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竹内敬二
竹内敬二

「収束」宣言の先は、「収束」のない除染の道へ

2011年12月20日

日本語は奥が深い。「冷温停止」というだけでなく「事故が収束」といったほうが聞こえがいいし、収束といっても耳からは「終息」のイメージも入る。野田首相が福島第一原発事故について、「原子炉は冷温停止状態になり、発電所の事故そのものは収束に至った」と宣言した。

 「事故が収束した」「いや、まだだ」は、どの定義で考えるかによっても異なるが、炉の中が異常状態であることは間違いない。今は圧力容器の中の温度を測って「十分に低い温度」といっているが、1号機ではそもそも核燃料は格納容器に落ちてしまって圧力容器の中にはないと思われている。中の状態は本当には分かっていない。収束宣言翌日には仮設の冷却装置から水漏れも起きた。結局のところ、「収束」は「内部は何となく安定的な状態になった。突然に爆発などがおきることはないだろう」程度のことでしかない。「収束」は政治的な区切り宣言だ。

 冷温停止というのは、本来、事故後に使う言葉ではない。原子炉を止めるときに、制御棒を原子炉に入れて核分裂を止め、冷却水がきちんと循環している状況をいう。現在の事故炉では、核燃料がどろどろに溶けた状態で、圧力容器の下にたまったり、その底を破ったりしている。そこに強制的に水を入れているだけだ。

 炉の中がどんな状態になっているかは、分かっていない。炉心溶融にしても、燃料の圧力容器貫通にしても、これまで東京電力も政府も、同時進行では全く分かっていない。あとでシミュレーションをして、「ずっと前に起きていた」といっているだけだ。今回の事故では、内部状態を同時進行で知るシミュレーション能力の弱さを露呈している。いまもそうだ。原子炉内部にカメラを入れて目で確認しなければ、どうなっているかは分からない。

 今回の「収束宣言」は半分、政治的な発言だが、今後は言葉遣いの妙では乗り切れないイバラの道が待っている。

 放射能は空気のように広がって、土地の隅々にまで入り込んでいる。原子炉からいったんでた放射能は、2度と集めることはできないというのが常識だ。「除染」というのはそれを集めることだ。そもそも難しい。

 チェルノブイリでは、基本的に農地や森林の除染はおこなっていない。表土を代える客土をすればできないことはないし、森林でも少しずつ木材を切ったり、表土をとったりすれば、減っていく。しかし、その費用と、それをすることによって達成される経済効果が見合わないからだという。

 チェルノブイリの場合、一定程度以上の汚染地はもうあきらめて放棄している。

チェルノブイリの廃村

拡大チェルノブイリの疎開ゾーン。家は壊れ、畑は森に還りつつある

 住民は強制的に集団移転させられ、国家から補償をもらい、そこで生活をしている。私はチェルノブイリを4度取材し、最近では2006年に行った。4度とも同じ疎開村を訪れている。疎開の直後は、多数の住民が「帰りたい」と繰り返していたが、老人たちは、帰村を願い、あきらめ、死んでいった。

 無人ゾーン中にある元の村に行ったことがある。家は壊れ、畑は森に還りつつある。生活インフラは何もない。懐かしさで涙ぐむが、もう誰も帰りたいとはいわない。時間がかかればそうなる。

 福島は、チェルノブイリと同じとはいかないだろう。除染を試みる。しかし、何年も時間がかかる。もっと人々との生活再建の軸で除染を考えなければならない。つまり、どういう除染をすれば経済的合理性がある範囲でできるのか、人の生活再建とうまくリンクする時間内でできるのか、などだ。

 多くの人はすでに新しい土地で新しい生活をしている。その人たちの生活をどう支えるかを考えなけれならない。「帰らない選択肢、その人たちへの支援」も考える必要がある。

 ソ連は社会主義だったので、すべて国家の意思で処理できた。新しい家、新しい職業、ある程度の賠償も国家が与えた。しかし、日本では「道路や橋」など公共工事にはたくさんのお金が出るが、個人の生活再建にはお金を使いにくい。これまでの自然災害でつねに問題になってきた問題だ。・・・・・続きを読む

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プロフィール

竹内敬二(たけうち・けいじ)

朝日新聞記者。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員、編集委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、日本の原子力政策や発送電一貫の電力制度が形成された歴史を描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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