニー・スプリングツアー2013「ジゼル」公演より=撮影・小川峻毅

【フォトギャラリーはこちら】

◆Kバレエ カンパニー「ジゼル」
《埼玉公演》2013年6月1日(土) 大宮ソニックシティ
《東京公演》2013年6月6日(木)〜6月9日(日) 東京文化会館
《佐賀公演》2013年6月13日(木) 鳥栖市民文化会館
《大阪公演》2013年6月15日(土) フェスティバルホール
《岩手公演》2013年6月19日(水) 岩手県民会館
《東京公演》2013年6月22日(土)23日(日)29日(土)30日(日) Bunkamuraオーチャードホール
《新潟公演》2013年6月27日(木) 新潟県民会館
⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。
http://www.k-ballet.co.jp/performances/2013-giselle

菘あつこ(すずな あつこ) 大阪府出身、兵庫県在住。広告会社、出版社勤務を経て、フリーランスのジャーナリストに。幼い頃から愛してやまないバレエ・ダンスを第一の得意分野に、芸術文化から社会と比較的幅広いジャンルでの執筆活動を行っている。朝日新聞大阪本社版、神戸新聞、各バレエ誌、一般誌等に執筆。バレエに関する著書に「ココロとカラダに効くバレエ」(西日本出版社)。元・ロングディスタンス(swim3.9km、Bike180.2km、Run42.195km)のトライアスリートだったという顔も持つ。

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