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ファンから手紙が届く。劇場で「素晴らしかった」と話しかけられる。スターではなく、作り手に。上田久美子は、いま歌劇団でもっとも期待される演出家のひとりだ。
奈良県天理市出身。京都大学文学部を卒業後、2年間製薬会社に勤め、2006年に歌劇団へ。男役のような雰囲気をまとうが、宝塚は年に1~2回見る程度だった。いつも2階席の一番後ろだったという。「自分の視点はそこ。オペラグラスを持っていない団体客の方々にも、声で心情は届けられる。聴覚的な部分は大きいのです」。だからこそ「セリフの言い方やトーンにはすごくうるさい」と語る。
宝塚音楽学校で演劇の授業を見学し、多くを学んだ。「生徒たちは感情を出すことにてらいのある年ごろ。何をどう言えば萎縮するのか、しないのか。無理におしりをたたかないといけないときもあり、原石の状態からどうやって引き出すか、そのメカニズムがよくわかった」と振り返る。
デビュー作の「月雲の皇子」(13年)、2作目の「翼ある人びと」(14年)、そして本公演と快進撃は続く。いま、温めている構想は? 「もしも人類が水星へ移住せざるを得なかったら、というSFもの。宝塚というファンタジーな世界と親和性は高いと思うのですが」(谷辺晃子)