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宝塚プレシャス

スペシャルインタビュー

『PRIMARY COLORS』宝塚歌劇団演出家 正塚晴彦さん ― リアルな朝海ひかるを

(2007.4.27)
 宝塚歌劇団の作・演出家として、数々のヒット作を生みだしている正塚晴彦。彼の名はこのコーナーのOGたちのインタビューにも、大きな影響力を与えた存在として何度か登場してきた。その描き出す世界は、デリケートなニュアンスに富んだ会話や、人間を見る目の優しさ、深さがあり、独特の世界観で彩られている。そんな彼が、退団したばかりの元雪組トップスター朝海ひかるの外部での第一作『PRIMARY COLORS』を手がけることになった。バウホールや本公演で、朝海とは印象に残る仕事をしてきた演出家だけに、この舞台への期待は大きい。そんな正塚晴彦の今作品への取り組み、また彼ならではの作・演出論を聞く。 (取材・文:榊原和子)
 
正塚晴彦

まさつか はるひこ。宝塚歌劇団演出家。
76年、宝塚歌劇団入団。最初の演出作品は『暁のロンバルディア』(81年)。
以降の主な作品に『ロマノフの宝石』(89年花組)、『銀の狼』(91年月組)、『二人だけの戦場』(94年雪組)、『ハードボイルド・エッグ』(95年月組)、『バロンの末裔』(97年月組)、『追憶のバルセロナ』(02年雪組)、『ホテル ステラマリス』(05年宙組)、『愛するには短すぎる』(06年星組)ほか多数。

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PRIMARY COLORS
チラシ
東京公演:5月1日(火)〜5月6日(日)、ル テアトル銀座
兵庫公演:5月15日(火)〜5月16日(水)、兵庫県立芸術文化センター 中ホール
出演:朝海ひかる、中川賢、池谷京子、角川裕明、園田弥生、凜華せら
作・演出:正塚晴彦
※詳しくは宝塚プレシャスの公演案内をご覧下さい。

  朝海ひかるをどう見せるか

―― この仕事を引き受けられるときに、朝海ひかるの再スタートをどういう形に、と思われましたか?
 宝塚を卒業して1つ目の仕事というのは、いろいろな形があって、劇場でやるディナーショーのグレードアップみたいなことをやってしまえば簡単なわけです。でもそれもどうなんだろうと。
 難しいですよ、やっぱり特殊ですから。あれだけ長く宝塚にいて、男役で主役をやってきたわけだし。それに、観に来る人たちの心境も複雑だと思うんですよ。退めたのにまた男役時代に近いものをやったら、それはそれで安心できるかもしれないけれど、内心では退めたんだからカッコイイ女として歩いてくれという気もあるだろうし。
―― ファンは両方で揺れるでしょうね。
 今まで好きで観てきたコム(朝海の愛称)と違うというのも苦しいだろうし、中途半端なものをやってもしようがない。それに女優としてやっていくなら、これまで応援してくれた人たちだけではなく、新しい観客のことも意識していかないと。
 でもニーズばかり考えてたら難しくなるだけだから、僕自身の気持ちとして、やりたいこと、やらせたいことをスタッフと相談しながら、アイデアとして出していったんです。
―― 朝海さんは、そういうとき自分のアイデアとか出す人ですか?
 最初から、こういうのをやりたいと言ってくる人ではないです。
 だからといって何も思ってないわけではない。自分の思いにぴったりのものを立ち上げてくれるのが、いちばんいいと思っているんじゃないかな? それで違ってて我慢できなくなったら言ってくるんじゃないかと(笑)。
―― 朝海さんとは、いろいろ仕事してらっしゃいますよね?
 いちばん最初は花組でしたね。『メランコリック・ジゴロ』(93年)の中で一言セリフを言っていたのを覚えてます。「もう1杯飲んでいいか?」という(笑)。
―― まだ女の子っぽかったのでは?
 いや、仕事場ではいちおう男役として見ていたから、とくにそういう印象はないですね。まっすぐにセリフを言うなと思った。へんに芝居をしようとしないのがよかったです。
―― 朝海さん自身、正塚作品の『Romance de Paris』(04年)のヴァンサン役が好きだったと言ってますが、その前の『追憶のバルセロナ』(02年)といい、朝海さんの内面というか骨太な強さみたいなものが出ていた気がします。

『追憶のバルセロナ』(2002年6月4日朝日新聞夕刊より)

 

『愛するには短すぎる』(2006年10月31日朝日新聞夕刊より)

 結果としてそうなっていたらいいんですが。でも確固とした何かがあってそうしたわけでもなくて、言ってみればヤマカンだから(笑)。普段から有形無形の情報は本人から受け取っていて、その人が主役だということになったときに、その人だったらという感じで書いていくわけです。宝塚歌劇は当て書きですからね。

 コムの場合、あまり自分からは何も言ってこないけれど、自分がないわけではなくて、むしろ芯が強い。おとなしいけれどおとなしいだけではすまない何かがあるし。いい意味で個人主義だと思うし…などという説明はできるんですが、でも『Romance de Paris』ヴァンサンに、どのようにしてなったかということは、うまく説明できない。
―― いい演出家は役者の魅力を引き出しますよね。とくに正塚さんはそれがうまくて、本質を見抜く力や洞察力がすごいなと。
 いや、まぐれでしょう(笑)。去年の湖月わたる『愛するには短すぎる』にしても、湖月をよく知ってると思われたみたいだけど、ほとんど一緒に仕事していないし、ちゃんと話したこともなかった。ただこんな感じかなというだけで書いてるわけです。あとは演じる側が自分に近いところでうまく作ってくれるんじゃないかな。役者が自分でもわからないうちに、これは自分そのものだと思いこんでやってくれれば、それがいちばんいいわけですから。
―― 『PRIMARY COLORS』の構成ですが、具体的にはどんなふうに?
 根本は1人芝居といえばいえるんですが、芝居のようで芝居でないというか、本当のようで本当でないセリフというか。そういう感じのやりとりで、全部フィクションなんですが、観てる人には本当に思えるような作りにしたいなと。
 たとえば退めたコムが、女優になろうとしたときに思うであろうこととか、不安だとか、勝手が違うことによるストレスとか、そういう彼女の中にあるものを芝居にしたら、観ている人たちはなんとなく「そうなんだろうな」と思うだろうし。それを面白く観せられればいいなと。
―― リアル朝海ひかるというか、ドキュメントふうですね。
 ヘタしたらシャレにならないけど。でもフィクションですよというのを楽しんでもらえるように作りたいなと思ってます。
―― ショーもあるんですか。
 2幕目にあります。
―― 朝海さんは優れたダンサーでもありますよね。
 在団中から、踊りにはとくに素晴らしいものがありましたが、でもこれからダンスで進んでいくとなると、外には本当にすごい技術を持っている人が沢山いるから、きっとそれなりに葛藤は生まれると思います。ただ、そういう葛藤はあるほうがいいし、ファンも朝海ひかるへの見方が変わっていったほうがいいと思っています。
 女優としていろいろなことをしているのを、あれは似合わないわよねとか、あれはかっこいいとか、そういう表層的なことだけでなく、いろいろな思いもあるんだろうなという葛藤の部分も含めて見てくれたらいいんじゃないかな。
 この舞台も、たとえば男役時代の格好で出てこなくても、そこに至るまでの思いを伝える方法はあるわけですし。いろいろな角度での受け止め方をしてもらえるようにという気持ちで書いているんですが。そういう中身も実はフィクションだし、でっち上げで、僕の想像でしかないんですけどね。
―― いろいろ考えると、第1作を引き受けるってプレッシャーでしょうね?
 ま、こけたらこけたで次があるから。そちらで取り返してもらって(笑)。

  才能なくはない!?

―― いつも正塚さんの作品に思うのですが、人間をよく見ているなと。ふだん参考にされているとか、よくご覧になっているものは?
 映画はけっこう見てますね。舞台は選んでしか観ない。高いから(笑)。評判とか自分の勘で面白くないだろうなというのは観ないですね。
―― 舞台のジャンルは?
 全然選ばないです。好きなのはシルク・ドゥ・ソレイユ、あそこは絶対はずれないから(笑)。あとは NODA・MAPもいつも面白いと思います。
―― 正塚さんが作品を作る動機も伺いたいのですが。仕事なのか、素材がそこにあるからか、何かを書かずにいられないからか?
 書かずにいられないことはないな。
―― これだけの量と質を書いてる人がそんなはずはないでしょう?!
 いや、ほんとだって(笑)。やむにやまれないなんてものはないから。
―― 最初の志望は作家、演出家、役者、どれだったんですか?

『2人だけの戦場』(1989年12月18日朝日新聞夕刊)


『ロマノフの宝石』(1994年2月1日朝日新聞夕刊)


『バロンの末裔』(1997年1月24日朝日新聞夕刊)

 最初は役者になりたかった。日大芸術学部の演劇学科でしたから。でも大学1年で向いてないと思って、ちゃんと就職しようと。スーツ着て髪も切ってリクルート活動(笑)。でもオイルショックの時代で試験は全部落ちて、最後に受けてみた歌劇団にうまく引っかかったわけです。試験は小論文と脚本と筆記だったかな。次の年にたしか小池修一郎くんと中村暁くんが入ってきた。
―― 役者やろうということは演劇青年だったんですね?
 いや、テレビタレントってかっこいいなくらいの考えです(笑)。
―― 入ってからデビューも早かったし、1作目からすぐに評価されましたね。自分の作・演出の才能をどう感じました?
 『テンダー・グリーン』(85年)が大劇場デビューで、その次が『ロマノフの宝石』(89年)かな? その頃って、なんかわけわかんないもの書いてると思われていたし(笑)、事実、自分でも全然才能あるなんて思えなかった。わりと最近ですよ。「あ、才能がなくはないんだろうな、ここまで続けて来られたんだから」と思ったのは。「それなりになんとかなっている、ダメというわけではなかったんだな」と思えるようになりました。
―― そう思えなくても、でも作り続けてはいたんですよね?
 毎回、とにかく必死なわけですよ。仕事に入ったらまず話を考えるという作業があって、その時は自分で「つまらねえな、こんなの」と思いたくないですよね。それで一応面白いなと思える本を書いて、出演者がやってくれているのを見たり、音楽も入ってきたり、そうするとまた、作品の良い悪いが自分でわかるようになるから、それを必死で直していったりとかするわけです。
 いつも思うんだけど、もし神様がお前の書いてるのは面白いからと言ってくれれば、もう少し早く本を書けると思うんだけど(笑)。
―― ぎりぎりにならないと書き上がらない人って、自分で「これで上がり」と思えない場合が多いですね。
 苦しいですからね、書くのは。それがわかるから、まだ時間があるなと思うと他の何かをやって遊ぶわけですよ(笑)。一応その間も考えてるわけだし、諦めるための時間でもあるんですが。でも結局皆に迷惑かけることになるし、スタッフにも火事場の馬鹿力を出してもらうことになる(笑)。だから、もうこんなシンドイ仕事やめよう、人に迷惑かけるからやめようと思いつつ。
―― その場から逃げ出さなかった。やめなかったのは、やっぱり宝塚が合ってたんでしょうね?
 いいところですよ(笑)。ほかを経験してないからわからないけど、いい表現の場を見つけたと思いますよ。なんとか仕事にしてられるわけだから。

インタビュー後半は、久世星佳さんや成瀬こうきさんら多くの宝塚男役を輝かせてきた『正塚スタイルの秘密』についてじっくりお話を伺いました。


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