大浦みずきさんインタビューの後半はダンスのお話。「踊る場を作ろう」そんなシンプルな思いから始まった『コインランドリー』は、“大浦みずきダンスシアター GIGEI TEN”という名の10年プロジェクトの第1弾。踊り、言葉、それぞれのプロフェッショナルが集まって1つの作品を作り上げていく過程をじっくり伺いました。ほか、最近行った宝塚での振り付けのこと、また8月に行われる宝塚OGによるダンス公演『DANCIN' CRAZY』についても。さらに「スターNow!」ならではの5つのQUESTIONで大浦みずきの「今」を大分析!動画メッセージもお楽しみに。
(取材・文:榊原和子/写真:吉原朱美)
宝塚で振付を
- ―― ところで、最近、宝塚歌劇団で振付けのお仕事をしたそうですね。
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お手伝いしたというほうが正確かな(笑)。
若手のバウのワークショップで『ハロー!ダンシング』という作品です。各組共通の場面とその組特有の場面とがあるんですが、幕開きに私が昔ニューヨーク公演でやった「べニー・グッドマン」の場面を再現するので、教えてやってほしいと言われまして。新しい振付けも1本頼まれたんですけど、私も昨年の12月から、自分の『コインランドリー』の準備に入っていて、それはできないとお断りして。ただ「べニー・グッドマン」は、できるかぎり見てほしいということでしたから、アシスタントのAYAKO(元花組の宝樹彩)に、振り起こしとか面倒みてもらいました。
あとで知ったんですが、AYAKOは一緒にニューヨーク公演には行ってたのに、そのシーンは出てなかったとかで、ごめんねと(笑)。稽古場では、とりあえず「振付のリンダ(・ヘーバーマン)はこう言ってたよ」というのを伝えました。
- ―― 名ダンサー大浦みずきのセンスは、確かに伝わっていましたね。
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あのシーンは意外と没個性の踊りで、ある種マスゲーム的に揃えるんです。だからその代わり、「音を踊って、踊って」と。「全部が100%でなくてもいいから。ここは100%出したら、ここは少し引いて踊ってごらん」とか、そういうアドバイスで、“音を踊る”ということを教えたんです。
星と雪、2組をみてあげたんですが、まだ若いというか下級生ばかりで、組によっても技術なども少し違っていました。星組のほうが少し上級生みたいでしたね。名前もほとんどわからなかったんですけど、一度踊りを見たらどれくらいの力かはわかりますから、それで指導しました。
- ―― すごく難易度が高いダンスでしたけど、星組も雪組も本番ではよく踊ってました。
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シンドイ踊りなんですよ、しかも始まりがそれですから。とにかく一番楽な方法がみんなの呼吸が合っていることなんだよと、口を酸っぱくして言ったのはそれだけです。でも観たかたの話を聞いたらよくなっていたみたいですね。
振付に入っていらしたケンジ中尾さんは、当時、リンダさんの通訳もしていたので、今回もずっと付いて、見てくれたり言ってくれてたりしてくださったそうですし、ほんとに私はお手伝い程度の関わり方でしたけど、楽しかったです。
踊っていく大浦
- ―― さて、ご自分の『コンランドリー』公演ですが、これは最初はどういう形で始まったんですか?
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「大浦みずきダンスシアター」とあるように、最初はとにかく踊る場を作ろうと思って。そこに振付の前田清実さんを巻き込もうと、しかも一緒に出ない?と(笑)。
- ―― そんな何もないところから?
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そう(笑)。それで、前田さんと2人でしゃべりながら、とりあえずショーのタイトルだけつけて、こういうのをやると言おう、というところまで考えて。
それから自分はどんなものを踊りたいかと思ったときに、何か芝居と踊りが融合したものができないかなと思ったんです。芝居というか言葉というか。そして、言葉を探すのなら言葉の専門家をということになって、ダメもとで(演出家の)鈴木裕美さんをということになったんです。
- ―― たしか、鈴木裕美さんとは仕事は一度もしてないですよね?
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でも一緒に飲んだことはあって(笑)、そのときに彼女が踊りが好きという話を伺っていましたから、思いきって連絡したらグッドタイミングで、スケジュールが空いてらして、もちろんやります、と言ってくださったんです。
でも、「何かしたいんですけど」と相変わらずおまかせ状態で(笑)、私は“場所”と“するんだ”しかないから(笑)。そういうところから始まったので、はっきりやるものが決まるまで2ヵ月近くかかりました。
- ―― シリーズタイトルが「GIGEI TEN 伎藝天」で、ここに大浦さんの思いが込められているんですか?
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伎藝天って秋篠寺にある仏像で芸能の神様なんですが、とても好きで、たまに拝観に行くんです。それに10年計画でやろうかなということと、名前に“テン(10)”がついてるのがちょうどいいかなと思って。
- ―― これからそこで、踊る大浦さんを見せていく感じですか?
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毎回同じ形態とは限らないし、構成とかどう変わるかわからないんですが、とにかく踊る場にしたいと思っているんです。
- ―― 今回は『コインランドリー』という芝居と踊りの融合で、台本は鈴木勝秀さんのものなんですね。
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この本を使いましょうと決めたところから、また悩んだんです。どう踊りにもって行こうかと。そこでイメージとして『コンタクト』という有名なミュージカル作品が浮かんで、あれは芝居から踊りになって、また芝居に戻るでしょう? そういう感じにしようかなと。
でも少し変えて、最初にかなり短い芝居があって、主人公の女性が、そのクライマックスで何を考えているかというのをダンスで見せていくことにしたんです。私たちは「脳内劇場」と呼んでいるんですけど、はっきり言えば彼女が「死のうかな」と思ってる瞬間に、もしかして走馬燈のように彼女の中で思っているかもしれないたくさんの思い、それがさかのぼってバーッと出てくるかもしれない。そこを全部一気にダンスでやってしまおう、ということになったんです。
- ―― かなりドラマチックになりそうですね。音楽は?
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結局クラシックにしたんですが、2つチョイスがあって、コンテンポラリー系も浮かんでいたんです。でも清実さんが「挑戦してみる、がんばる」ということで、クラシックということになりました。
クラシックってやっぱり音楽にうねりがあるんですよ。でも、あんまり音楽に歌われすぎちゃうといけないんですけどね。現代的なものって、非常に淡々としてるんだなと、クラシックを聞いてると思いますね。
- ―― コンテンポラリー系は舞台上の高揚を抑圧するものもありますよね。
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コンテンポラリー系も一部使うんですけど、でもそれは古楽に近かったりします。
- ―― クラシックのポピュラーなものだと、イメージが強すぎたりしませんか?
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あまり知られていないマイナーなものを使う部分も、わざとポピュラーなのを使ってる部分もあるんですが。ポピュラーなものはイメージがすでに付いているけど、逆にそれに乗っかってしまうというのもありかなと。
鈴木裕美さんがすごいんですよ。話をしているなかで、なんでこの曲を選ぶのかという根拠がはっきりしてるし、わかりやすいし。ここまでできあがってくる途中でも、清実さんが踊りながら、ときどき演出側に座って見て言うダメ出しと、裕美さんの言うダメ出しが全然違ってて、それぞれ面白いんですよ。裕美さんは、いかに演劇的に踊るかという部分を重視しているんですね。私は自分のやってる部分は見れないんですけど、6人のアンサンブルの人たちが出ていて、彼女たちへのサジェスチョンを聞いていると、すごく面白いんですよ。
- ―― 裕美さんはロジカルですよね。それに彼女がやる以上、演劇的意味をちゃんと入れたいでしょうから。
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うまく入るんですよ、これがまた(笑)。6人にワークショップをして個性をつけてくださって、1人1人を際立たせる方向に向かわせているのがすごいなと。
- ―― そして芸達者な福麻むつ美さんに、清実さん、楽しみなメンバーですね。
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清実さんが、おそらくいちばんたいへんだと思います。
- ―― 大浦さんは夏にも大きなダンス公演が控えていて、宝塚のOGばかりステージの頂点で踊るとか。
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いえいえ、私より何世代も下の現役に近いかたばかりですから、皆さんにおまかせしたいなと(笑)、気楽にかまえているんです。
- ―― でも「大浦みずき率いる」というのがコンセプトみたいですよ。
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では、ラクなところだけチョロっと(笑)。
- ―― まだ具体的には見えてないと思いますが、ダンサーで有名だったスター揃いですから、かなりハイレベルなダンスでしょうね。
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でも、1回トップとかやっちゃうと、「はいみなさん揃えてやりましょう」とかいうのは、意外とうまくできなくなってて(笑)。宝塚在団中にも私、2番手くらいのときでさえ、何人かで踊るときに1人で乱してたんですよ(笑)。どうも合わせるという能力が欠如しちゃうみたいで。
- ―― スターには自己主張はあって当然だし、自分の個性を大事に、殺し合わずに見せてくれる、そういう演出を期待しましょう。
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三木(章雄)先生に、そのへんはおまかせしたいと思います(笑)。
大浦みずきの“今”5questions
Q1.「今」お気に入りの手作り料理は?:
やはり時間がないときは鍋系ですね。
今、はまっているのが2種類あって、1つは栗原はるみさんの本に載っていた「土鍋で作るすき焼き」。最初に白菜を土鍋に敷き詰めて、他の野菜も入れて、まず調味料だけで蒸すんです。そのあとまたお肉を入れて蒸す。あっさりしたすき焼きです。
もう1つはもっと簡単で、大阪のお好み焼き屋さんで出てくる料理です。もやしと豚肉を蒸し器とかで蒸すだけ、それをポン酢で食べる。いくらでも食べられます。
Q2.「今」気に入っているエクササイズは?:
加圧トレーニングです。
腕と足の付け根をバンドで締めるんです。ゆるく長時間もあるし、ぎゅっと締めて短時間も。人によって違うんですが、とにかく血流を止めておいて運動するんです。かなりツライです。きついときは10分くらい。バンドを取ると一気に血液が流れて細胞が活性化して筋肉がすごくつきます。つまりは筋力トレーニングなんですが、腕とか太くなりすぎるので、やりすぎないようにしてます。
Q3.「今」気に入っていることは?:
(稽古中に)やっちゃいけないことなんですけど、夜中にケーブルテレビの「必殺シリーズ」を見ること(笑)。夜中の2時まで起きてると、必ずひっかかって3時まで寝られないことになる。魔の時間帯ですね。
Q4.「今」共演してみたい人は?:
いっぱいいます。どんな稽古してるかのぞきたいのが、大竹しのぶさん。ゼロから本番までの道のりが見てみたい。
Q5.「今」の大浦みずきを表現するキャッチコピーは?:
「10年計画中」。
あと10年は踊るぞと決めたらそういう場が意外と出てきて、最初はたいへんだろうなって思ってたんですけど、たいへんなのもやってるうちに快感になってきて(笑)、周りのフォローがあるからでしょうけど、自分がちょっと変わってきました。より面白いものを見せていきたいなって思っています。
大浦みずきさん動画メッセージ
インタビューの様子がご覧いただけます(7分52秒)