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宝塚プレシャス

宝塚コラム

男役の行方〜正塚晴彦の全作品

演出家正塚晴彦の全作品を通して、宝塚の男役の行方を見定める

  はじめに
  〜宝塚の新しい時代に向かって
(2007.9.4)

正塚晴彦

宝塚の人気は男役で持っている。虚構の男性が舞台上で光り輝く。では男役とはどういうものか。その姿は時代とともに変化していく。いまはちょうど新しい変化の季節にさしかかっているかのようである。演出家正塚晴彦に注目するのは変化の方向を見定めるためである。彼の描く男役は他の演出家の男役とは少し違う。それはどこを目指しているのか。 続きを見る


  I−1『暁のロンバルディア―愛が甦るとき―』
  男役の居場所探し:自己否定の思想
(2007.9.11)

1.暁のロンバルディア

ロンバルディアとは、イタリア半島北部に広がる平原を指す。時代は16世紀。当時はまだイタリアという統一国家は成立していなかった。ミラノ公国、ジェノア共和国、ヴェネチア共和国など群小国家が乱立し、北からはフランスと神聖ローマ帝国がイタリア半島を支配下に置こうとうかがっている。このデビュー作は同じ1981年に、星組と雪組により、バウホールで続けて上演された。 続きを見る


  I−2『イブにスローダンスを』
  男役の居場所探し:過去の呪縛の強さ
(2007.9.18)

イブにスローダンスを

1982年のバウホール第2作、花組の『イブにスローダンスを』は、やはり主人公が新しい自分を求めて青春をさまよう物語である。舞台は第二次大戦から間もない英国リヴァプール。平みちのロバート・フリーマンはクリスマス・イブに恋人キャサリンを交通事故で失う。イブのパーティーには『ホワイトクリスマス』が流れていた。ロバートは思い出の詰まり過ぎた故郷を去ってロンドンへ行く。彼は脚本家志望だったので、執筆に専念しようと思う。 続きを見る


  I−3『アンダーライン』
  〜男役の居場所探し:プレイバック〜
(2007.9.25)

アンダーライン

バウホール第3作、1983年の花組『アンダーライン』では、大浦みずきがレナード・バレルというハードボイルドタッチの私立探偵を演じる。舞台は1955年頃のロサンゼルスに設定されている。するとハードボイルド作家レイモンド・チャンドラー後期の長編『長いお別れ』(1954年)、『プレイバック』(1958年)と時間・場所が重なり合う。 続きを見る


  I−4『テンダー・グリーン』
  男役の居場所探し:心を開くこと
(2007.10.2)

テンダー・グリーン

正塚晴彦の宝塚大劇場デビュー作は1985年の花組『テンダー・グリーン』である。この近未来SFは、今の目から見ると、目新しいことはないように思われるかもしれないが、かなり先駆的性格を持っている。地球の環境破壊が進み、自然界の植物は絶滅した。人々はドームの中で暮らしながら、地球脱出計画を立てている。高汐巴のソーン・ドレイクはこの計画のために、人間らしい感情を持たない戦闘要員として育てられた。 続きを見る


  II−1『パペット−午前0時の人形たち−』
  庇護者を超えて:恩返し
(2007.10.9)

パペット

1986年の星組『パペット−午前0時の人形たち−』はバウホール第4作目に当たる。ここでも新城まゆみが大人の男ジェイを魅力的に演じていた。彼は女性パートナー、洲悠花のケイと一緒にパペット(操り人形)の巡業劇団を経営しているが、過去に秘密がある。劇団といっても規模は小さく、施設から引き取って育てた女の子エルと都合3人しかいない。劇団の移動も人形の操作も陰で付けるせりふも、すべてこの3人でこなしている。 続きを見る


  II−2『WHAT'S THE TITLE…!』
  庇護者を超えて:名歌手卒業
(2007.10.16)

WHATS THE TITLE...!

バウホール第5作、1987年の星組『WHAT'S THE TITLE…!』は、トップ峰さを理を送り出すリサイタルである。5月に東京のゆうぽうと簡易保険ホールで初演され、8月にバウホールで再演された。彼女はこの年11月の東京宝塚劇場公演『別離の肖像』で退団する。そういう舞台なので、この名歌手の歌をたっぷり聞かせるのが、公演の趣旨である。実際、2幕構成の内、第2幕では、彼女が独りで観客に語りかけながら、これまでに歌ってきた数々の曲を深い情感をこめて歌い継ぎ、観客を魅了した。 続きを見る


  II−3『BLUFF(ブラフ)−復讐のシナリオ−』
  庇護者を超えて:弔い合戦
(2007.10.23)

BLUFF

 バウホール第6作、1990年月組の『BLUFF(ブラフ)−復讐のシナリオ−』は、ハードボイルドタッチのサスペンスという点で、『アンダーライン』の系譜に属している。この作品は1973年のアメリカ映画、ジョージ・ロイ・ヒル監督『スティング』を下敷きにしている。映画では詐欺師グループが私設場外馬券売り場を作り、巧みにマフィアのボスを誘い込むことになっている。初めは彼を勝たせ、最後に大金をつぎ込ませる。そこへFBIが踏み込んで銃撃戦になり、ボスは金を置いて逃走する。FBIも詐欺師の一味で、銃撃は空砲。撃たれた連中は迫真の演技で死んだふりをしたのだった。 続きを見る


  III−1『ロマノフの宝石』
  男たちの孤立:パンドラの箱
(2007.10.30)

ロマノフの宝石

1989年の花組大劇場公演『ロマノフの宝石』は、1930年代ヨーロッパの、とある国が舞台になる。この国は隣国のファシスト政権に占領されている。もっとも、具体的な政治状況を追うのではなく、全体としては、そういう困難な状況の中でふと花開いた夢物語である。 続きを見る


  III−2『銀の狼』
  男たちの孤立:友と別れる朝
(2007.11.6)

銀の狼

1991年の月組大劇場公演『銀の狼』は、全体の構成に一分の隙もなく、稀に見る傑作である。涼風真世のシルバと天海祐希のレイはパリの殺し屋仲間で、深い信頼によって結ばれている。涼風はこの年『ベルサイユのばら―オスカル編―』でトップ披露を行い、天海が2番手になった。しかし披露公演では、2番手役のアンドレに天海以外にも、雪組の杜けあき・星組の日向薫・花組の大浦みずきと、各組トップが特別出演したので、涼風・天海の本格的な共演は『銀の狼』から始まる。 続きを見る


  III−3『メラコリック・ジゴロ―あぶない相続人―』
  男たちの孤立:カーニバルの後に
(2007.11.13)

メランコリック・ジゴロ

この1993年の花組大劇場作品は、大浦みずきの後継トップ安寿ミラ・2番手真矢みきという抜きん出たコメディセンスの持ち主にはめて書かれた。このコンビはそれぞれの愛称をとって、よくヤン・ミキと呼ばれる。プログラムによると、舞台は1920年代のヨーロッパである。大橋泰弘の装置は明るいベージュやオフホワイトを基調にして、人々の溜まり場のカフェの窓にはCôte d'Azur(コートダジュール)というフランス語の店名が、店の中から見て裏返しに書かれている。 続きを見る


  III−4『ブラック・ジャック 危険な賭け』
  男たちの孤立:権威との闘い
(2007.11.20)

ブラック・ジャック

私の仮の分類によると、第III期最後の大劇場作品は、1994年の花組『ブラック・ジャック 危険な賭け―手塚治虫原作より―』である。宝塚歌劇はちょうど80周年を迎えていた。この年、宝塚大劇場の近くに宝塚市立手塚治虫記念館が開館し、これを祝う「メモリアル公演」として企画された。手塚治虫は宝塚で育ち、子供の頃から歌劇に親しんだ人である。「メモリアル公演」では、ショーもやはり手塚作品から『火の鳥』が選ばれ、草野旦が作・演出を担当した。 続きを見る


  IV−1『二人だけの戦場』
  男と女の絆:平和への道程
(2007.11.27)

二人だけの戦場

バウホール第7作、1994年雪組『二人だけの戦場』は、架空の国を舞台にしているが、当時世界の注目を集めていたユーゴスラビア紛争を下敷きにしているのは間違いない。この紛争は幾つもの民族が入り乱れ、複雑な様相の下に戦われた。善対悪という単純な図式では割り切れず、舞台化には独自の切り口が必要になる。恐らくそのせいもあって、この戦争をモチーフにする日本の劇作品は少なかったが、正塚晴彦は明確な視点を持っていた。 続きを見る


  IV-2『WANTED』
  男と女の絆:来世まで
(2007.12.4)

WANTED

1994年のバウ第8作、月組の『WANTED』では、男同士の親友が、実は主人公を陥れる者だったという恐るべき話に発展する。舞台はイタリアである。久世星佳演じる一匹狼のアウトロー、ニコル・シドランは、マフィアの幹部を殺したという疑いを当のマフィアに抱かれた。これは濡れぎぬである。しかし弁明の利くような相手ではない。彼らは警察より怖い。つかまれば裁判抜きで死刑になる。 続きを見る


  IV−3『LAST DANCE』
  男と女の絆:時の流れ
(2007.12.11)

LAST DANCE

1995年花組のバウホール公演『LAST DANCE』は、前作『WANTED』と同じように、イタリアを舞台にするサスペンスである。また、同じように「時の流れ」の意識が強い。しかしながらそれは、前作のように古代の夢へ誘う郷愁の時間ではなく、目の前を刻々と過ぎて再び戻らぬ非情な流れである。この非情さには2つの理由が考えられる。第1に花組のトップで名ダンサー、安寿ミラのバウホールとの決別の公演である。 続きを見る


  V-1『ハードボイルド エッグ』
  複眼の視点:パロディとシリアス
(2008.1.15)

ハードボイルド・エッグ

この1995年の月組大劇場作品は、『LAST DANCE』におとらず、阪神淡路大震災の影響を大きく受けている。1月17日未明の地震は宝塚大劇場を直撃して損傷を与え、花組安寿ミラの退団公演を中断させる。続く2〜3月に予定されていたのが、まさに『ハードボイルド エッグ』と『EXOTICA!』だったが、全日程がキャンセルされ、6月の東京公演だけが行われた。大劇場再開は3月31日。星組麻路さきのトップ披露公演初日からになる。作品の内容にもこのことは関わってくる。 続きを見る


  V-2『二人だけが悪(ワル)―男には秘密があった そして女には…―
  複眼の視点:男役と娘役
(2008.1.22)

『二人だけが悪』表紙

この1996年の星組大劇場作品は、前作と違って、ハードボイルドのパロディではなく、ハードボイルドそのものである。主人公ジェイ・レンハートは、学生時代アメリカンフットボールのクウォーターバックだった。しかし肩を痛めて選手を断念し、CIAにスカウトされた。今はCIAを辞め、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、アメリカ大使館に勤務している。主演の麻路さきは、大柄で誠実で爽やかな芸風で、スポーツ選手の経歴がよく似合う。時は1980年代の初めである。世界は東西冷戦のさなかにあり、アルゼンチンの軍事政権は、民衆の不満をそらすため、英国との間にフォークランド戦争を用意していた。 続きを見る


  V-3『バロンの末裔』
  複眼の視点:エロスと社会
(2008.1.29)

バロンの末裔

1996〜97年の月組大劇場作品『バロンの末裔』は、20世紀初めのスコットランドを舞台に、由緒あるボールトン男爵家の双子の兄弟を描く。正塚作品の数々の男役を情感深く演じてきた久世星佳が、兄のローレンスと弟のエドワード2役を替わって退団していった。兄弟は同じ1人の女性風花舞のキャサリンを愛している。彼女は本当は弟の方が好きだった。しかし兄が家督を相続すると、弟は軍隊に入り、キャサリンは兄と婚約した。 続きを見る


  VI-1『FAKE LOVE―愛し過ぎず 与えすぎず―』
  恋のゲーム:イエスタデイ
(2008.2.5)

FAKE LOVE

この1997年の月組作品は、バウホールのちょうど10作目に当たっている。MAKEが「何々をする」なのに対して、FAKEは「何々をするふりをする」である。したがって題名は、「恋をするふりをする」ということになる。サブタイトルと併せて考えると、全体として「恋のゲーム」を主張しているかに思われる。舞台は1950年代。ロサンゼルス郊外の高級住宅街ビヴァリーヒルズ。50年代のアメリカは戦勝気分が濃く、一方60年代から始まる黒人公民権運動やベトナム戦争の嵐にはまだ見舞われていない。そういう時代の物語である。 続きを見る


  VI-2『SAY IT AGAIN―「ヴェローナの2紳士」より―』
  恋のゲーム:結婚詐欺
(2008.2.12)

SAY IT AGAIN

この1999年の雪組作品は、英文学者小田島雄志氏をスーパーアドバイザーに迎えて、中堅・若手の演出家がこの年バウホールで腕を競った「シェイクスピア・シリーズ」8作品の1つ(その第7作)だった。8つの作品は原作に忠実な翻訳劇と、物語の背景を変えた翻案劇の2つに分けられる。『SAY IT AGAIN』は後者だった。原作の『ヴェローナの2紳士』は上演されることが少ない。話の運びに無理が見られるからである。ヴェローナに住むヴァレンタインという青年がミラノ大公の宮廷に出仕し、大公の娘シルヴィア姫と相思相愛になる。 続きを見る


  VI-3『デパートメント・ストア』
  恋のゲーム:この世に生きて
(2008.2.19)

デパートメント・ストア

2000年雪組の大劇場作品『デパートメント・ストア』は、演出家が初めて手がけたショーで、彼の作品系譜の中では異色である。またショーとしても異例のあつかいがなされていた。2本立て公演ではショーはふつう後に置かれるが、この時は前に置かれ、上演時間も通常より10分短い45分である。ショーに付きもののフィナーレと大階段のパレードは、後に回ったドラマ柴田侑宏脚本・謝珠栄演出振付『凱旋門』の終幕を飾っていた。この公演には冠(スポンサー)がついていた。そこで印象を華やかにするため、ドラマに対して1本立てに準じる装いを与えたので、こういう割り振りになったかと思われる。 続きを見る


  VII−1『ブエノスアイレスの風―光と影の狭間を吹き抜けてゆく…―』
  男役の潔さ:恋人の再会
(2008.2.26)

ブエノスアイレスの風

正塚晴彦は1998年から、大阪・茶屋町のシアター・ドラマシティ宝塚公演用に、4年続けて5本の作品を書き下ろした。『ブエノスアイレスの風』(98年月組)、『Crossroad』(99年宙組)、『Love Insurance』(00年星組)、『Practical Joke』(01年月組)、『カナリア』(01年花組)。この5本は、同時期の宝塚全体の中に置いても、演出家の系譜の中で見ても、ひときわ高い山脈を形作っている。傑作ぞろいといってよい。 続きを見る


  VII−2『Crossroad―すれ違うばかりじゃやりきれない―』
  男役の潔さ:生きていくことの十字架
(2008.3.11)

CROSSROAD

1999年のシアター・ドラマシティ第2作『Crossroad―すれ違うばかりじゃやりきれない―』は宙組の和央ようかが主演した。和央は1998年に誕生した宙組の最初からのメンバーで、のちに姿月あさとの跡をついで、この組の2代目トップになる。主人公アルフォンソ・ギシャールは、少数民族ロマの青年である。時と所は指定されていないが、現代の南ヨーロッパかと思われる。アルフォンソは故郷の村から独りで都会へ働きに出てくる。赤子の時この都会に捨てられていたのを、やはりロマ人である今の養い親に拾われ、田舎で育てられた。 続きを見る


  VII−3『Love Insurance(ラブインシュランス)』 
  男役の潔さ:20世紀の『ジゼル』
(2008.4.1)

LoveInsurance

これは20世紀最後の2000年に上演された星組作品で、シアター・ドラマシティの第3作に当たる。正塚晴彦によく見られるように、題名がくせ者である。訳せば「恋愛保険」になる。恋愛を失うと保険金が出るのか。そのような便利なものではない。稔幸のレイ・モンゴメリーはロサンゼルスの私立探偵である。彼は名家の出身で、育ちがよい。そこが1つのポイントになる。幕開き、彼の前に次々に黒づくめの異様な者たちが現れる。それはギャングたち、スパイダーマンたち、兵士たち、そして女豹たちである。舞台の奥に星奈優里の白装のグロリアが現れる。 続きを見る


  VII−4『Practical Joke(ワルフザケ)―ってことにしといてくれよ―』 
  男役の潔さ:非婚の夢
(2008.4.15)

Practical Joke

2001年3月のシアター・ドラマシティ第4作は、月組のトップ真琴つばさが退団直前に主演した(退団公演はこの年5〜7月の宝塚大劇場『愛のソナタ』『ESP!!』)。真琴の役ドイル・ウエンズワースは、映画界のトラブル・バスターで、撮影につきもののトラブルを揉み消すのが仕事である。頭が切れて、腕が立ち度胸も据わっているが、タフな外見に似合わず、心は純で孤独で、早くこの仕事をやめて、別の遠い世界へ逃れたいと考えている。その点に真琴の旅立ちを重ね合わせて見ることができる。 続きを見る


  VII−5『カナリア』 
  男役の潔さ:悪魔のダンディスム
(2008.4.30)

カナリア

シアター・ドラマシティ第5作、2001年花組の『カナリア』は、匠ひびきのトップ初仕事である。宝塚大劇場での披露公演は、翌2002年の『琥珀色の雨にぬれて』『Cocktail―カクテル―』になる。それは同時に退団公演でもあった。 続きを見る


  VIII−1『追憶のバルセロナ』 
  男役の行方:出会いと別れ
(2008.5.13)

追憶のバルセロナ

 2002年の雪組公演『追憶のバルセロナ』は久しぶりの大劇場作品である。『デパートメント・ストア』からは2年を置くに過ぎないが、これはショーなので、勘定に入れなければ、ドラマとしては『バロンの末裔』以来、実に5年ぶりだった。 大劇場のドラマ作品は伝統に縛られる。ショーを後に置く2本立て公演の前物として、開幕シーンには華やかな総踊りがふさわしい。またその2本立ての割り振りから、上演時間は1時間35分と決められている。このような制約は、ドラマ性よりも、見た目本位のレビュー性を重視する宝塚の伝統からきている。その点が、比較的自由な演出の認められるバウホール、シアター・ドラマシティ作品との違いである。 続きを見る


  VIII−2『Romance de Paris』
  男役の行方:ローマの休日
(2008.5.27)

Romance de Paris

2003年の雪組大劇場作品『Romance de Paris』は、前年『追憶のバルセロナ』の舞台で、絵麻緒ゆうからバトンタッチされた朝海ひかるが主演した。新トップのお披露目それ自体は、年始め1〜2月の『春麗の淡き光に』『Joyful!!』で済ませていたから、初秋8〜9月の『Romance de Paris』『レ・コラージュ』は、新生雪組2回目の公演である。ちょうどその1回目と2回目の間に、星組でも異動があり、湖月わたるがお披露目をしたが、この時から歌劇団はトップという呼称を主演男役・主演娘役に改めた。湖月の提案を歌劇団が採用した結果だと伝えられている。従って朝海は披露公演の際はトップ男役、2回目からは主演男役ということになる。 続きを見る


  VIII−3『BOXMAN ― 俺に破れない金庫などない ―』
  男役の行方:伝説のコンビ
(2008.6.10)

BOXMAN表紙

2004年の宙組シアター・ドラマシティ公演『BOXMAN―俺に破れない金庫などない―』は、構成の綿密さ・演技の自在さにおいて、1998年から2001年にかけて同じ劇場で上演された5本の連作と肩を並べ、完成度はひときわ高い。主演コンビの和央ようか・花總まりはこの作品で第29回菊田一夫演劇賞を受賞した。宝塚の卒業生・現役生徒・スタッフで受賞したのは、それまでに延べ34人を数えるが、現役生徒――すなわち黒の紋付きに緑のはかまで授賞式に臨んだ人――に限れば順みつき、春日野八千代、松本悠里、轟悠の4人しかいない(春日野八千代は授賞式には欠席したので実際は3人である。) 続きを見る


  IX−1『BourbonStreet Blues』
  青春のさなかに:ジェームズ・ディーン
(2008.6.24)

BourbonStreet Blues表紙

2005年上半期の宝塚バウホールでは、若い演技者育成の意図をこめて、5つの作品が同じ公演形態によって次々に上演された。1つずつの作品を、それぞれの組ごとにまずA班で中堅男役が主演し、次にB班で若手男役が続演する。15人ほどの出演者は、班が替わると、主演男役だけでなくすっかり入れ替わる。ただ、専科あるいはその組の上級生が1人か2人、要になる役を通して担当した。こうして、花・星・雪・宙の4組で4作品8公演が行われた後、最後に、上半期からは少しずれるが、7〜8月に月組で『BourbonStreet Blues』が上演された。 続きを見る


  IX−2『スカウト』
  青春のさなかに:秋葉原無差別殺傷事件
(2008.7.8)

スカウト表紙

2006年のバウホール花組公演『スカウト』は、奇怪な者たちが跳梁するファンタジーである。この者たちは悪鬼とも悪魔とも4次元の生き物とも呼ばれ、人が心の平静を失うと、そこにつけこんで死へ誘う。悪鬼たちは、標的を見つけるとしつこく攻撃をしかけるが、直接手を下すことはできない。相手が自殺したり、事故に巻き込まれたり、あるいは他人を殺すのを、あの手この手を使って、じっと待っている。東京・秋葉原で去る6月8日に起きた無差別殺傷事件を考えると、背筋が寒くなる。 続きを見る


  X−1『La Esperanza―いつか叶う―』
  希望:ペンギンのように
(2008.7.22)

La Esperanza公演プログラム表紙

2004年花組のこの大劇場作品は、題名のとおり、「エスペランサ」すなわちスペイン語でいう「希望」の物語である。春野寿美礼のカルロスとふづき美世のミルバは、苦しい目に遭いながら決して希望を失わない。作品全体は専科の未沙のえる扮する中年の男マイケル・ゴールドバーグの回想として進められる。希望を求めているのは、実はゴールドバーグその人である。回想の中のヒーロー・ヒロインの姿は、語り手の思いの投影にほかならない。 続きを見る


  X−2『ホテル ステラマリス』
  希望:トリスタン
(2008.8.5)

ホテルステラマリス公演プログラム

「すべては訪れ、彼方へ消え去る/波間に漂う うたかたみたいに/かたちも見えない 遥かな時から/とどまることなく 繰り返してきた」高橋城作曲の主題歌『イン・ブルー』はこう歌っている。すべては繰り返すという。それではここで物語られることもまた昔あったことの繰り返しなのか。2005年宙組の大劇場作品『ホテル ステラマリス』の「ステラマリス」とはラテン語の「STĒLLA MARIS」から採られ、「星の海」を意味する。ホテルの前に広がる海が、満月の夜、無数の星影を宿したように青く輝く。その理由はまだ分かっていない。 続きを見る


  X−3『愛するには短すぎる』
  希望:騎士道物語
(2008.8.19)

「愛するには短すぎる」ル・サンク表紙

2006年の星組大劇場作品『愛するには短すぎる』は、主演男役湖月わたるの退団公演である。先にVIII-2『Romance de Paris』でも触れたが、この人が2003年4月に星組を率いるようになった時から、歌劇団はトップ男役・トップ娘役という呼び方を、主演男役・主演娘役に改めた。湖月の提案がきっかけだと伝えられている。トップの語感には、歌舞伎の座頭に似た身分制度的雰囲気があるが、主演男役といえばキャスティングのことになるので、上下関係ではなく役割分担の印象が濃くなる。 続きを見る


  X−4『マジシャンの憂鬱』
  希望:観客の夢
(2008.9.2)

「マジシャンの憂鬱」公演プログラム表紙

瀬奈じゅん扮するクローズアップ・マジシャンのシャンドールが突然あらぬことを口走り始める。彼は透視をしている最中である。しかも口にする内容は白昼夢に似ている。すると透視とは夢を見ることなのか。「あれは地下室? 暗い。穴蔵のような。さまよって。分からない。これは誰かが見ている景色か? 誰なのか。まるで精神を感じられない。ん? 見えなくなった。真っ暗で……手だ。女性の手。顔を覆っているのか。……指輪を見ている。結婚指輪。サファイアがぐるりと埋め込まれている。高価な。光っているのはダイヤ。等間隔にダイヤを挟んで」 続きを見る


  X−5『マリポーサの花』
  希望:男役の行方
(2008.11.11)

「マリポーサの花」公演プログラム表紙

幕開き1人の男が海を見て、つぶやく。「また生き残った。俺でなくてもよかったのに……。今はせめて君に生きている証しを届けよう」男は水夏希扮するネロである。彼は革命に参加して、政府軍に追われる身となった。愛する女セリアに会うことはできない。せめて彼女の元へ自分の生存の証しを届けたいと思う。その証しが、題名にうたわれる「マリポーサの花」である。自分が生きている限り、毎月同じ日にこの花を届けると約束してあった。 続きを見る


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