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特集「月組」踊る介護福祉士

2013年12月6日

写真:橋詰理恵橋詰理恵(中央)の笑顔は、入所者の元気の源=兵庫県宝塚市、滝沢美穂子撮影

 まるで「月組のスター」。橋詰理恵(53)は元タカラジェンヌだが、「月組」は宝塚歌劇団の話ではない。兵庫県宝塚市の特別養護老人ホーム「宝塚まどか園」の組の一つ。橋詰は、ここで非常勤で働く介護福祉士なのだ。

 園では118人が過ごす。平均87・2歳。入所者は組分けされ、華(はな)、月、雪、星、宙(そら)、虹の6組。むろん歌劇団の組名にちなむ。橋詰は月組20人を担当。自力歩行が難しく、認知症の人たちが多い。

 歌劇団では雪組の娘役だった。愛ゆりや。愛称あいちゃん。舞台に立ったのは1981年から4年間。名前がついた役は一つだった。「風と共に去りぬ」の娼婦(しょうふ)の新入りベティ。「娘役には珍しく、グラマーだったからかな」。セリフは「マダム」。ただ、ひとこと。当時の雪組は麻実れい、遥くららのゴールデンコンビで、ドル箱組だった。

 憧れの麻実の退団とともに85年、宝塚を去った。結婚準備という理由で。その後、お見合いは何度もした。お茶、お花、料理、編み物と花嫁修業にいそしんだ。だが、断り続けているうちに、いつの間にか縁遠くなっていた。

 そうこうするうち、運送会社を経営していた父が97年、亡くなった。一人娘の橋詰が社長になった。男一色の運送業界。ゴルフや酒のつきあいも頻繁だった。鍋宴会では「はいはい、お皿にとりますよ」とかいがいしく、取引先にかわいがられた。

 「からだがスッと動いてしまう。宝塚ではずっと下級生の身分だったから、上級生のお世話を焼いていました。それが生きるなんて」

 高齢の母(80)の世話をするため5年前に社長を退き、「まどか園」で働くようになった。日本舞踊の先輩が施設で、ボランティアで踊るのを見て興味を持ったのだ。

 お年寄りを起こす時、男性でも、橋詰がひとりでベッドから抱えあげ、車いすに座らせる。「いまは、軽い人ならお姫様抱っこだってしちゃう。男役みたいにね」

 食事、トイレ、おふろの介助。右手は腱鞘(けんしょう)炎だし、腰痛ベルトが欠かせない。「なんとなく介護の道に入ったんです。だけど、いやじゃないんだな」。もちろん結婚に向けて今も「準備中」だ。

 「入所者を見つめ、じっくり時間を共有できる人」と、まどか園の主任生活相談員の小室弘義はいう。

 年に1度の秋祭り。日本舞踊のさす手引く手もあでやかに。「踊る介護福祉士っていいでしょ。私、娘役時代はぼーっとしてましたけど」

 いよっ、あいちゃん、いまこそ名女優!=敬称略(河合真美江)

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