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宝塚プレシャス

スペシャルインタビュー

宝塚歌劇団演出家 木村信司さんインタビュー

(2006.06.30)
 この夏、手塚治虫の名作漫画「リボンの騎士」がミュージカルになる。演じるのはモーニング娘。と美勇伝、劇中で男性の役にも挑戦するという。手塚氏の生まれ故郷に花開いた文化といえば“タカラヅカ”だが、その宝塚にインスパイアされて誕生したのが、「リボンの騎士」。主人公で、男女二つの魂を持つサファイヤ姫は、おりしも宝塚で人気再燃中の『ベルサイユのばら』のオスカルに、50年の時を超えて鮮やかにリンクする。そんなタイムリーな上演にふさわしく、演出に起用されたのは、宝塚歌劇団の木村信司。次々に話題作を発表している気鋭の若手である。 (取材・文:榊原和子)
 
木村信司

きむら しんじ。宝塚歌劇団演出家。
88年、宝塚歌劇団入団。演出、脚本を手がけた主な作品に「ゼンダ城の虜」(00年月組)、 「愛のソナタ」(01年)、「鳳凰伝」(02年宙組)、 「王家に捧(ささ)ぐ歌」(03年星組)、 「スサノオ」(04年雪組)、 「アーネスト・イン・ラブ」(05年月組)、 「炎にくちづけを」(05年宙組)、 「暁のローマ」(06年月組) ほか多数。
「王家に捧ぐ歌」で03年芸術祭賞優秀賞受賞。

  宝塚の原点に帰る

――木村さんがこの作品を演出することになったいきさつは?
 手塚治虫先生の故郷は宝塚市ですし、まだ無名のころは宝塚歌劇の出版物にもマンガを描かれていて、歌劇団とは縁の深いかたなんです。そこで今回の『リボンの騎士』は宝塚から演出家をという話になったわけです。

 この公演には宝塚歌劇団が製作に全面協力しており、ポスターやチラシにも「タカラヅカ」と書かれているのですが、そんなことはおそらく92年の宝塚の歴史の中でも初めてで、ちょっと緊張するんですが。
――宝塚の座付き演出家としては、この作品で宝塚ならではのノウハウをどこまで取り入れようと?
 そのことについてはいろいろ考えました。モーニング娘。に、「男役10年」といわれる宝塚のスタイルを、そのままやらせるわけにはいかないなと。そこで参考になると思ったのが、僕が98年にNYのオフ・ブロードウェイで観た『R&J』という作品なんです。男4人だけの「ロミオとジュリエット」で、こういうやりかたもありだなと思った。歌舞伎が、男性が女性を演じる全てでないように、宝塚が、女性が男性を演じる全てではない。異性を演じるスタイルはいろいろあっていいだろうと。

 それから、衣装や化粧など、宝塚が作り上げてきた見せ方がありますが、それも一回白紙に戻します。宝塚も92年前、白紙の状態から始めたのですから。そこからもう一度スタートしてみたいと思ったんです。その試みは冒険ではあるけれど、宝塚にとっても意味のあるものになるだろうと。
――その冒険を、モーニング娘。なら成立させられると思った理由は?
 まず声ですね。製作発表で一度、みんなで歌うのを聞いたんですが、そのときの若葉が繁っていくようなエネルギーは感動的でした。それから訓練されている宝塚の生徒にはない良い意味での野性味がある。いちばんすごいなと思ったのは、瞬間の集中力。短時間で高いレベルに行ける。それはテレビの仕事をしているせいでしょうね。

 ただ基礎訓練が足りないので、ボイストレーニングとダンスのバーレッスンはもう始めてもらっています。すごいですよ。みるみるうちに上達してきます。やはり選ばれた才能のある子たちだなと思います。それからこの舞台には、ミュージカルスターのマルシアさんと宝塚のベテラン男役の箙(えびら)かおるさんも出演します。偉大な先輩たちの背中を見て、何かを学んでもらえたらと願っています。

  いのちを考えること

――人気アイドルたちだけに、客席は男性ファンで埋まりそうですね、
 それが楽しみなんです。宝塚も少しずつ男性ファンが増えてきましたが、戦前などもっと男性客が多かったそうですし。この作品で宝塚やほかの舞台にも興味を持っていただけたらと思います。
 それから、女性の観客にこそ、ぜひこの舞台を観てもらいたいですね。『リボンの騎士』というのは、マンガ史上でも初の長編連載少女マンガなんです。つまり宝塚というモチーフから少女マンガが生まれ、やがてそれが池田理代子先生の『ベルサイユのばら』を生み出し、また宝塚の舞台で花を咲かすという螺旋(らせん)を描いている。そう考えると『リボンの騎士』は、女性にとってこそ大きな意味のある作品だと思いますから。
木村信司さん
――そういう視点でいうなら、男女両方の魂を持って生まれてきたサファイヤは、ジェンダーの問題を抱えているとも言えますね。
 手塚先生は、ジェンダーの問題というより、二つの魂を持ってしまったことで浮かび上がる男性と女性の差を、見つめようとしていたのではないかと思うんです。しかし、連載マンガであったため、冒険部分が多くなっていって、その問題はだんだん見えなくなっていった。でも僕は、舞台ではその二つの魂というテーマに決着をつけたいと思っているんです。つまり男性、女性という以前に一人の人間であるということですね。
――そういえば、手塚マンガのヒューマニズムは、木村さんの作品とも共通しますね。
 いや、手塚先生はヒューマニズムと言われるのは嫌いだったそうですし、僕もそうなんです。人間とはなんなんだ、生きるとはなんなんだ、というテーマに添って一つずつ作品を作りたいだけなんです。その態度は、ヒューマニズムゆえではありません。ときには不条理を描くことすらあるのですから。
――最後になりましたが、具体的な演出、音楽、ビジュアルなどの構想を教えてください。
 音楽はポップス調のものを、いつも僕と仕事している甲斐正人が作ってくれます。演奏は生オーケストラで。モーニング娘。は、生オケで歌うのは初めての人もいるそうです。なにもかも冒険です。だからこそ楽しい。

 手塚治虫先生のご子息の手塚眞さんから「自由に作ってください。父は作品が古びていくのをいやがっていたので、古びた印象にだけはしないでくださいね」と言われたんです。ですからビジュアルについては、モード系で現代的な衣装で、でも夢々しさは残してと。やはりファンタジーですからね。それから天使のチンクは出しません。天使が出ると絵空事になってしまいますから。あくまでも人間の物語として描きます。

 上演時は夏休みですから、小さいお子さまからおばあちゃままで来てくれると思うんです。その人たちに手塚治虫先生の世界、善悪を描きつつも夢を忘れない、そういうものを見せたいですね。稽古中のモーニング娘。や美勇伝も、言えば言うだけすくすく伸びていって、人が成長していくことの素晴らしさを見せてくれています。そんな彼女たちの姿を見てください。それが手塚治虫先生の見たかったものでもあると思いますから。

木村信司さん動画メッセージ

インタビューの様子、読者の皆さんへのメッセージがご覧いただけます(3分15秒)

木村信司動画メッセージ

リボンの騎士 ザ・ミュージカル

期間:8月1日(火)〜27日(日)
会場:新宿コマ劇場(⇒劇場のHP

出演:モーニング娘。[吉澤ひとみ/高橋愛/小川麻琴/新垣里沙/藤本美貴/亀井絵里/道重さゆみ/田中れいな/久住小春]、美勇伝[石川梨華/三好絵梨香/岡田唯]、マルシア、箙かおる(宝塚歌劇団専科)、
特別出演:安倍なつみ、辻希美、松浦亜弥

原作:手塚治虫
監修:植田紳爾(宝塚歌劇団)
脚本・演出:木村信司(宝塚歌劇団)
音楽:甲斐正人
スーパーバイザー:手塚眞

公演の詳しい情報は⇒リボンの騎士 ザ・ミュージカル公式サイトでご確認ください。


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