しかも予算の絶対金額が減少しているので、これまでのように同じ分野でそれぞれの縄張りを維持する「住み分け」を行うようなことが難しくなってきた。
現在はどこのメーカーも現状を維持しようと必死になっているが、筆者はこれを「サウナの我慢大会」と呼んでいる。先に脱落する会社は出るだろうが、生き残った会社も体力を消耗して、結果、ビジネスを継続することは困難になるだろう。
現状維持を続ければ続けるほど、抜本的な改革の可能性は減じていく。しかも本業も大変な会社が少なくない。NECは今期大きな赤字を計上しており、本丸がピンチな状態だ。ゆえに経営陣は防衛産業部門をどうするのか真剣に考える必要がある。コアビジネスではない防衛産業からの撤退というオプションもあるだろう。
だがどこの企業も企業トップが防衛産業部門にあまり関心がないこともあり、事業統合は進んでいない。撤退や事業統合など変革はリスクを伴う。ゆえに自分の任期の間は手を付けず、問題を先送りにしているように見える。しかし、先に行くほど売り上げは細り、状況は悪くなる。筆者は90年代半ばから事業統合を訴えてきたが、あの時代ならば今よりはるかに状況はよかった。筆者にはこれら経営者の態度が極めて無責任に思える。
例えば装甲車輛の場合、メーカーは三菱重工、コマツの2強と日立の3社で、2強1弱状態だ。これに砲や砲塔システムなどを担当する日本製鋼所も主要プレーヤーだ。
戦後暫くは三菱重工とコマツが同じ装甲車の提案をするなど競合関係にあったが、その後戦車などの装軌式(キャタピラ式)装甲車は三菱重工、装輪装甲車はコマツと、住み分けがなされてきた(日立も装軌装甲車を生産)。だがソ連の崩壊後、世界的に装甲車輛は調達・維持コストが高い装軌式から調達・維持コストが安い装輪式装甲車にシフトしてきた。
これは我が国でも同じで、生産される装甲車の多数派は装輪式となった。このため三菱重工がコマツの縄張りを荒らし始めた。競争自体はいいことなのだが、コマツと三菱重工の争いは弊害が極めて大きい。
かつて陸上自衛隊の8輪の96式装輪装甲車などの後継として8輪の「将来装輪装甲車」が企画された。世界的に装甲車輛のファミリー化が進んでいる。これは例えば兵員輸送型をベースして、指揮通信型、野戦救急車、対戦車、自走迫撃砲、偵察、火力支援車など多数の派生型を開発・生産するものだ。車体のほとんどが共通化されているので、量産効果により調達・運用コストが大幅に低減できるメリットがある。
自衛隊は、少数しか生産しない装甲車輛を個別に開発・生産してきた。このため調達単価は高騰し、生産数が更に少なくなるという悪循環に陥ってきた。このため90式戦車など、陸上自衛隊富士学校を除けば北海道にしか配備されていない、北海道限定の銘菓「白い恋人」のような車輛が多い。
89式装甲戦闘車は68輛であり、96式自走120ミリ迫撃砲は24輛にすぎない。これらに至っては北海道限定どころか、唯一の機甲師団である第7師団限定アイテムだ。対して内地の部隊は装甲化がほとんど進んでいない。戦車に裸の歩兵(普通科)が無装甲のトラックで随伴する、第二次大戦以前の部隊が多い。大戦中でも中期頃からは米英独などでは装甲化された兵員輸送車の使用が一般化している。陸自の装甲化は途上国と比較しても遅れている。このような現状で、多額の費用をかけて戦車だけは新型の10式戦車を導入するのは軍事的な整合性を著しく欠いている。
首都の防備を預かる第一師団の普通科(歩兵)に走行車輛が導入されたのは2年前からである。内地の部隊をみれば、どこの途上国かというレベルだ。
これを見直そうという運気が陸自で前世紀末から持ち上がった。これは防衛省技術研究本部が音頭を取り、コマツが実質的に開発した「将来装輪戦闘車両」をベースにファミリー化を行おうというものだった。
だが ・・・・・続きを読む
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- 清谷信一(きよたに・しんいち)
軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03〜08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。
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