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宝塚プレシャス

タカラヅカ★列伝

香寿たつきさん ― 男役の理想、女優の実感

(2006.12.30)
 三拍子揃うというけれど、いい役者でいいダンサーでいい歌い手、まるで奇跡に近いようなことが、香寿たつきの場合は成立していた。男役としてもアダルトで頼もしく強く、どこか渋さがあって魅力的だった。そんな香寿たつきが当然のように芸能界に転身してから、まもなく4年。ミュージカルから蜷川演劇まで幅広く活躍する女優の現在とこれからを聞く。 (取材・文:榊原和子/写真:吉原朱美)
 
香寿たつき

 香寿 たつき。女優。元宝塚歌劇団星組主演男役。北海道出身。
 86年、宝塚歌劇団入団。01年、星組主演。
 宝塚在団中の主な作品に「ベルサイユのばら」(89年)、「エリザベート」(96年)、「花の業平」「ベルサイユのばら2001」(01年)。03年「ガラスの風景/バビロン」を最後に退団。
 退団後は女優として舞台を中心に活動。主な作品に「天翔ける風に」「リチャード3世」(03年)、「屋根の上のヴァイオリン弾き」「ウエストサイドストーリー」「…and the World Goes 'Round」(04年)、「モーツァルト!」「10カ月」(05年)、「ミスサイコン」「オレステス」(06年)ほか多数。
 07年は「コリオレイナス」、「ジキル&ハイド」大阪・名古屋公演への出演が控える。

  蜷川演劇での変化

―― 2003年3月に退団して、すぐ謝珠栄さん演出の『天翔ける風に』で女優デビュー。当たり役でのスタートでしたね。
 この作品は専科時代の2001年に外部出演という形で、一度やらせてもらった経験があったんです。その作品が退団後の第一作になったのは、私にとっても女優を続けていくうえで、大きな一歩になりました。おかげでスムーズに女優になれたような気がします。
―― 次がいきなり蜷川幸雄さんの『リチャード3世』でしたね。
 それも『天翔ける風に』がきっかけでした。女優として、はたしてどこまでやっていけるかなと、手探り状態で歩きだしたのですが、たまたま『天翔ける風に』を放送してくれたBSのプロデューサーの方が、蜷川さんにビデオを送ってくださって、それを蜷川さんがご覧になったんです。それで『リチャード3世』のアンの役の候補に私の名があがったとき、蜷川さんが「ああ、いいよ」とすぐ言ってくださったそうで。本当にラッキーでした。
―― その蜷川さんの舞台も、9月の『オレステス』で2作目を経験されたわけですが、付き合いかたとか稽古場は変わりました?
 蜷川さんご自身は同じスタンスで、全然変わられていないとは思うんですけど、私自身は、最初の作品のときは、どうしても宝塚時代に培ったものが抜けなくて、演出家といえば偉い先生だし、言うことは絶対だと思っていますから、気軽に話しかけたりできる状況ではなかったんです。話しかけていくときは、全て「先生、私いかがでしょう?」みたいな感じで、かしこまっていましたね。実際の私の性格はそういうふうではないんですけど。だからきっと蜷川さんも本当は「バカ!」とか言いたかったんでしょうけど(笑)、そう言わせないものが私にあったと思います。

 それが『オレステス』で2年ぶりに蜷川作品で、私はもう「初めてなのでわからないんです」というのは許されない、本当の自分を知ってもらって、自分のよさを引き出してもらったほうがいいなと思ったんです。ですから、なるべく普通の私のままで接するように心がけて、少しは距離が近づけたような気がします。
―― 共演の藤原竜也くんなど、蜷川さんとよく話合うというようなことを聞きますが。
 竜也くんが、自分を見いだしてくれたのは蜷川さんであるという絶対の信頼を持っているのはそばで見ていてもわかりますし、尊敬しているのも見えますね。その上でわーっと言い合う、同志みたいな関係ですね。でも私も『オレステス』を経験したので、次の『コリオレイナス』は、もうそんなにかまえないで出来るのではないかと思ってます。
―― 『コリオレイナス』は唐沢寿明さんが主演で、その妻の役ですね。
 シェイクスピアのなかでも難しい政治劇なんですけど、まだ台本をいただいてないので、蜷川さんがどんなふうに演出なさるのか、ワクワクしています。蜷川さんにたくさん叱っていただきたいなと思っているんです。

  女優の居心地

―― たくさんのミュージカルにも出演されていて、今では男役だったことなどどこにも残っていないんですが、どんなふうに変身してきたのかなと。
香寿たつきさん
 実は昨日、東京宝塚劇場で星組の湖月わたるさんの退団公演を観てきたばかりなんですが。「ああ4年前までは私もここにいて、ばりばり男役やってて、それが普通だったんだなー」と不思議な感慨がありました。

 ただ、私の場合、舞台上では男であり男役なんですけど、ふだんはきわめてナチュラルというか、素顔の私でいたいというのが、自分のポリシーだったんです。ですから上級生になっていくとともに舞台では男らしくなっていくけれど、ふだんは、スカートとかパンプスこそ履かなかったけど、女性としての私を見せていたし、それはずっと変わらなかったんです。ですから演じる役が男役としての役なのか、女優としての役なのかの違いだけで、演じるスタンスとか楽しさは、宝塚も今もほとんど変わらないんですよ。
―― そういえば、女役もされてましたよね。
 『風と共に去りぬ』ですね。スカーレットのときは、女役は女役で楽しいと思いました。ただ、やっぱり宝塚の女役というものは独特な形があって、女優とは全然違うものでしたね。それを考えると、女役さんが宝塚を退めて普通の女優になるほうがたいへんかもしれません。私も、今はまだ男役から女優というものになれたという段階で、まだまだ、香寿たつきという色は、全然見えていないような気がしますし。
―― 男役では20年近いキャリアでしたが、女優さんとしてはまだ4年目ですからね。
 宝塚の下級生の時の、あのシーンのソロがもらいたいとか、あのダンスに選ばれたいとか、そうやってがんばっているときの充実感が、女優としての今の私の実感に近いかも知れないですね。
―― そういう意味では、トップ男役の香寿たつきは、ある完成というか行くべきところまで行ってましたね。
 私の男役の理想って、キラキラした飾りを一切つけない黒エンビで出てきたときに、何かが他の人たちと違うというか、視覚的な完成度にちゃんと内面が見えることだったんです。歩く姿だけでもそのスターが積み重ねてきたものがわかる、そういうスターになりたくて、ずっと努力していたし、そういう存在をめざしていたんです。そういうものが醸しだされるには、それまでの全てが大事だし、悲しみ、苦しみ、喜び、内面の全てが反映する。

 先日、星組を観たときも、湖月わたるさんが出てきたときに、そういうものが彼女にもちゃんと見えていました。「なってみないとわからない苦しみってあるんですね」と彼女が私に言って、私も一緒に泣いてしまったんですけどね。

 でも、宝塚で20年近くやって男役で1つの形ができるように、女優としても、20年先の私がどんな形を見みせられるかは、自分でも楽しみなんです。たとえば、ただ座っているだけでも存在感を出せる女優さんがいる。役の大きさとか重さじゃなくて、役としてそこにいることが自然に、そして、当たり前のようにいられる。そういう女優になれれば、それが理想ですね。

後編では、バレエが好きで好きで仕方なかった少女時代から宝塚入団までのエピソードや、入団後、異動を重ねて星組トップに就任したときのお話などを伺いました。動画メッセージもお楽しみに!

コリオレイナス

 2007年の香寿たつきさんのスタートとなる作品です。香寿さんは唐沢寿明さん演じるコリオレイナスの妻を演じます。

ビジュアル

埼玉公演: 2007年1月23日(火)〜2月8日(木) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
大阪公演: 2007年2月13日(火)〜18日(日) 大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
福岡公演: 2007年2月23日(金)〜27日(火) メルパルクホールFUKUOKA
名古屋公演: 2007年3月9日(金)〜11日(日) 愛知厚生年金会館
英国公演: 2007年4月25日(水)〜29日(日) ロンドン・バービカンシアター
演出:蜷川幸雄
作:W・シェイクスピア
出演:唐沢寿明 白石加代子 勝村政信 香寿たつき 吉田鋼太郎 瑳川哲朗 他
※詳しくは⇒公演情報へ


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