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特集 (1)「歌うな。語りかけるように歌って」と言われ

2014年5月2日更新
写真:上原理生=撮影・伊藤華織 上原理生=撮影・伊藤華織

――まずは製作発表お疲れさまでした。「ミス・サイゴン」は前回に続いて2回目の参加ですが、今のお気持ちは?

 初めて前回参加したときは、そうそうたるキャストの皆さんとご一緒させていただくのに、「自分なんかで大丈夫なんだろうか?」という気持ちが強かったのですが、今回は、再びこの作品に戻れた喜びと自信、それに「今度はどんな世界がここから生まれてくるのかな」という、楽しみのほうが大きいかもしれません。演出補のダレンの稽古が素晴らしいので、役者としての自分が今度はどれだけ成長できるんだろうという楽しみもありますし、作品そのものも今度はまた違った目線で見えると思うので、それをどうやって伝えていけるだろうという楽しみもありますね。

――私はこの作品の中でジョンが歌う「ブイ・ドイ」というナンバーが個人的にとても好きなのですが、上原さんはこのジョンという役をどのように捉えていらっしゃいますか?

 前回公演をやって思ったのは、あれは「贖罪の歌」だなということでした。エンジニアが経営している「ドリームランド」というバーで、ベトナムの女性たちと乱痴気騒ぎをしているGIたち。ジョンもそんな一人ですが、新演出版では、そこでジョンがジジを引き当てて、でもジジから「アメリカに連れて行って」と言われたら「その話はもうなかったことだろう。うるさいんだよ、お前は!」と、酷い扱いをするんですよね。でも、彼もやけになっていて、そうせざるを得なかったのかもしれない。その彼がアメリカに戻ってからは、「あんな酷いことをした自分でも、『ブイ・ドイ』と呼ばれる混血の子どもたちを救わなければいけない」と歌うんです。歌詞も解釈も変わりました。

 たぶんジョンは、あの当時はどこにでもいたベトナム帰還兵だったんじゃないかなと。実際にそういう活動を始めた人もいたそうですし、そういう人たちの代表的な存在なのかなと思っています。

――さきほどの製作発表の中でも上原さんは、「平和なこの時代の中で、この作品を上演することが、ひとつの意義なんじゃないか」とおっしゃっていましたが、今のお話は、そういう部分とも繋がっているのかなあと。

 そうですね。「ミス・サイゴン」のようなテーマを描いているミュージカル作品は少ないですけど、それをミュージカルで見せていくことに、すごく思うところがありまして…僕は実際に戦争に行ったことはないですが、たとえば3年前の震災のときも、歌おうという気に全然ならなかったんですよ。ちょうどそのとき、「レ・ミゼラブル」の稽古中だったのですが、「こういうことをやっていていいんだろうか」と思いました。自分たちがやっていることは、平和なときでないとできないんだなとすごく感じたんです。

 それはたぶん、戦争のときも同じだなと。平和でないと、こういうことを楽しむ余裕は心にも経済的にも生まれない。それを、この作品をやると決まったときに感じたし、とくにジョンは「ブイ・ドイ」というナンバーを歌って、戦争が招く悲劇を伝えていく役でもあるので、そういうことを大切に伝えていきたいという想いが、強いですね。

――それを歌というものにしていくときに、テクニック的にというか、何か心がけているようなことはありますか?

 新演出版になってから全編で言われていることは、「歌うな」ということ。台詞を言うように、語りかけるように、歌ってくれと。「ブイ・ドイ」を歌うときも、演説をしているというシチュエーションなので、集まって来ている人に語り聞かせるということを心がけていますし、全編を通して、それを大事にしたいなと思っています。

――前の演出での「ブイ・ドイ」は、歓喜の歌とまではいかないけれど、聞いていて何だか気分が高揚するような感じがありましたが…。

 そう、歌い上げるような感じですよね。そういう作りの音楽ですし、とてもいい曲ですし、ともするとそういう風になりがちなんです。僕も最初、どうしても歌い上げてしまって。「ドラマ性は音楽が伝えてくれるから、リアルにやってくれ」と言われたのが、とても記憶に残っています。それを大切にしていかないと成立しない演出なのかなと思ったりもしています。

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