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宝塚プレシャス

スペシャルインタビュー

『PRIMARY COLORS』 宝塚歌劇団演出家 正塚晴彦さん(後編) ― 宝塚男役を育てる演出

(2007.5.14)
 朝海ひかるの退団後初舞台となる『PRIMARY COLORS』を手がける宝塚歌劇団演出家の正塚晴彦さん。インタビュー後半では、久世星佳さんや成瀬こうきさんら多くの宝塚男役を輝かせてきた『正塚スタイルの秘密』についてじっくりお話を伺いました。 (取材・文:榊原和子)

  正塚スタイルの秘密

―― 宝塚は男役というスタイルのしばりがあるわけですが、それは演出家としてどう受け止めていたのでしょうか?
正塚晴彦さん
 助手をしていて自分の作品を出す前は、男役というものに違和感を持っていたところもあるけど、自分で書くようになってからは、あるがままに受け入れるというか、実際やりはじめてしまったら、火がついてるわけですから見ているわけにはいかない。やるしかないでしょう。
―― ところが、その正塚さんの演出によって、宝塚の男役が育ちもすれば、成長することになった。
 いや、それはどうかわからないけど。なんて言えばいいのかな、怪我の功名でしょう(笑)。結果がよかったというか。
―― 久世星佳さんとか成瀬こうきさんの取材で、無理せずに男役を楽しめるようになったのは正塚作品のおかげと。いわゆる型芝居みたいなものは削ぎ落とそうとしますよね。その結果、逆に男性らしさが出てくるのが面白い。
 型でやるのは見てて面白くないし、説得力がない、どういう気持ちなのかわからない。それをわかるようにするには、というだけなんですけどね。

 わりと最近言葉にしたことで、なぜ僕がそういうやりかたなのか、出演者にそうさせるかということですが、舞台って嘘でしょう? 先人たちがさんざん言っていることなんですが、舞台は虚構の世界で、それは皆知ってるわけですよ。だからこそ、そこでやってるやつが嘘っぽいことしてどうするんだと。虚構が成立しなくなるわけだから。嘘だと思うことを本気でやってるというので、観ている側は驚くわけですよ。
―― 舞台上でその時間を本当に生きるということですね。
 たとえば「お前を好きだ」と、その瞬間は本気で言える。生まれつきそういう風に言える感性を持っている人もいるし、たまたまそうなる人もいる。でもそれを観た側は、嘘だと思って観ていることをそのときは忘れる。それが虚構が成立するということでしょう。
 でも“好きそうに言う”ことはインチキだから観てても面白くない。本気でそう言える役者のほうが面白いに決まってるんです。それは現代物だろうが、古典だろうが、そのときに役者がやらなければならないことという点では同じで。
 いかに役者がそこで本気でいられるかなんです。照明だって装置だって、そこにあるものは全部本物じゃない。でも役者は生きている。だから役者が本物になれば、今まででいちばん綺麗な夕焼けとか、いちばん美しい夜明けとか、そういうイメージを喚起できるわけですよ。だから役者の芝居は本当でないといけないんです。
―― 宝塚の男役像には、まだ大げさな型芝居が要求される部分もありますが。
久世星佳さん
久世星佳さん

…やはり正塚晴彦先生とご一緒したのがきっかけですね。「あ、がんばって“男役”することないんだ」と思ってから、男役で芝居するのが面白くなってきたんです。(インタビュー「スター列伝」より)

 それはプロセスだと思うんですよ。結局、あれはよかったよねとか、いい役者だったよねという意味では、結果はそう違わないと思います。最後は同じようなところに行こうと思っているはずだし。

 もちろんそのやり方で、なぜこれが必要なのかわからないまま、ただ鵜呑みにして、ロボットのようにセリフを言うこともあるわけです。でもそれだって何回もやっているうちに役者の内部で消化されてくることもあるわけで、公演回数を重ねれば、少なくとも“覚えたことをちゃんとやらなきゃ”ということからは解放される。自由になればエネルギーは別のほうに、やりとりのなかに純粋に向いていくわけです。だから、演出の方法が違っていても最終的にたどりつくところはそう違わないかなと。

 ただ僕はできれば最短距離を通りたい。でもそうすることに違和感や抵抗感をもつ人もいるし、「そんなの芝居じゃないでしょう」とか思う場合もあるでしょう。
―― リアリズムをいかに獲得するかという方法論としては説得力あると思います。
 役者ってやらなくてはならないことはすごく多いわけですよ。舞台上の時間は限られているし、セリフも決められている、段取りをはずすことは出来ない、声をちゃんと出す、ダンスをする、歌を歌う、そういう全ての舞台上の制約が役者の足を引っ張る。でもそれを超えていった先に役者が到達すべきところがあるわけです。だから僕も声を出させるし、発音の悪いやつは直すし、動きも全部つけていく。
―― そういえばアドリブ禁止と聞いていますが。
成瀬こうきさん
成瀬こうきさん

…私は恩師だと思っているんです。つまづいたときに正塚先生の役に当たると一から洗い直してもらえるのと、自然に無理をしないで芝居をさせてもらえたことで、芝居好きになれたから。(インタビュー「スター列伝」より)

 セリフ以上に面白いアドリブなんて聞いたことがないから(笑)。役者が生を見せればいいわけではないし、毎回毎回違ったらいいかといえばそうではないし。この場面ではこういう感情になってこうしゃべるというのを、ちゃんと分析して覚えるわけです。
 たとえば自転車をこぐこととか泳ぐことって、10年やってなくても忘れてないじゃないですか。そういうふうに全部を覚えて舞台に立つわけです。そのための稽古で、だからいつでも稽古は足りない。再演すると新しい発見があるのは、役者が覚えることから解放されていくからなんです。結局こういう全てを乗り越えていくことはすごく力のいることでもあって、それを乗り越えてきたエネルギーが観客に伝わる、それで感動するんだと思うんです。
―― とてもわかりやすいし、実践しやすいですね。
 実際の稽古はそんなにシステマティックではないし、これまであまり言葉にはしてなかったんですけど、宝塚音楽学校に教えに行くようになってから、言葉にしないといけないなと思うようになった。まだ客席の感覚に近い子をたちを教えるわけですから。客席にいるということは、“それらしくやってるんだろうな”と思っているわけで、“それらしくやる”方法を覚えようと思ってる子たちに、それは違うんだということをまず説明していく。必要に応じてこうなったんです。

  目が点にならないように

―― 話を聞けば聞くほど舞台がお好きだし、いろいろ考えてらして、やはりこの仕事につくことを運命づけられていたのでは?
 いや、どうせなら、もっと儲かることないかなと(笑)。この仕事でももっと売れたいし、お金になる仕事も来たらいいなと思ってます。でもそのために自分で道筋を作っていこうとは思わない。今は、逆にあと何本くらいやるのかなという感じですね。
―― でもオファーがあって興味あれば、死ぬまで続けていきたくありません?
 それはそうだけど、もっと若くてセンスのある人が出てくるでしょう。現に宝塚でも僕の作ってるものは古くなってるかもしれないし。
―― と言いつつ、このあと月組本公演もあるし、来年はまた外部の仕事が待っていると聞きますから、簡単には休めませんね。
 まあ、これしかないですからね。ヒマがあればそれはそれで楽しいけど、仕事がくると嬉しいというのもあるし(笑)。それで、またしんどくて後悔して(笑)。まあ後悔したのは若い頃ですけどね。本当にスタッフの皆には迷惑かけたから。
―― 今回の『PRIMARY COLORS』も皆が待っていますから。
 そういえば、さっきの演劇の話でいえば、コムは僕の芝居の方法をすぐにすんなり受け入れた。それで宝塚の男役をかっこよく成立させていた。そのときと同じ価値観で、今度はもっともっと女である自分として、本来の自分に近いようなところでやるわけですから、それがいいほうに出てくれたらいいと思ってます。
―― お互いに1つ先に進んだものが作り出せればということですね。
 そうなればいいと思う。それから初めて共演する人たちがいるから、それをどう感じていくか、お互いに違和感があるのもいいと思うし。あとは観にきた人たちの目が点にならないといいですけどね。「コムちゃんのリサイタルじゃないの?」とか(笑)、「なんなのこれは?」とか(笑)。
ビジュアル

PRIMARY COLORS

東京公演:5月1日(火)〜5月6日(日) ル テアトル銀座
兵庫公演:年5月15日(火)〜5月16日(水) 兵庫県立芸術文化センター 中ホール
出演:朝海ひかる、中川賢、池谷京子、角川裕明、園田弥生、凜華せら
構成・演出:正塚晴彦

⇒公演の詳しい情報は宝塚プレシャスでご確認ください。



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