前回も述べたコマツの例をとってみよう。筆者は本稿の執筆のためにコマツの広報に坂根正弘会長が自社の防衛産業にどのような考えをもっているかインタビューを申しこんだが、防衛関連には答えられないと拒否された。防衛産業は自社の一部門であっても経営者にとってはアンタッチャブルなマターらしい。
コマツのウェブサイトには特機事業部、即ち防衛関連事業の説明は皆無に近い。IR関連の情報にも記述はほとんどない。このウェブサイトを見る限り、コマツが装甲車輛など、防衛省の装備を開発・生産していることはほとんど分からない。筆者の記憶が正しければ、以前は同社のウェブサイトにももう少し特機事業部の情報が掲載されていたはずだ。
筆者は坂根正弘会長の著書『ダントツ経営』や、日経新聞に連載された同氏の「私の履歴書」なども読んだが、その中には特機事業部に関する記述はなかった。コマツの経営トップにとって特機部門は存在しないも同然なのだろう。
このように特機部門を鬼子、あるいは二級市民扱いするのがリーディグ・カンパニーの在り方なのだろうか。経営陣のこのような態度は、特機部門の社員を貶めているとしか思えない。触れたくもないのであれば事業を精算すればいいのに、と思うのは筆者だけだろうか。
坂根正弘会長が特機部門関係者を集めての会合では、会長は、不祥事、問題だけは起こしてくれるなと述べたそうある。それでも坂根正弘会長は歴代の経営者から比べると、特機部門には理解があるそうだ。
多少なりとも防衛に関心がある方ならば、コマツが96式装甲車や軽装甲機動車などの装輪装甲車を開発・生産していることは知っているだろう。だがコマツは155ミリ砲弾など砲弾も開発・生産しており、実はこちらの方が売り上げは大きい。
コマツの防衛関連の売り上げは約340億円、コマツ全体の売り上げの約1.7パーセントだ。そのうち約100億円が装甲車であり、それ以外が砲弾などで、砲弾の方の売り上げが圧倒的に大きいのが現実だ。
だが、現防衛大綱では火砲の定数が600門から400門に減らされた。これは単純に計算すれば榴弾砲の砲弾の需要が3分の2に激減するということだ。
近年防衛費は微減が続いている。だが装備の高度化に伴って装備調達予算は防衛費全体の削減幅より大きく減っている(WEBRONZA「防衛費における『初度費』はなぜ大切か」の本文とグラフを参照)。当然コマツの特機部門の売り上げ減が続くことが予想される。
一定金額以上の売り上げが下がれば、研究開発や設備投資がままならなくなり、特機事業は事業として成立しなくなる。筆者はその日はそう遠くはないと見ている。その場合、撤退、他者との事業統合などビジネスの根本的な見直しが必要だ。これは事業部長レベルで判断できることではない。経営トップの決断が必要だ。だがコマツのトップマネジメントには特機部門に全く興味がないようにみえる。
しかも防衛産業の経営リスクも拡大している。以前はGDPが上がれば防衛部門の売り上げはそれに比例して上がっていた。また売り上げはもとより経費の取りっぱぐれもなかった。だからある意味、経営者が「放置プレー」をしていても問題はなかった。
だが、ここ数年、状況は大きく変わっている。 ・・・・・続きを読む
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- 清谷信一(きよたに・しんいち)
軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03〜08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。
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(前日分を集計)
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