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宝塚プレシャス

スペシャルインタビュー

『MAHOROBA〜遥か彼方YAMATO〜』演出・振付家謝珠栄さん―過去と未来を行き来する

(2007.7.21)
 演出家で振付家の謝珠栄が、初めて宝塚のショーを演出する。これまでドラマのほうでは『黒い瞳』『凱旋門』『激情』といずれも評価の高い作品を演出し、自らが主宰するTSミュージカルファンデーションでは、『天翔ける風に』をはじめとするクオリティの高いオリジナル・ミュージカルを発表し続けてきた。また振付家としては、宙組発足時の「明日へのエナジー」や、湖月わたるを送り出した「惜別」に代表されるダンスの名場面を、いくつも生みだしている。そんな謝珠栄が、初めて取り組むショー『MAHOROBA〜遥か彼方YAMATO〜』の演出・振付の構想とは? (取材・文:榊原和子)
 
謝珠栄

しゃ・たまえ。演出・振付家。TSミュージカルファンデーション主宰。
71年、宝塚歌劇団入団、75年に宝塚歌劇団退団後、ニュ−ヨ−クへ留学。
78年、東京キッドブラザースの『冬のシンガポ−ル』で振付家デビュ−。その後、小劇場から宝塚歌劇団、東宝他大劇場のミュ−ジカルの演出・振付家として活躍。
93年、演出家として第43回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。95年、第20回菊田一夫演劇賞を受賞。

98年、宝塚歌劇団OGとして初演出・振付作品『黒い瞳』(月組)の演出振付を担当。そのほかの主な宝塚歌劇団演出・振付作品に『激情』(99年宙組)、『凱旋門』(00年雪組)ほか。

また「TSミュージカルファンデーション」主宰として、オリジナルミュージカル作品も多数手がける。その主な作品に『YESTERDAY IS…HERE』(95年)、『天翔ける風に』『DAWN』(01年)、『フォーチュン・クッキー』(02年)、『タン・ビエットの唄』(04年)、『Miss Saikon ミス再婚』『AKURO』(06年)ほか多数。

07年、宝塚歌劇団OGとして初企画・演出・振付作品『MAHOROBA ─遙か彼方 YAMATO ─』(月組)を担当。

  ヤマトタケルの生涯を描く

―― ショーですが、物語がありそうですね。

 日本神話「古事記」に基づいた、日本誕生の頃の話なんです。神代の話だけど遠い未来の話にも見えればいいな、という感じに作ってあります。過去と未来、北と南を行ったり来たりする、そういうものを考えています。

 主人公はヤマトタケルで、それは瀬奈じゅんにやってもらうのですが。最初のほうでイザナギにもなってもらうほかは、ずっと通し役です。最後は戦いに赴いたヤマトタケルが、歩けなくなり、都に帰れないまま死んでいく。そこなどとてもドラマティックですから、瀬奈じゅんがどう見せてくれるか楽しみです。

―― 中身のほうは、伝統芸能、民俗芸能にスポットを当てるというのがコンセプトですが?

 民族舞踊的なショーを、と企画したときにまず思い浮かべたのは、宝塚ではかつて演出家の渡辺武雄先生(現歌劇団名誉理事)が、有名な民族舞踊シリーズをされていることです。『火の島』(1961年)というのがその代表的作品なのですが、日本全国の郷土芸能を全部掘り起こされて、素晴らしいショーを作られているんです。しかも現地のかたがたを宝塚まで連れてきて、生徒さんに見せたりして作られているわけです。

 先生が集められた資料をいろいろ拝見したんですが、当時とは時代も変わっているし、民俗芸能をそのまま伝承するのではなく、新しいエッセンスも加え、もっと作り替えたものをと思ったのです。

 それにいつも私が振り付けているのは洋舞ですが、今回は、各国の民族舞踊と洋舞を足した形にしてみたらどうだろうと考えたんです。だから中国舞踊とかインド舞踊の要素をいっぱい入れています。それに日本の郷土芸能的な振り、棒踊り、花笠踊り、剣舞いなどもとり入れつつ、おもに自分の創作をもとに構成していこうと。

―― 全体の印象はアジア的ですか?
 そうですね。いろいろアジアの踊りを研究させてもらったから。そのうえで自分のオリジナリティ溢(あふ)れる振りを作ろうと思ってます。
―― もしかして生徒さんは相当高度な踊りを踊ることになる?
 そうです。首の動かしかたでも、あるときは日舞風、あるときはインド風、また、中国風や西洋風と多種多様なものが要求されます。
―― ヤマトタケルというと、神代を思い浮かべるんですが、衣装などはシンプルな舞台なんですか?

 全然シンプルではないですね。中国の華麗な雰囲気もあるし、たくさん神様を出しているシーンでは、洋物の衣装も使うし。どちらかといえばオリエンタルでゴージャスという感じ。

 日本の着物はあまり出てこないです。いちばん最後だけ、ヤマトタケルの死を象徴するシーンがあって、そこだけ椿と日本の着物をモチーフにしています。それとショーの前半のほうでヤマトの国に出てくる天女の人たちは、ズボン風というか、スパニッシュ風のお引きずりを着ているんです。そのお引きずりはこだわって、新しく作ってもらったんです。ショーはやはり目で楽しむ部分も作ってあげないと。オリジナリティあふれるものに仕上げたいけれど、さてどうなることか…(笑)

―― なんだか華やかそうで、楽しみですね。謝先生の振付は、いつもフォーメーションが変化に富んでいて、うまいなあと。

 いやー、へたくそよ。どうしてもっと簡単に作れないのかと思うもの。へんなところにこだわって作るから。

 また、今回は私得意の盆回しを1回しかしません、映像を使うので。そのかわり上下のセリを使う。映像は奥秀太郎くんなんですが、映像がそのシーンのセットに次々と変わる絵を提供してくれて、変化する情景を作り上げてくれます。あのセリが上がり、このセリが上がり、こちらが下がり今度はこちらが上がるとか。めまぐるしいです。

―― 現代的な感じでもありそうですね。
謝珠栄さん

 神代の話ですが、同時に未来につなげるイメージだから。ヤマトタケルという主人公ではあるけれど、はるか未来の話を見ているような気になるかもしれない。ある意味の“遥か彼方”ヤマトです。

 日本の美しい四季って、いわば生命が滅びてまた誕生する甦りでもあるんですが、(死んだ)ヤマトタケルが白鷺(しらさぎ)に姿を変えて、また飛んでいくという場面があって、そこがちょうど人生と宇宙がうまく重なって描けていると思います。

―― そういう構成はいつ頃から考えていらしたんですか?

 去年、だいたいの構成案は出してあったんです。宝塚では、台本はいつもあとになることが多いんですよ、とくにショーは。でも私は先に台本を書いてしまって、音楽も全部オリジナルなのですが、吉田優子さん、斉藤恒芳さん、三味線の上妻宏光さん、3人のかたに3月に音楽構成案を作ってお渡ししておいたんです。歌詞ももちろん書いて。

 つねにそれくらいのペースで私は作るんです。なぜかというと振付もしているから、現場ではそちらに時間が取られる。だからその前に演出的な仕事はすませておかないとだめなんです。

―― 月組とのお仕事は久しぶりだそうですね?

 たぶん1999年の『黒い瞳』以来かな。その頃研2くらいだった子が今はかなり上級生になっていますね。

 瀬奈じゅんとは花組の1994年の『火の鳥』以来。その後も舞台は観ていたけれど、一緒に仕事するのは久しぶりです。この組はダンスの力があるし歌える。それに男役も女役も充実してるから、その力をうまく出してあげられたらと思います。

  クリエーターのあくなき追求心

―― 謝先生は、いつも企画や作品のイメージをすごく明確に持っているし、それがとても伝わりやすいですね。
謝珠栄さん

 いちばんの強みは、振付をやっているせいでしょうね。人の流れが浮かぶし、衣装も自分たちが着て踊るからこだわって作る。こうあってほしいなというイメージを持ちやすいんです。

 それに、想像の中で人を動かすことができる。静止画ではなく動く画を思い浮かべられるんです。それはほかの演出家のかたたちよりも強みですね。台本を書くだけの人は、リアルな人の動きは作れますが、舞踊的な表現としての人の動きはそもそも発想できないと思います。とくに大勢のアンサンブルの動きは…。

 でも私、ちょっと足を悪くしていて、今、あまり動けないのがくやしいんです。自分が動いてみて作っていたのが、そうはいかなくなってしまった。そこで今、“動かないからこそ”という、別の方法論を生みだしていきたいとも思っているんです。

―― たとえば、どういう方法ですか?

 身体が動いているときは、身体全部を使う振付をまず考えていたけれど、身体全部を使えないときにどういう表現ができるか、ということなんです。たとえば足をあまり使わないダンスとか、上半身だけでも表現できる踊りとか。

 それで、浮かんだのがインド舞踊なんです。目1つ、手1つ動かすだけで表現できる面白さがいっぱいあって、研究していくうちにどんどんインド舞踊にはまっています。私、昔、アメリカに留学したときにも、インド舞踊に触れているんです。セントラルパークでフリーのダンスフェスティバルをやっていて、そこで見たインド舞踊の、手も足も細かい動きが素晴らしかった。いろんな神経を使っているし、どんな舞踊よりも一番細かくて綺麗、すごいなと思って見ていました。

 それからインドネシアにもいい踊りがいっぱいあって、今回、そういうものを洋舞のなかに入れていくということにチャレンジしています。目や手の使い方などに、アジアの人にしかできない動きがあるんです。アジアの人たちの血から出てきたもの、それを洋舞を学んできた私たちが、うまくミックスさせて新しいものを作り出す、それも大事ではないかと思っているんです。

―― それから、謝先生は、ご自分が主宰するTSミュージカルファンデーションでは、オリジナル・ミュージカル作りを意欲的にされてますね。とくに大型の商業演劇とはちがう手作りで良質の舞台を提供しようとしている。

 どうしても頼まれてする仕事って、自分の思ったようにはできにくい。でも自分たちのカンパニーだと、予算がないんだったらないなりに、なんとかしようとがんばる。そういう手作りのよさってあるんです。そして、そういうよさがわかってくれる人たち、それが好きな人たちばかり集まってくる。だから、多少予算はきつくても質のいいものを作れる場があるんです。豪華なものはないけれど、手で作った贅沢がそこにはある。

 たしかに企業からお金を出してもらえば予算はラクでいいけど、作るものを規制されることもあるから。自分たちでやると苦労するけど、その苦しさも誇りに思えるんですね。そういう充実感がなかったら本当に苦しいだけですもん、手作りなんて。

―― 妥協するくらいなら苦労してもいいというわけですね。
 うん、職人肌なのよね。でもそういう仕事に参加してくれるスタッフとかキャスト、それを観てくださるお客様がいて、初めて成立する仕事だから、本当にそういうかたたちに感謝しています。
謝珠栄さん
―― 現場でかなりしつこい演出だと聞くのですが よくみんなついていきますね。

 いや、実は途中ではみんな嫌気がさしてるかもしれない(笑)。でも出来上がった作品をお客様が喜んでくださると、やってよかったと思ってくれるみたい。そういうふうに、楽しいばかりじゃない作品作りの面白さに気づいたり、そこにこそ価値があるんだと思ってくれる人は、次もまた参加してくれるんです。

 やっぱり、そういうことに意味があるんだとクリエイティブな人たちが思う、そういう時代になっていかないといけないんですよね。ラクして沢山お金もらおうと思ったらそこで成長は止まるし、才能は吐き出すだけだといつかなくなる。でも辛いことを乗り越えていこうとするところで、また新しい物が生まれるんです。

 長くやればやるほど、そうやって苦労して次の一歩を踏み出すことの価値がわかる。そういう人が本当のクリエーターなんだと思う。お客さんはいつも新しい物を求めているし、だいたいの場合、若い才能でそれに応えていこうとするところが多い。でも本当はキャリアのある人が新しい物を作り出すほうが素晴らしいのね。新しい才能を優先して、古い人が切り捨てられがちだけど、そういう人たちの経験っていうのはお金で買えないものなんです。また、キャリアのある人たちで安定を望む人も多いけど、私は安定は望まない。それは苦しいことだけど、それをわかって喜んで観てくださる人たちがいるから続けていける。

―― 謝先生の舞台が好きな人は、本当にたくさんいます。今年は宝塚での作品だけですけど、来年早々、『タンビエットの唄』の再演があるんですね。

 そうなんです。これはずっと再演したかったもので、やっと再演できます。前に愛華みれさんが演じたベトナム人女性を、安寿ミラさんがやってくれます。

 来年はそのあと6月に新作もあります。久々に洋物のオリジナル、といっても原作は一応あって、それを視点を変えて演出します。今の日本の若者たちとダブらせているような作品です。

―― 演出もダンスの振付も、本当にエネルギッシュですから、今回のショーも楽しみです。
 よく言われるんです。お腹いっぱいすぎるって(笑)。でも、いっぱいご馳走したくなるたちなのね(笑)。もうこれは直らないでしょうね。

謝珠栄さん動画メッセージ

インタビューの様子がご覧いただけます(5分50秒)

謝珠栄さん動画メッセージ

宝塚歌劇月組公演
スピリチュアル・シンフォニー 『MAHOROBA』−遥か彼方YAMATO−

期間・場所:
2007年8月3日(金)〜9月17日(月) 宝塚大劇場
2007年10月5日(金)〜11月11日(日) 東京宝塚劇場
作・演出・振付:謝珠栄

⇒公演の詳しい情報は宝塚歌劇ホームページの公演案内でご確認ください。


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