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特集(3)白と黒の天使

2013年11月19日

写真:「愛と革命の詩」より「愛と革命の詩(うた) ―アンドレア・シェニエ―」より、Angel White役の冴月瑠那(写真右)とAngel Black役の柚香光(左)=撮影・岸隆子

 この作品の基調をなす色彩、それはモノトーンではないだろうか。だからこそ、トリコロールカラーもよけいに映えるのだ。そして、「白」と「黒」を象徴する存在が、Angel White(冴月瑠那)とAngel Black(柚香光)である。いうまでもなく、Angel Whiteは善をつかさどり、Angel Blackは悪をつかさどる。ともに、人が持つ両面だ。

 愛と希望に満ちた場面には、必ず舞台の片隅にAngel Whiteが寄り添っている。いっぽう、憎しみに満ちた場面では必ずAngel Blackがまるでその場を操っているかのように存在する。登場人物を導いたり、誘惑したりすることもある。親も家も失ったマッダレーナが生きる希望を失ったとき、Angel Blackが差し出すのは命を絶つためのナイフだが、Angel Whiteはアンドレアの詩を差し出す。そして、マッダレーナは後者を選ぶのだ。

 だが、黒も「悪魔」ではない。両方とも「天使」というところがミソだ。おそらく2人は兄弟で、白いほうが兄だろう。イタズラっ子の弟を兄がたしなめ、やりすぎたときは弟も思わず反省する。そんな2人は一見微笑ましいが、人間界における悲喜こもごもな歴史が、じつはこんな可愛らしい2人によって操られているに過ぎないという想定はちょっと怖い。

 観れば観るほどに、冒頭に仲良く戯れる2人のダンスが泣けてくる。大石裕香による振付の波打つような動きは、感情の繊細な揺れを表現しているようだ。

 アンドレアの処刑から25年後、彼が最期に書いた詩が再び日の目を浴びたとき、天使たちはこんな言葉を発する。

 Angel Black「神は残酷」

 Angel White「神は愛」

 だが、「これは神が起こされた奇跡なのですね」という問いかけに対し、パンジュ侯爵(望海風斗)は「奇跡を起こすのは神ではなく、人間自身なのです」と答える。人は愚かで身勝手で、巨大な歴史のうねりの前に常に無力である。この作品に登場する人々もそうだった。だが、このメッセージこそが、人間の可能性に対する最後の希望だと私は思う。

◆宝塚・花組「愛と革命の詩(うた) ―アンドレア・シェニエ―」
《宝塚大劇場公演》2013年8月16日(金)〜9月23日(月)
《東京宝塚劇場公演》2013年10月11日(金)〜11月17日(日)
※公演は終了しています

《筆者プロフィール》中本千晶 フリージャーナリスト。1967年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。2000年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。13年9月に「タカラヅカ流世界史」(東京堂出版)を出版。

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