これは戦後のわが国で、長年、観念的平和主義が世論に大きな影響を与えてきたことが大きい。防衛省(元防衛庁)や自衛隊が日陰者扱いされ、防衛産業も「死の商人」と揶揄されてきた。このため防衛産業の各企業は、できるだけ自社が防衛産業に関係していることを隠してきた、あるいは積極的な広報をおこなってこなかった。防衛省も各企業にあまり余計な情報を出すなと暗に指導してきた。
我が国は武器禁輸を国是としてきたために、輸出ができず、防衛産業にとっては、防衛省だけが唯一の顧客である。このため輸出に関する宣伝や広報は必要なかったと言える。そもそも大手といっても防衛関連の売り上げは、その企業の全売り上げのうちほとんど数パーセントに過ぎない。ある意味、防衛部門の売り上げは全体の売り上げからみれば誤差の範囲にしかすぎない。そして利益は低いが、確実に利益を回収できたので経営者が自社の防衛産業部門の存在を気にする必要もなかったのだ。
故に自社の防衛部門に関する宣伝や広報は可能な限りしない、という体質が形成されてきた。だから筆者のような専門のジャーナリストが取材を要請しても、断られることがほとんどだ。
筆者は先日も、コマツが開発を企画している空挺装甲車についての取材を同社の広報に申し込んだが断られた。このプロジェクトは防衛省が関わっているわけでもなく、同社の自社研究で、既に業界や自衛隊関係者には公表している。秘密でもなんでもない。だが防衛省を忖度して同社の広報は断ってきたのだ。
製品情報だけではない。多くの企業が自社ウェブサイトにおいて、IR情報を公開しているが、ここに防衛産業部門の売り上げ、利益、製品構成などの経営情報が開示されていないことがほとんどだ。
こんな状態だから経済ジャーナリズムやアナリストも防衛産業を「産業」と認識しなくなった。メディア側も、大手企業の防衛部門の売り上げが小さいから無視していいと思っているのだろう。
このため防衛産業が話題になるのは大抵スキャンダルが出た時ぐらいで、大手メディアでは経済部ではなく、社会部や政治部が担当することになる。
筆者は数年前の山田洋行のスキャンダル時に、新聞やテレビの取材を多数受けたが、彼らには問題に対する基礎的な知識すら欠如しており、数分で済むはずのコメントに、毎度毎度手弁当で1〜2時間ぐらい、背景から説明するはめになった。
本来このような説明をする義理はないのだが、間違った報道がされるよりはと思い、続けていた。だが、それが活かされたとはあまり思えない。
2011年、防衛省が東芝に発注したF−15戦闘機用の偵察システムの開発がキャンセルになり、防衛省が開発費の支払いを拒否しただけではなく、三菱重工が担当したF−15の改造費やペナルティまで東芝に求める流れになったので訴訟になった。
だがこの件に関して具体的かつ詳細な解説をおこなったり、防衛産業全体に与える影響を解説した大手メディアはほとんどなかった。
かようにメディアは防衛産業には無関心だ。報道されないから納税者や政治家も興味を持たない、だから情報の開示がなされない、という負のループに陥っている。
このため納税者には、防衛省の装備品の性能、コスト、調達、その装備が必要か否かといった情報が提供されておらず、それが一層の無関心を招いている。
だがそれでいいのか。国際的な相場からすれば自衛隊の装備の単価は概ね3〜6倍程度高い。このような法外とも言える調達価格が維持されてきたのは、国民の無関心が大きい。
納税者の監視が届かないから防衛省や業界は輸出ができなくて高いんです、仕方ありません、と開き直って、これまでコスト削減の努力をする必要がなかった。外国製品と性能を真摯に比べようという意識もほとんどどない。
だが、戦時になれば自衛官たちはコマツの装甲車や ・・・・・続きを読む
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- 清谷信一(きよたに・しんいち)
軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03〜08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。
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(前日分を集計)
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