単身での海外赴任、ストレス、アルコール、離婚…。うつ病になったエリート男性を救ったのは、専門病棟への入院でした。うつ病からの回復には、仕事や家族といったしらがみをいったん断ち切った環境が必要な場合があるのです。(文中の肩書き、年齢などはすべて掲載当時のものです)
福岡県大牟田市。市内を流れる堂面(どうめん)川が有明海に注ぎ込む河口に、その建物はある。
柔らかな曲線を多用し、屋根も壁も白色で統一。夜はライトアップされ、リゾートホテルと勘違いしてカップルが訪れることもある。外観からは、そこがうつ病治療の専門施設であるということを想像するのは難しい。
不知火(しらぬい)病院のストレスケアセンター「海の病棟」。89年に開設された。
「まったく新しい考えの専門病棟をつくりたかった」。徳永雄一郎院長はそう話す。
ユニークなのは外観だけではない。精神科病棟の「閉鎖的なイメージ」に反して、ここでは「完全開放型」の病棟を目指す。入院患者はいつでも敷地内の庭園を散歩して、四季折々の自然の風景を楽しむことができる。病院外への外出も原則として自由だ。
街に出た患者の自殺が増えてしまうのではないか――。「開放」を進めることに当初は心配もあったが、それは杞憂(きゆう)に終わった。「海の病棟」には今年1月まで2615人が入院し、自殺者は5人。同病院の調査で入院時に47%の患者が自殺を考えていたことからみると、低い数字だ。
うつ病で苦しんでいた川井田洋一さん(45)=仮名=がこの病棟を訪れたのは05年3月のことだった。
入院にはかなりの抵抗があり、訪問の直前まで「おれも落ちるところまで落ちたか」と自分を責めた。だが目の前にある病棟は、自分で勝手に思い描いていたイメージとはまるで違っていた。
「ここなら自分を救ってくれるかもしれない」
入院後、自由に外出できることも驚きだった。
絵に描いたようなエリート人生だった。志望した大学にすんなり合格し、「実力を試したい」と外資系企業に就職。結婚し家庭を築き、出世争いでも常に先頭を走った。
「すべてが充実し、まさに怖いもの知らずでした」
最初のほころびは02年冬。夫婦の問題で妻と衝突した。北京赴任の話が来たのはその頃。仕事上は大きなチャンスだったが、海外生活には不安もあった。「一緒に北京へ行ってくれないか」。妻の答えは「ノー」だった・・・
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単身での海外赴任、ストレス、アルコール、離婚…。うつ病になったエリート男性を救ったのは、専門病棟への入院でした。うつ病からの回復には、仕事や家族といったしらがみをいったん断ち切った環境が必要な場合があるのです。「患者を生きる」うつシリーズ[掲載]朝日新聞(2006年8月8日〜8月13日、5800字)
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