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医療・健康
朝日新聞社

カルーセル麻紀の激痛 ―閉塞性動脈硬化症 〜患者を生きる〜

初出:2012年3月27日〜4月1日
WEB新書発売:2013年9月30日
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 カルーセル麻紀さんの右足は歩くと痛み、一回り細くなっていました。運動をするとより痛みは強まり、どんな運動靴をはいてもだめ。四カ所目の病院で、「閉塞性動脈硬化症」と診断されました。(文中の肩書、年齢などはすべて掲載当時のものです)


「エアあやや」で痛み頂点


 タレントのカルーセル麻紀さん(69)は3年前の夏、パリのオペラ通りにあるなじみのレストランに向かっていた。毎年のように滞在し、歩き慣れた石畳。ところが急に右足全体が痛み出し、歩みが遅くなった。その場で休むと痛みは消えるが、10分も歩くとまた足が前に出なくなる。
 「何なの、その歩き方。運動不足じゃないの?」。一緒に歩いていた友人は麻紀さんを見て笑い、路線バスのチケットを買ってくれた。
 「何でもない距離なのに、バスに頼るなんて」。情けなかったが、酒とおしゃべりが弾むほどにそんなことは忘れてしまった。帰り道も何ともなかった。
 だが、右足の不調は帰国後もしばしば現れた。ふだんの生活やステージの上ではなんともないが、ちょっと長い距離を歩くと痛みが出る。
 1年後の2010年9月ごろ、かつてない痛みを、右のふくらはぎに感じた。よく見るとふくらはぎが一回りも細くなり、皮膚がたるんで垂れ下がっていた。年齢や運動不足で筋肉が落ち、筋肉痛が起きたのだと思った。
 「まるで鶏のトサカみたい。筋肉をつけなくちゃ」
 商売道具でもある脚線美を取り戻したい。戸棚から歩数計を探し出し、ウオーキングを始めた。ところが、これが逆効果だった。ウオーキングを重ねるほどに痛みが強くなり、痛みが出始めるまでの時間も短くなった。昔は1時間歩いても平気だったのが、たった数分、500歩ぐらいで動けなくなる。
 足を引きずるようにして公園のベンチや電柱にしがみつき、たばこを1本吸ってから、右の太ももを拳でバンバンたたく。そして10分ぐらい休むとまた歩けるようになる。靴が原因かもしれないと思い、運動靴を何足も買った。でも、どの靴でも痛みは変わらなかった。
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 昨年1月末には、ついに仕事にも支障が出始めた。テレビのバラエティー番組で、歌手松浦亜弥(まつうらあや)さん(25)の振りをまねする「エアあやや」を披露したときに、痛みが頂点に達した。
 後輩はるな愛(あい)さん(39)の出世芸。青地に白い水玉のミニのワンピースを着て、本物より大げさに踊る。激しい振りを2日間、猛特訓した。でも激痛で、振りを覚えるどころではない。ダンスのプロなのに本番でも曲について行けず、司会者から酷評された。
 「トレードマークの10センチのピンヒールがはけなくなったら、私の芸能人生は終わり」。つねづね、こう考えていた。「引退」の文字がちらついた。
 思えばむちゃな生活をしてきた。15歳から酒を飲み、30歳からは1日60本のヘビースモーカーに。付き合いで未明まで飲食することも多い。
 それだけに、自宅での食事には気を使ってきた。ご飯を食べるのは1日1回。午後6時ごろから約40分かけて、軽く1膳をいただく。あとは牛乳やヨーグルト、お酢、野菜ジュースを飲むだけだ。
 この食習慣や2時間の半身浴で、158センチ、47キロの体形を維持してきた。病気で仕事を休んだこともない。「健康管理は万全」と思い、健康診断も20年以上受けていなかった。だからこんな状態になっても、病院に行こうとは思わなかった。
 そんな考え方が変わったのは昨年5月。母の七回忌で北海道釧路市の実家に帰ったのがきっかけだった。
 親戚の子どもたちと遊ぶうちに、やはり右足に激痛が走り、立てなくなった。すると姉や弟が「自分も足が痛いんだ」と言い始めた。母も生前、足が痛くなり、カテーテル治療を受けていたことを初めて聞いた。「足の病気になりやすい家系なのかしら」。ただの筋肉痛ではないように思えてきた。
 帰京後、自宅近くの整形外科医院を受診した。X線撮影と血液検査を受けたが、痛みの原因はわからなかった。
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 そこで、30年以上の付き合いがある西田医院(東京都)の西田進二(にしだしんじ)院長(70)に相談し、「MRI検査が充実しているから」と、別の病院の脳神経外科を6月上旬に受診した。
 担当の若い医師は「座骨神経痛か、腰の部分のヘルニアかもしれません」といい、腰の画像をしばらく見つめた。しかし、明確な異常は見つからず、神経痛によく使われるビタミン薬を処方した。根本的な治療ではなかった。
 3歩歩いても右足が痛み、やがて、安静にしていても痛みを感じるようになっていた。「痛みだけでも軽くしてあげたい」と、西田さんは、NTT東日本関東病院(東京都品川区)のペインクリニック科を紹介した。
 医師に相談するのは4カ所目。そこで初めて、「閉塞(へいそく)性動脈硬化症」という聞いたこともない病名を告げられた・・・

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