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医療・健康
朝日新聞社

トイレを探さずに済むように 〜患者を生きる〜

初出:2011年6月7日〜6月12日
WEB新書発売:2013年4月15日
apital

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 直腸がんになった男性は、人工肛門ではなく、肛門を温存する手術を選びました。問題は日に10回以上の頻便になる可能性があることでした。(文中の肩書、年齢などはすべて掲載当時のものです)


転職直後、腸の異常が判明


 今日はちょっと、お尻の具合が良くないな――。
 そんな日の商談前、埼玉県所沢市の高垣諭(さとし)さん(41)は、顧客にそれとなく事情を説明しておく。「途中でトイレに中座させていただくかもしれません」
 5年前直腸がんと診断され肛門(こうもん)を収縮させる括約筋(かつやくきん)の一部を切り取る手術を受けた。肛門の働きは残せたが便をためる直腸を失ったため日によっては頻繁に便意を催す。「商談中に決壊するわけにはいきませんから」
 高垣さんは生花を長持ちさせるよう加工処理した「プリザーブドフラワー」を卸す販売代理店を経営する。昨年末に5年間勤めた輸入会社を辞め、独立した。関東一円の生花店やフラワー教室への営業や販売先の開拓に飛び回る日々だ。
 高垣さんの体に異常が見つかったのは、05年12月。前の会社で受けた健康診断の検便で、潜血反応が出た。1年ほど前から、大便にすっと赤い筋が入っていることがあり、腰や背中の鈍い痛みも続いていた。
 しかし、特に偏った食生活でもなく、大酒を飲むわけでもない。ストレスによる痔(じ)だろうと、気には留めていなかった。
 精密検査を受けようと、所沢市民医療センターに問い合わせると、内視鏡検査まで3カ月待ちだという。ほかの医療機関を薦められたが、病院探しに時間を取られるのが煩わしかった。
 花を扱う仕事を始めて10年以上。大阪に本社を置く輸入会社の東京営業所開設の話を聞きつけ「関東での営業を任せて欲しい」と社長に売り込み5カ月前に入社したばかり。仕事で結果を出すことが求められていた。
 当初の営業担当は1人だけ。多いときは1日5件の営業先を訪れ、商品リストの作成や説明資料の和訳などもこなした。
 「急ぐこともないだろう」。検査の予約だけ入れて顧客の新規開拓に打ちこみ、内視鏡検査を受けたのは3カ月後だった。
 腸の中で内視鏡があちこち角度を変えて動き回り、破けそうなほど突っ張っているのがわかる。痛みに耐えるのが精いっぱいで、腸内が映るモニターを見る余裕もなかった。
 「あー、これは。間違いないね」。1時間近くたったころ、医師のつぶやきで我に返った・・・

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