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特集(1) 純愛の傍観者の痛み、観客にも突き刺さる

2013年12月9日

写真:「LILIES」(Sebastianiチーム)公演より「LILIES」(Sebastianiチーム)公演より

 作品の舞台となるカナダ・ケベック州は、フランスの植民地だった時代が長く、多くのフランス人が移り住んだ。現在もケベックの公用語はフランス語で、長年にわたり英語圏であるカナダからの独立問題を抱えていることで知られる。そんな複雑な背景を持つケベック州の田舎町ロベルバールが、メインとなる劇中劇の舞台だ。カソリックが権勢をふるい、保守的で閉塞感に満ちた環境は、「LILIES」に登場する人物のキャラクターや、彼らの関係性にも色濃く影を落としている。

 同じ修道院に通い、互いに惹かれあうシモンとヴァリエ。ともに美しい容姿に恵まれた彼らは、それぞれに家庭の問題を抱えていた。ヴァリエと、その母であるティリー伯爵夫人(楢原秀佳)はフランスからやって来た移住者だ。夫人は貴族の血筋に誇りを持ち、いつの日かパリに戻ることを願っているが、先に帰国した夫からの音沙汰はなく、田舎町にそぐわない貴族的なふるまいは周囲からの陰口の的だ。そして、夫人の従者然とふるまうのはシモンの父で酒浸りのティモシー(山本芳樹:2役)。彼は夫人の帰国にシモンを同行させ、パリで高い教育を受けさせたいと夢見ているが、一方でシモンの同性愛傾向を嫌悪し体罰を繰り返している。

 ヴァリエを愛しながらも父からの体罰の恐怖が拭えぬシモンと、そんなシモンに真摯に愛を傾けるヴァリエ。ふたりが屋根裏部屋でひっそりと育んできたガラスのような純愛は、同級生ビロドーと年上の女性マドモアゼル・リディアンヌ(牧島進一)という、ともにシモンを愛する男と女によって、運命を大きく狂わされていく。

 シモンとヴァリエの純愛を軸に据えながらも、彼らを取り巻く人々の描写が実に緻密かつ雄弁で、作品全体に厚みと多面的な魅力を与えている。純愛を貫こうとする主人公たちの崇高さに胸を締めつけられる一方で、思いを遂げられない周囲の人間たちが抱える痛みや悪意、やるせなさといった負の感情が、彼ら同様、主人公たちの愛の傍観者でしかいられない観客の心に容赦なく突き刺さり、激しい動揺を引き起こす。そして、彼らがついた数々の「嘘」に翻弄され、気がつけば虚構と現実が入り混じる物語世界へと深く深く沈んでいく。

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