なんでもない作業机の上にただ置かれているだけなのに、“威光”があった。
ここは宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)3階にある衣装担当の部屋。宝塚大劇場公演で使う衣装を作る場で、「トップスターの羽根」が約1カ月かけて完成される場所でもある。
威光を放っていたのは、トップの羽根。大劇場で上演中のショー「ラブ・シンフォニー」(10月29日まで)のフィナーレで、花組のトップ春野寿美礼(すみれ)さんが身にまとっている。
というか、背負っている。
羽根の根元部分が集まる土台には、幅5センチほどのひもが2本取り付けられている。ひもは、総スパンコールのスーツの両肩部分に開いた切り目に通される。ちょうどランドセルを背負うような感じだ。
使っているのは本物のダチョウの羽根。触ってみると、ふんわり滑らか。においは、特になし。
担当の新居理江子さんは、アイロンの蒸気を1本ずつ当てて毛並みを整える。こうした丹念なお手入れがあり、タカラジェンヌたちは舞台でさらに輝くのだと改めて思う。
さて、作り方。
1本60〜70センチの羽根を2本使い、120センチの針金に糸と接着剤で固定する。それを計60本使い、扇のように隙間なく広げる。
さらに羽根の裏側には、長さ2メートルの別の羽根が8本、滝のように床へ向かって垂れている。これは「吹き流し」と呼ばれ、豪華さを際立たせるものだ。
スーツも合わせると総額百数十万円。高いのか安いのかよく分からないけど、とにかくこれほど立派なものは宝塚にしか存在しない。公演ごとにすべて新調するというから、レビューはお金のかかるものだと痛感する。
時代とともに、トップの羽根は大きくなっている。
いまは直径約2メートル、重さ15キロほど。「そのうち電飾でも埋め込まれたりして、とよく冗談で言うんです。ただ、羽根をつけて歩くと抵抗感もあるため、これ以上大きくするのは難しいのでは」と、新居さんの上司で宝塚舞台の松田浩一衣裳(いしょう)課長は言う。
400人を超える現役タカラジェンヌの中で、この羽根を背負うのは花、月、雪、星、宙の各組トップ5人だけ。細くて険しいいばらの道をくぐり抜けた人だけに許される証しでもある。
初めて背負うとき、たいていのトップは「重い……」とつぶやく。
両肩にずしりとのし掛かるのは、羽根の重みだけではなく、トップの重圧や孤独感、羨望(せんぼう)や哀愁もあるだろう。
すべて背負ってもあまりある活力をもたらしてくれるのが、この羽根の魅力でもある。
(文・谷辺晃子 写真・矢木隆晴)
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