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宝塚プレシャス

スペシャルインタビュー

宝塚歌劇団演出家50周年 植田紳爾さんインタビュー(後編)

(2006.12.16)
 インタビュー後編は、理事長時代に感じたジレンマについて、今、そして未来の日本演劇界と宝塚の関係について、最後に101本目の作品となる07年新春の月組公演『パリの空よりも高く』についてお話を伺いました。動画メッセージもあわせてご覧いただけます。 (取材・文:榊原和子)

  作劇と経営のはざまで

―― 作劇と演出だけでなく、興行にも気を配っていらしたわけですが、とくに理事長職の9年間は、アーティストと経営側という両方の立場のジレンマがあったのでは?
 ありました。必要以上に疲れましたね。他の人が作る舞台を観ているときに、「ああ、よくやったな」とかじゃなくて「どうしてこんなことが分かってもらえないんだろう」とか、そんなことばかり思うんです。自分なら直せますが、ひとの作品だからどうすることもできない。自分の作品以外の初日はぐったりと疲れ果てていました。

 経営だけの人ならもっと大きく捉えて見るんでしようが、仕事が同じだからこそ気になることがある。自分でもなるべく抑えようとは思いながら、穏やかではないんです。本当に葛藤でしたね。
植田神爾さん
―― 理事長の経験でご自身が変化したことがありましたか?
 具体的にはないのですが、どこかにあると思います。『風』を作っている頃と、経営側の目で見るのとでは、やはり違いますからね。それまでは、とにかくいいものを作りたいだけで来ましたが、9年間数字ばかり見ていると、今月どのくらいお客様が入った、ここはどうしてこんなにお金が掛かるのか、など気になって仕方ない。それが芸術家としての僕にとって幸せだったかどうかはわかりません。
―― デスクワークの合間に、作家の自分を取り戻すとほっとされたのでは?
 もっともっと作りたいという気持ちもあったし、逆に1本1本が大事ですから、丁寧に深く作らないといけないなという気持ちにもさせられました。書けるのは幸福だと感じていましたね。
―― 101本のなかで、植田さんご自身にとって忘れられない作品というのは?
 やはり天津乙女さん、春日野八千代さん、それに神代錦さんや南悠子さんといった大スターと仕事ができたことです。まだ新人で若い僕の脚本を、僕より深く読み込んで表現してくれるのを見て、ものすごく勉強になりました。

 それと、本当は飽き性な僕がここまで続いたのはどうしてかと考えると、宝塚の場合、どんどん出演者が若くなっていく。そういうまだ未知数の子たちの、いいところをうまく出してやりたいという気持ちでいつも作っていたから飽きないし、どの作品にも愛情があるんです。宝塚はスターが輝いてこそだし、生徒とともに作り上げてきたからこそ、いろいろな壁にぶち当たりながらも、続けてこられたんだと思います。

  現在と未来を考えて

―― この50年で外側の演劇と宝塚の関係にも変化がありましたが。
 すごく変わりましたね。時代も社会も、演劇も変わった。川口松太郎さん、菊田一夫さん、北条秀司さん、小幡欣治さん、榎本滋民さん、素晴らしい方々が以前はいらっしゃいました。

 でも一番の変化は、今はミュージカルの土壌がちゃんと出来て、その力が上がってきていることでしょうね。ブームになっている。でも、間違ってもらっては困るのは、海外のものであるミュージカルは成り立ちや歴史が違うし、日本のミュージカルとしての表現も作りかたもまた違う。

 宝塚も92年前から独自のミュージカルを、日本のお客様に合うようにと試行錯誤しながら続けている。ですから外部のュージカルと同じになってしまったらいけないし、宝塚の存在価値がなくなる。ミュージカルを勉強しても、そこに女性が男役をしているということや、宝塚のスタイルを大事にしてほしいと思っています。

植田神爾さん
 それから観客という点では、団塊の世代が気になっています。2015年には65歳以上が1500万人になるそうです。そのとき、ちょうど宝塚100周年です。
 僕も最近は平日昼間に─理事長時代には行けなかったのですが─、よく映画を見に行くんです。すると団塊の世代の方が多い。そのような人生経験のある方々が夫婦連れで来てくださって、面白かったというような作品を考えていくことも、これから必要かなと。

 『ベルばら』時代の観客は平均年齢が十何歳ということもありましたが、だんだん変わっていかないといけない。小林一三先生の理想とする、家族何代にも渡って愛される舞台作りがやはり目標だと思います。
―― 最後になりましたが、101作目の『パリの空よりも高く』は、菊田一夫さんの『花咲く港』が原作ですが、それを選ばれたのはなぜ?
 来年のお正月公演を、洋物で、と依頼があったとき、できれば明るくハートウォーミングな話を書きたいなと思ったんです。月組で瀬奈じゅんと霧矢大夢と大空祐飛、この3人が十分活躍できるもの、それなら軽いペテン師ものもいいなあと。

 それで、どんな話があるかなと考えて、若い設計家の話でいこうと思った。でも菊田先生に似たような話があったなと思い当たって、今の時代、似ていることは僕のような立場では許されない。だったら正面から使わせてくださいとご家族にお願いしようと。そうしたら「植田ならいい」と、場所をパリに変えるのもかまわないと言ってくださったんです。

 僕は、もともと、昭和という時代を伝えるのは同じ時代を生きた僕らの役目でもあると思っていて、『国境のない地図』(95年)でベルリンの壁の崩壊を、中国の現代史を『紫禁城の落日』(92年)で描いたりしてきました。その1つとして優れた作家も紹介したくて、去年の『長崎しぐれ坂』で劇作家・榎本滋民さんの本を取りあげました。

 今回の菊田一夫さんも、宝塚にはご縁の深いかたで、今、東宝で宝塚OGが活躍できるのも菊田さんのおかげですからね。菊田作品は、人間が丁寧に描かれているし、ヒューマンです。少し荒んだこの時代にこそ、ふさわしい演目だと思っているんです。

植田神爾さん動画メッセージ

インタビューの様子、読者の皆さんへのメッセージがご覧いただけます(5分46秒)

植田神爾さん動画メッセージ

宝塚歌劇月組公演
宝塚ロマンチック・コメディ『パリの空よりも高く』
〜菊田一夫作「花咲く港」より〜

期間・場所:
2007年1月1日(月・祝)〜2月5日(月) 宝塚大劇場
2007年2月17日(土)〜4月1日(日) 東京宝塚劇場
脚本・演出:植田紳爾

⇒公演の詳しい情報は宝塚歌劇団HP公演案内ページでご確認ください。


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