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医療・健康
朝日新聞社

がんと派遣社員 〜患者を生きる〜

初出:2011年5月31日〜6月5日
WEB新書発売:2013年4月15日
apital

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 銀行の派遣社員で二人の娘を育てるシングルマザーに乳がんがみつかりました。職場にはなかなか言い出せませんでした。仕事を失うことが怖かったのです。(文中の肩書、年齢などはすべて掲載当時のものです)


離婚から1年余、しこり


 左胸の上にある、「コリッ」とした感触。これは、何だろう――。東京都小平市に住む深澤みゆきさん(42)が左胸にしこりを見つけたのは4年前。風呂上がりに、体をふいていたときだった。
 高校を卒業後、大手都市銀行に就職。8年間勤めた後に退職し、生命保険会社で働いた。28歳で結婚。2人の娘にも恵まれ、04年から派遣社員として、再び別の銀行で働き始めた。
 だが翌年、結婚生活にピリオドを打った。働き方も短時間勤務から週40時間勤務に変えた。胸のしこりが見つかったのは、離婚から1年余り後。新しい仕事にも生活にも慣れ、ようやく一息ついたころだった。
 「まだ38歳なのに」。半信半疑で、顔見知りの産婦人科医院に行った。医師は超音波を胸に当て「たぶん、気のせいだと思うけど、専門医に診てもらった方がいい」と言いながら、紹介状を渡してくれた。
 地元の病院に行くと、週1回しか乳腺外科医は来ないという。ようやく予約が取れたのが07年5月。マンモグラフィー、超音波と検査を重ねたが、医師は首をかしげるばかりだった。
 細胞の組織を取って調べる細胞診まで進んだ。1週間後、結果を聞きに行くと、医師がやぶから棒に説明を始めた。
 「早期の乳がんですが、がんが胸全体に広がっているので、全摘しないと駄目ですね。手術しますが、数日で退院できます。体液は自分でカテーテルで出して……」
 ひとごとのように話す医師も、カーテンで仕切られただけの診療室も、嫌だった。
 友人に相談し、乳がん治療で有名な東京都内の病院で再度、検査を受けた。やはり結果は同じだったが、医師の説明の仕方は違った。「若くてかわいそうだけど、命を優先させるために全部取りましょう。乳房再建も考えましょう」。この先生にお願いしようと思った。
 職場にはずっと、がんの精密検査を受けていることは黙っていた。自分は派遣社員の身。がんであることを告げたら、すぐ辞めさせられるのではないか。そう思うと、なかなか言い出せなかった。だがいつまでも、隠し通せるはずはなかった・・・

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