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特集 (5)ムラで花開き、進撃する

2014年3月31日更新
写真:阪急の宝塚駅から宝塚大劇場(右奥)へと延びる「花のみち」。非日常へ誘う=兵庫県宝塚市、滝沢美穂子撮影 阪急の宝塚駅から宝塚大劇場(右奥)へと延びる「花のみち」。非日常へ誘う=兵庫県宝塚市、滝沢美穂子撮影

 大阪・梅田から電車に揺られて30分。西に六甲山系を望む人口約23万人のまち、兵庫県宝塚市に私が赴任したのは5年前のこと。そして、驚いた。歌劇に関心のない市民の多さに、だ。

 スターの名前も、ほとんどの市民が知らない様子。歌劇側も、地元には無頓着。まるで近くて遠い、夢の世界だ。

 ここは「歌劇の街」じゃなかったの?

 「歌劇を見たことのない市民は結構いる。歌劇の恩恵って見えないところにすごくあるはずなんですけどね」と市長の中川智子(66)もいう。

 ある、ある。その証拠に毎年100万人前後がやって来る。わざわざ引っ越してくるファンもいるほど。「ムラ、行ってきたよ」。ファンたちが使う通称も、どこかあったかい。何よりも、知名度だけは抜群ではないか。

 この街に交差する市民、ファン、そしてタカラジェンヌ。もっとも街を愛すのは、タカラジェンヌたちかもしれない。市内のあちこちに卒業生たちが住む。退団後、飲食店などを開く人も多い。

 中林玲子(80)もその一人。長くタカラジェンヌらが住む「すみれ寮」寮長を務め、「寮ママ」と慕われた卒業生だ。実家は東京だったが、市内に住み続ける。「だってのんびりしてるし空気はいいし、同期はいるし」

 ここにも「ムラ」のムード。確かにのどかだ。

 ♪小さな湯の町 宝塚に
 生まれた その昔は
 知る人もなき 少女歌劇

 大流行したレビュー「パリゼット」(1930年)は、こう歌う。

 温泉施設で親子が楽しめるアトラクション。12~16歳の少女たちの歌や踊り。それが100年前の宝塚の姿だった。わずか4年後には、東京・帝国劇場を5日間満席にするまでになった。

 「愛らしさ、ひたむきさ、そして集団美ですわ」。歌劇史に詳しい市職員の倉橋滋樹(62)は、人気のわけをこう話す。

 それって今のAKB48みたい。ということは、この地は一脈、秋葉原にも通じる?

 東京でも人気は高く、台湾などのアジア進出もめざましい宝塚歌劇。でも、本拠地はあくまでも宝塚。まるで、秋葉原という土地と切っても切れないAKB48のように。「大阪から離れた宝塚を拠点にしたことで、大きな荒波をかぶらずに済んだ。これが、100年続いた要因の一つ」と、宝塚歌劇団理事長の小林公一(54)は言う。

 なるほど、センターじゃない場所で花開き、進撃する構図も見えてきた。一種の地の利だ。

 今月29日、宝塚市主催の市民向け貸し切り公演が開かれる。市制60年で初めてのこと。チケット代を半額程度に抑えたこともあり、約2500席の募集に対し、応募は9677通にのぼった。

 育って、地元ファン。耕せ、ムラを。宝の持ち腐れなんてダメ。歌劇の最大の特徴は「宝塚」なのだから。=敬称略(谷辺晃子)

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