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法と経済のジャーナル Asahi Judiciary

自社株を対価とする他社買収の規制緩和、産業活力再生法改正への期待

自社株を対価とする他社買収の規制緩和、産業活力再生法改正への期待

2011年01月19日
(約4300字)
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 自社株を対価として他の会社を買収するには現状、さまざまな障害がある。自社株を用いた他社株の公開買い付け(TOB)も制度上は不可能ではないが、日本国内では現実に行われたことは一度もないという。そこで、この障害を減らし、企業の合併と買収(M&A)を盛んにするための法改正が検討されており、この春にも国会に提案される見通しとなっているという。西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士がその意義を解説した。

 

自社株対価TOBに関する
規制緩和等とM&Aの活性化
〜産業活力再生法改正への期待〜

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士 太田 洋

太田洋弁護士

太田 洋(おおた・よう)
 1991年、東京大学法学部卒業、1993年に弁護士登録(司法修習45期)。2000年、ハーバード・ロースクール修了(LL.M.)、2001年に米国NY州弁護士登録。2001年〜2002年に法務省民事局付(参事官室商法改正担当)、2007年に経済産業省「新たな自社株式保有スキーム検討会」委員。現在、西村あさひ法律事務所パートナー、日本化薬(株)社外監査役、電気興業(株)社外取締役、金融庁金融税制研究会委員。金融庁コーポレート・ガバナンス連絡会議にも参加。

 ■はじめに

 現在、1月24日にも召集される通常国会において、春ころにも法案を提出することを目指して、経済産業省が「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」の一部改正法案(以下「改正産活法案」という)の取りまとめ作業を急いでいるようである。この改正産活法案では、自社株対価TOBに関する規制緩和などが盛り込まれることが検討されていると報じられており、わが国企業による海外企業の買収及び国内企業同士のM&Aの促進・活性化に大いに資するものと期待されている。そこで、以下では、上記規制緩和について、予想される内容と、それらが実現した場合に予想される効果とを概説することとしたい。

 ■自社株対価TOBの活性化の必要性

 わが国の企業が現金を対価として外国企業を含む他の企業を買収しようとする場合、i)対象会社が非上場会社であれば、その株主との相対での売買による株式取得の方法で、ii) 対象会社が上場会社であれば、現金を対価とするTOB(キャッシュTOB)の方法で、それぞれ実行することが可能である。

 一方、わが国の企業が自社の株式を対価として他の企業を買収しようとする場合、対象会社がわが国の企業であれば、a) 合併による方法、b) 株式交換による方法、c) 三角合併による方法、又はd) 自社株を対価とするTOB(エクスチェンジ・テンダーオファー)の方法で、実行することが可能である。もっとも、a)の合併による方法は、対象会社の抱える偶発債務を全て引き受けることになるし、対象会社の従業員の処遇を自社のそれに合わせる必要が出てくるなど、様々な問題があるので、通常は、簡便なb)の株式交換の方法が用いられている。しかしながら、株式交換(及び三角合併)による場合、対象会社は必ず買収会社の100%子会社となるため、対象会社側が、一定の経営上の自律性の確保や上場維持などを求めているときには、これらの方法を用いることはできない。このような場合、特に対象会社が上場会社であるようなときには、d)の自社株対価TOBの方法しか選択肢はない。

 また、対象会社が外国企業である場合には、現在の一般的な考え方によれば、a)の合併とb)の株式交換の方法はそもそも利用できず、c)の三角合併の方法かd)の自社株対価TOBの方法しか用いることができない。しかも、アメリカのように三角合併をわが国とほぼ同様の要件で用いることができる国はそれほど多いわけではなく、例えば、イギリスなどでは裁判所の許可に加えて株主の頭数の過半数及び出資割合の4分の3以上の賛成がないと三角合併と同様のスキームを実行することはできないとされているなど、対象会社の所在国によっては、三角合併の利用には困難が伴う。加えて、前述のとおり、三角合併による場合、対象会社は必ず買収会社の100%子会社となるため、対象会社側が一定の経営上の自律性の確保や上場維持などを買収受入れの条件としているような場合には、三角合併は利用できない。従って、このような場合にも、(特に対象会社が上場会社であるようなときには)d)の自社株対価TOBの方法しか利用可能な方法はない。

 グローバルな観点から見ても、三角合併が認められていない(又は困難な)EU諸国の企業を対象とする、株式を対価とするM&Aでは、自社株対価TOBによる国際株式交換が用いられることが多く、1999年のボーダフォン・エアタッチ(英)によるマンネスマン(独)の買収や、2006年のミッタル(蘭)によるアルセロール(ルクセンブルク)の買収、最近では2009年〜2010年のクラフト・フーズ(米)によるキャドバリー(英)の買収などは、いずれも自社株対価TOBによる国際株式交換の方法で行なわれている。

 従って、わが国企業による自社株を買収対価とするクロス・ボーダーの買収を促進し、わが国国内における自社株を対価とするM&A(特に部分買収)を活性化するために、わが国企業による自社株対価TOBの利用を阻害する要因を除去することは、非常に有益である。特に、世界的な通貨安競争の中で円高が恒常化している現在、円高によって相対的な価値が高まっているわが国企業の株式を買収対価として利用しやすくすることは、円高メリットを最大限生かすための有力な方策の一つであり、わが国の成長戦略にとっても重要といえよう。もちろん、上場外国企業を対象とする、わが国企業による自社株対価TOBを用いた買収が成功するためには、対価として用いる自社株が、対象会社の所在地国の証券取引所において上場されていることが事実上必要であろうが、クロス・ボーダーの(自社株対価TOBや三角合併を用いた)国際株式交換の事例で買収と同時にそのような上場が行われた例は決して少なくない(例えば、2005年のAixtron(独)による三角合併を用いたGenus(米)買収に際しての同社のNASDAQ上場の事例など参照)。

 ■自社株対価TOBに関する規制緩和

 ところが、わが国ではこれまで純粋な意味で自社株対価TOBを用いて買収が行なわれた事例は1例もない(類似の例として、2007年に、非上場会社のトレーディングが、その孫会社で上場会社のフリージア・マクロスの株式を対価として行なった、技研興業の株式に対する他社株対価TOBの事例が1例あるのみである)。金融商品取引法上は、従前から、現金だけでなく、自社株を対価として用いたTOB(エクスチェンジ・オファー)も許容されているにもかかわらず、何故なのであろうか。

 理由は主として二つある。第一は現物出資規制である。自社株をTOBの対価として利用する場合、会社法上は、かかる行為は、「対象会社の株主によるその保有株式の現物出資に対して行なわれる買収者の新株発行(又は金庫株処分)」と整理されるため、現物出資規制が適用され、検査役調査(これは対象会社が上場会社であれば通常不要である(会社法207条9項3号)し、非上場会社であっても弁護士等の証明書があれば省略できる(同項2号)ので実質的には問題とはならない)のほか、対象会社の株式が値下がりした場合における価額填補責任が現物出資者(=TOBに応募した対象会社の株主)と新株発行会社(=買収会社)の取締役に課せられるものとされている。しかも、現物出資者にとってはこの価額填補責任は無過失責任とされ(会社法212条1項2号)、また、新株発行会社の取締役にとってはこの価額填補責任は挙証責任の転換された過失責任(要は、自らが無過失であることの立証を要求される責任)とされており(会社法213条1項・2項)、非常に責任が重い。従って、対象会社の株式が、新株発行決議の日から払込日までの2週間(新株発行公告期間)に値下がりする可能性を否定できない上場株式であるような場合には、それらの価額填補責任がネックとなって、自社株を対価とするTOBは事実上利用されない状態にある。

 第二は有利発行規制である。自社株対価TOBもTOBの一種であるから、その成立のためには通常はある程度のプレミアムを上乗せする必要があるが、上記のとおり、自社株対価TOBの法的性質が現物出資による新株発行(又は金庫株処分)とされる結果、一定額以上のプレミアムを上乗せした場合には、有利発行規制が適用されることになるため(例えば、買収会社の株価が100円で、対象会社の株価が200円のとき、プレミアムを50%上乗せして、対象会社の株式1株につき買収会社の株式を3株発行するとすれば、買収会社の株式1株当たりの発行価額は約66.7円となるため、有利発行に該当することになる)、その実行のためには、買収会社において株主総会の特別決議を取得することが必要となる。これにはコストと時間を要するため、この点も、わが国企業が自社株TOBを利用しにくい原因となっている。

 これらの問題を解決するため、現在、改正産活法案において、一定の要件の下に、主務大臣による所定の認定を得た場合には、上記の現物出資規制及び有利発行規制の適用を免除する(有利発行規制に関しては、簡易組織再編の場合に準じた一定の場合に限定して適用免除されるということになろう)旨の特例を新設することが検討されている模様である。

 このような特例が新設されれば、前述のとおり、わが国企業同士のM&Aの活性化のみならず、わが国企業による海外企業の買収が促進されることも期待でき、わが国経済の活性化に大いに資することになろう。このような立法措置が一刻も早く講じられることが強く期待される。

 ■終わりに

 以上のように、改正・・・・・続きを読む

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