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引っかかったら引くものは

2012年07月04日
(約1200字)
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◆ 勘違いで桁違い

 日々原稿を読んでいると、さまざまな数字にであいます。すぐにイメージできるものもあれば、想像できないような規模のものも……。

 名古屋税関の不正薬物取り締まりの原稿に、ある月の摘発量が出てきました。

 「前年同期比6割増の13.9グラム(末端価格4億8千万円)。昨年(2010年)1年間の摘発量13.8グラムを半年で上回った」 

 不正薬物には縁のない生活をしていますが、価格からいっても13.9グラムは少なすぎるのでは?と想像がつきます。きちんとしたデータで誤りを裏付けようと、名古屋税関のウェブサイトを見ると、2010年の摘発量を「約13,810グラム」としていました。コンマを小数点と見間違えたのでしょうか。元の原稿にある二つの「グラム」は「キロ」の誤りではと問い合わせ、直りました。

 カーテンを製造販売する会社を紹介する原稿では、「毎月生産するカーテンをすべてつなげると、20万メートルになる。地球をおよそ5周する長さだ」とありました。

 「20万メートル」は正しい数字でしょうか。ピンときませんが、手がかりになりそうなのがたとえに使われている「地球をおよそ5周する長さ」です。地球1周は約4万キロ。5周なら「20万キロメートル」です。カーテンの「20万メートル」はキロ換算すると「200キロメートル」。大きく食い違い、どちらかが間違っているのではという疑問がむくむくとわいてきます。確認を求めると、「200キロ」が正しく、「地球をおよそ5周する長さ」は削除されました。この会社が地球5周分のカーテンをつくるには80年以上かかる計算になります。

◆ 舟に乗る

 原稿の表現に何かしら違和感をもったとき、校閲記者はまず辞書を引きます。

 血管の病気と闘っている女性についてとりあげた連載原稿の末尾にこうありました。

 「まだ治療していない大動脈のすき間には、少しずつ着実に血液がたまっていた」。「着実」はこういうときに使うことばだろうか、と辞書に手が伸びました。 

・落ち着いていて、まじめでたしかなこと。落ち着いて軽々しくないこと。また、そのさま。(日本国語大辞典)

・態度が、おちついて軽率でないこと。また、物事があぶなげなく行われること。(広辞苑)

・確実に自分のペースで物事を行い、信用出来る様子(性質)だ。(新明解国語辞典)

 総じてプラスの印象を与えることばで、病気が進行するような好ましくないことの形容にはふさわしくないように思われました。検討をお願いしたところ「着実に」は削除されました。

 辞書づくりの世界を描いた小説「舟を編む」が話題になりましたが、校閲記者にとって辞書はなくてはならないもの。ことば遣いがどこかおかしい、しっくりこないと感じたとき、それをいかに書き手側にわかりやすく伝えるか。辞書はその手助けをしてくれる心強い味方であり、語感をみがく道具でもあります。

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